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ごめんなさい
うまれた直後、エィラはとてもしあわせそうに、愛しそうに赤子を抱いた。
ゲォルグは、戸惑うように、おそるおそる、赤子にふれた。
なのに『ジゼ』名を与えられた瞬間、まるでふたりの立場が入れ替わったようだった。
「ジゼ」
ゲォルグが呼ぶたび、氷の薄い膜を張っていたようなゲォルグのかんばせが、やさしくほどけてゆく。
ジゼを抱きあげる手は愛しさに満ちて、透きとおる蒼の瞳はあまやかにほそめられた。
月の髪に、蒼の瞳、ゲォルグと同じ色を持つ、ゲォルグによく似た子だった。
まるで、エィラの存在を否定するように。
エィラには魔力を借りただけで、ゲォルグだけの子をうんだかのように。
エィラの名を継がず
『ジゼ』
名づけられた赤子。
エィラのなかで、何かが音をたてて壊れてゆくのが、見えるようだった。
愛しさが、怯えになり、厭悪へと変わってゆく。
「お前など、うまなければよかった──!」
ちいさなジゼに手を挙げるエィラに、跳びあがったセバが割りこんだ。
受け身をとるには、腕のなかに庇ったジゼを放り出さなくてはならない。
まともに受けた。
パァン──!
頬が鳴る。
熱い衝撃に吹き飛んだ。
「……あ……」
茫然としたように、おびえたように、エィラは自分の手と、頬を打たれたセバを見た。
ジゼを守るように抱いたセバは、エィラを見あげる。
薄紅の星の瞳が、歪んだ。
「やさしい振りをして、僕を嗤っていたんだろう! 子をうむためだけの、形ばかりの伴侶の僕を──!」
憎悪が、噴きあがるようだった。
星の瞳が、泣いている。
ようやく痛みはじめた頬で、セバは目を伏せた。
「……ゲォルグさまの、お子をうんで、ゲォルグさまの伴侶になって、誰からも認められて、舞踏会で踊る。……すべてを持っているのは、エィラだ」
ちいさな声は、ふるえた。
あるじに対して、あるじの伴侶に対して、決して持つことを許されないのだろう悋気と羨望の滲む声だった。
それこそが、きっと、エィラを慰める。
信じて、告げた。
うらやましい、と。
「泣いておすがりしてようやく従僕にしていただいた俺を、お傍にいるだけで精一杯の俺を、すべてを持っているエィラが憎む必要なんて、どこにもない」
自分の言葉で切り裂かれた胸で、セバは微笑む。
「『ジゼ』いにしえの精霊語で『輝ける者』
ジェディス家を継ぐ者として、ふさわしい名だ。
ジゼさまの目元は、ゲォルグさまよりずっと、やわらかい。エィラに、そっくりだよ」
微笑むセバの目から、涙が落ちた。
「……セバ……」
星の瞳が、歪む。
「…………ごめ、ん……」
あふれる涙で、抱きしめられた。
エィラの腕のなかで、セバは首を振る。
「ゲォルグさまと、エィラの子だ。きみの子だ」
そっと、ジゼを差しだした。
「あーぅ!」
ちいさな指をのばす赤子を、母の腕が、抱きしめる。
「……ごめ……なさ……ぃ……」
嗚咽にふるえるエィラの背を、そっと撫でたセバは、何事かと心配で見にきてくれたのだろうあるじを、振りかえる。
「ゲォルグさま」
エィラを、抱きしめてあげてください。
言わなくても分かっているのだろう、かるく手をあげたゲォルグは、やさしくエィラを抱きしめた。
「きみがうんでくれた、きみの子だ」
ゲォルグの胸で、エィラは泣いた。
その腕には、ちいさなジゼが抱かれていて。
まるで、理想の家族で。
セバはそっと、目を閉じた。
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