【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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ごめんなさい




 うまれた直後、エィラはとてもしあわせそうに、愛しそうに赤子を抱いた。

 ゲォルグは、戸惑うように、おそるおそる、赤子にふれた。


 なのに『ジゼ』名を与えられた瞬間、まるでふたりの立場が入れ替わったようだった。


「ジゼ」

 ゲォルグが呼ぶたび、氷の薄い膜を張っていたようなゲォルグのかんばせが、やさしくほどけてゆく。

 ジゼを抱きあげる手は愛しさに満ちて、透きとおる蒼の瞳はあまやかにほそめられた。


 月の髪に、蒼の瞳、ゲォルグと同じ色を持つ、ゲォルグによく似た子だった。

 まるで、エィラの存在を否定するように。


 エィラには魔力を借りただけで、ゲォルグだけの子をうんだかのように。


 エィラの名を継がず

『ジゼ』

 名づけられた赤子。




 エィラのなかで、何かが音をたてて壊れてゆくのが、見えるようだった。

 愛しさが、怯えになり、厭悪へと変わってゆく。


「お前など、うまなければよかった──!」

 ちいさなジゼに手を挙げるエィラに、跳びあがったセバが割りこんだ。

 受け身をとるには、腕のなかに庇ったジゼを放り出さなくてはならない。

 まともに受けた。



 パァン──!

 頬が鳴る。

 熱い衝撃に吹き飛んだ。


「……あ……」

 茫然としたように、おびえたように、エィラは自分の手と、頬を打たれたセバを見た。


 ジゼを守るように抱いたセバは、エィラを見あげる。

 薄紅の星の瞳が、歪んだ。


「やさしい振りをして、僕を嗤っていたんだろう! 子をうむためだけの、形ばかりの伴侶の僕を──!」

 憎悪が、噴きあがるようだった。

 星の瞳が、泣いている。

 ようやく痛みはじめた頬で、セバは目を伏せた。


「……ゲォルグさまの、お子をうんで、ゲォルグさまの伴侶になって、誰からも認められて、舞踏会で踊る。……すべてを持っているのは、エィラだ」

 ちいさな声は、ふるえた。

 あるじに対して、あるじの伴侶に対して、決して持つことを許されないのだろう悋気と羨望の滲む声だった。

 それこそが、きっと、エィラを慰める。

 信じて、告げた。

 うらやましい、と。


「泣いておすがりしてようやく従僕にしていただいた俺を、お傍にいるだけで精一杯の俺を、すべてを持っているエィラが憎む必要なんて、どこにもない」

 自分の言葉で切り裂かれた胸で、セバは微笑む。


「『ジゼ』いにしえの精霊語で『輝ける者』
 ジェディス家を継ぐ者として、ふさわしい名だ。
 ジゼさまの目元は、ゲォルグさまよりずっと、やわらかい。エィラに、そっくりだよ」

 微笑むセバの目から、涙が落ちた。


「……セバ……」

 星の瞳が、歪む。


「…………ごめ、ん……」

 あふれる涙で、抱きしめられた。


 エィラの腕のなかで、セバは首を振る。


「ゲォルグさまと、エィラの子だ。きみの子だ」

 そっと、ジゼを差しだした。


「あーぅ!」

 ちいさな指をのばす赤子を、母の腕が、抱きしめる。


「……ごめ……なさ……ぃ……」

 嗚咽にふるえるエィラの背を、そっと撫でたセバは、何事かと心配で見にきてくれたのだろうあるじを、振りかえる。


「ゲォルグさま」

 エィラを、抱きしめてあげてください。

 言わなくても分かっているのだろう、かるく手をあげたゲォルグは、やさしくエィラを抱きしめた。


「きみがうんでくれた、きみの子だ」

 ゲォルグの胸で、エィラは泣いた。


 その腕には、ちいさなジゼが抱かれていて。


 まるで、理想の家族で。


 セバはそっと、目を閉じた。







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