【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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ジゼ

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 薄紅のマルラの花に、染めあげられる日だった。

 ゲォルグとエィラの子が、うまれた。

 虹にきらめく魔力の繭を、ちいさな、ちいさな手が破りゆく。

「……っ!」

 はらはら見守るセバのまえで、愛するあるじの子が、うまれる。

 ゲォルグとエィラの魔力の繭からうまれた赤子のちいさな頭には、月の髪がふさふさしていた。
 ぱちりと開いた瞳は、透きとおるような蒼だ。

 まだほんのちいさい赤子ながらも、ゲォルグにとてもよく似ていた。

「あぁ……!」

 なんて、かわいい。

 あなたの子。

 とろけて笑うセバに、ゲォルグは驚いたように、うまれてきた子を見つめた。


「ぁーう」

 愛らしい声に、セバの顔が溶ける。

 ゲォルグとエィラ、ふたりの魔力の繭に包まれていたから、ふたりが分かるのだろうか。

 物怖じしない子だった。

 ちいさな手をいっぱいに広げて、ゲォルグの指をつかむ。


『自分の子』うまく受け容れられないようだったゲォルグに、ほのかな笑みが広がってゆく。


「ああ、僕の子──!」

 エィラがそっと、赤子を抱きあげる。

 うまれたばかりの赤子は、エィラを不思議そうに見あげた。


「ぁう?」

「おかあさんですよ。はじめまして」

 涙の滲む星の瞳で、エィラが笑う。


「あーぅ!」

 エィラの腕のなかで、ちいさな赤子も笑ってる。


「おめでとうございます!」

「おめでとうございます、ゲォルグさま、エィラさま!」

「よくやった、ゲォルグ」

「がんばったね、エィラ!」

 ジェディス家の皆も、エィラの家の皆も、抱きあって喜んだ。

 春のひかりに包まれてうまれた子を、誰もがお祝いする。

 赤子を腕に抱いたエィラは、しあわせにとろけるような瞳で、ゲォルグを見あげる。

「ゲォルグさま、名前は?」

 エィラの腕のなかの子を、ゲォルグは戸惑うように見つめて、ささやいた。


「……ジゼは、どうだろうか」


 ゲォルグの名も、エィラの名も、入っていなかった。

 よろこびに沸いていた皆が、顔を見あわせる。

 エィラの笑顔が、固まった。


「……ゲォルグさまの、仰せのままに」

 かすかにふるえるエィラの指が、赤子の髪を、そっと撫でた。
 






 ゲォルグとエィラの子は、ジゼと名づけられた。

 ドディア帝国魔導院から帰ってすぐ、セバはジェディス邸のメナの執務室を訪ねる。

「どうしてゲォルグさまの名も、エィラの名も入っていない名を、お子さまに?」

 心配で聞いたセバに、メナが吐息する。

「……ゲォルグさまは、とても優秀でいらっしゃるのに、ご両親やノザさまと比較しすぎて、ご自分を凡人だと思われているから。ご自分の名を入れないことで、優秀な子をと願われたんじゃないかな。母上のジーグさまと、ジェディス家の『ジ』を入れられてる」


『ゼ』は?

 聞いてはいけない気がした。

 エィラが苦しく思うのも、当たり前だ。

 ゲォルグさまと、エィラの子なのに。
 倒れるほど魔力を削ってうんでくれたのは、エィラなのに。


「『ジゼ』いにしえの精霊語で『輝ける者』
 ジェディス家を継ぐ者としてふさわしい名だ。セバが気にすることじゃない」

 メナのごつごつの手が、セバの頭をぽんぽんしてくれる。


 いにしえの精霊語。
 輝ける者。


 エィラがそう思ってくれない気がして、セバは唇を噛んだ。







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