【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ

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お昼なのに

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 確かキァナは帝太子の側近になるはずだ。

 帝都学院での3年間がゲームの舞台で、メイン攻略キャラは勿論帝太子だ。
 その側近たちやクラスメイトが攻略対象として、学院の先生や隣国エゥリケ王国の王子が隠しキャラとして登場する。
 主人公が奇跡の治癒魔法使いとして、平民として初めて帝都学院に入学してきて、恋が始まるという鉄板の展開だ。

 治癒魔法士は大変貴重な奇跡の子なので、どの貴族も欲しがる。
 逆ハーし放題な環境がばっちりの『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』
『一度に何人落とせるか、BLゲームマスターとしては挑戦せねばならぬ!』とか言ってプレイしてる時はウハウハで大変楽しかった。

「はー、ちっちゃいキァナ、かわいーな。おっきくなっても腰細いんだよなー」

 じゅるり。
 お、涎が。
 やばいやばい。12歳の反応じゃなかった。
 さらにお仕事中だった。
 
 透夜はあわてて口元を拭う。
 お仕事モードに切り替えだ。

「なるほど、伴侶候補でもあり、側近候補でもある訳か」

 となると、やはりここは、攻略対象勢ぞろいの場か……?
 いや、学院の教師や隣国の王子は流石に来ないだろう。
 隠しキャラだしな。
 隠れててもらわないと。

 透夜がうむうむしている間にも、眼下はどんどん賑やかになった。
 次々に馬車がやってきて、めかし込んだ令息たちが降りてくる。

『帝太子の伴侶になるんだ!』と意気込んで可愛く着飾っている子もいれば、親に無理矢理連れてこられたのだろう、ふてくされている子もいる。

 側近候補狙いなのだろう、帯剣している騎士見習いっぽい子もいて
「お預かりします」
 騎士に剣を取り上げられてた。
 お茶会だからな。

「く──!」

 悔しがっている赤毛は、見覚えがあるような?

 従僕が次々に呼んでくれる名と、帝太子の対応を書き留めていた時だった。


 殺気が、香る。

 影が、跳んだ。


 その瞬間、透夜は屋根から飛び降りていた。

 騎士は、間に合わない。
 敵が、速過ぎる。

 あれは、暗殺者だ。

 精霊さんに頼むより早く、意を汲んで透夜の願いに応えてくれる。

 ドォン──!

 風魔法の衝撃を背に加速、飛んだ透夜は振り下ろされた剣を止めた。

 ガキィ──!

「な、にィ──!?」

 闇衣の暗殺者が、目を剥いた。


 いや、昼間に闇衣とか、なくない?

 同業者として突っ込んでしまいながら

 ガァン──!

 暗殺者の剣を弾き飛ばし、返す柄でこめかみを横から思いきり殴りつける。

「が、は──!」

 昏倒する暗殺者を転がし、透夜に続いて降りてこようとしてくれた紅蓮と木蓮を、目だけで制した。

『暗殺者が他にもいるかも。そっちの捜索を頼む』

 言わなくても、唇を動かさなくても、視線だけで思考を読んでくれる。
 今までずっと、そうしてきたから。

 頷いた紅蓮と木蓮が散る。
 後方に展開していた仲間たちが、援護に前に出てきてくれる。


「……ぁ、トゥヤ……?」

 ちいさな声がした。

 陽の髪が、ふるえてる。
 見開かれた緑の瞳が、透夜を見あげた。


 ちいさな頭のうえには、ちっちゃな王冠が、ちょこんと載っていた。








────────────

 はじめましての方、いつも見てくださる方、ありがとうございます。

 昨日のお話で、作者の無知のために、斜視の方を深く傷つける表現があったことを、心からお詫び申しあげます。

 ほんとうに、申し訳ございませんでした。

 貴重なお時間を割いて読んでくださるあなた様を傷つけることのないよう配慮してゆきたいと心から願っているのですが、無知や勘違いでまた間違ってしまうこともあるかもしれません。

 その際はどうぞご遠慮なく指摘してくださったらと思います。
 ご指摘を、とてもありがたく思い、感謝申しあげます。

 読んでくださって、心から、ありがとうございます。

 

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