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しおりを挟む凄かった。
一生に一度は拝むべきだった。
オール☆5を、完全に理解した。
「雪で、遅れた。
泣かせたな」
天鵞絨のようになめらかに耳に触れる声だった。
低く、甘く、やさしく、かすかに掠れる。
凛々しい眉が、心配そうにひそめられる。
そのほんの微かな動きに、鼓動が音をたてた。
「ごめん」
差し出してくれた白いハンカチは、頭の芯がくうらりする、いい匂いがした。
思わず受け取ったけど、こんなきれいなハンカチで、鼻水を拭くとかないから!
思った次の瞬間、ようやく気づいた。
超絶美形の前で、わ、私、涙と鼻水まみれだ!!
「ご、ごごごごめんなさい!」
あわあわ頭を下げて、鞄から取り出したティッシュで目と鼻を拭う。
化粧も剥げたと思うけど、この美貌の前には化粧前と化粧後の違いは塵と同じだ。
凄い。
隣で息をしていることが、奇跡みたいに思える。
モデルさんとか、アイドルさんとか、こんな感じなのかな。
まるで内側からオーラを放つように、この人の周りだけ、きらきら輝いて見える。
私とは、違う世界の人。
同じ空気を吸っているとは思えないほど、艶やかにきらめく人を、ぽけっと見あげた。
「……ハンカチを使えばいいのに」
拗ねたように呟いた美貌の人が、手を差し出してくれる。
「荷物、貸して」
微笑まれたら、魂が抜けそうだ。
「あ、あのあの、し、しろがね旅館の方ですか」
詐欺だったらどうしよう!
鞄を渡したら、持って逃げられたらどうしよう!
こんな美形に『お金貸して欲しいな♡』とか言われると、つい『うん♡』って言っちゃうよね!
こ、これが抗えない顔面力!
ぷるぷるする私に、目を瞬いた美貌の人は、喉をふるわせて笑った。
上下する喉ぼとけさえ、うるわしい。
「大丈夫、詐欺じゃない。
皆、詐欺を心配するんだ。失礼だぞ。
ほら、荷物」
長い指が私の手から鞄をとろうとして、かすかに指先が触れた。
パチ――!
白銀のプラズマが、弾ける。
「いた――!」
ビリ、と電流が流れたみたいだった。
……静電気?
息を呑む私の前で、美貌の人は微かに舌を出して桜の唇を嘗めた。
その紅い軌跡のあまりの艶やかさに、息をのむ。
「……へえ」
涼やかな声が、艶めく。
「これはこれは、久しぶりの上玉だ」
黒髪に彩られた漆黒の瞳が、きらめいた。
「おひめさま、ようこそ、しろがねへ」
胸に手をあてた人が、腰を折る。
漆黒に包まれた人は、魂が抜けそうなほど、かっこよかった。
イケメン村は、白銀村というらしい。
千年の昔からある秘境の温泉郷だという。
闇色の車が、深い雪の山道を疾駆する。
乗せてもらった車の流線型のフォルムと、見たことのないエンブレムと左ハンドル、漆黒の革張りの内装と、頭の芯が痺れるいい匂いにくらくらした。
思わず車に乗ってしまいました!
し、しかも、じょ、助手席です!
超絶美形が、隣の運転席に――!
だって、こんなにかっこいいんだよ!
助手席の扉を開けてくれたのに、断るとか無理だ――――!!
「……あ、あのあの、ほんとに、旅館の方ですか」
縋るように聞いたら、美貌の人が微かに笑う。
「代打」
……あ、あの、そ、それは詐欺では……?
で、でも輝くようなかんばせで言われると、頷くしかできない……!
ほんとに悪いことをしようとしてたら、泣いちゃうな、と思うけれど。
ほんとに悪いことをしようとしてる人は、どこか顔がいびつに歪んでいると思う。
この人の顔は、完璧だ。
こんな造作を見たことがない。
こんな顔で犯罪をしたら、目立って目立ってすぐ捕まるから無理だと思う。
それに纏う雰囲気が、冷たくて、素っ気ないのに、どこかやさしい。
だから、たぶん……だ、だいじょう、ぶ…………か、な…………
こ、こうして皆だまされちゃうのかな……!?
超絶美形とふたりきりで車に乗ってる、しかも私が助手席ポジションとかもう、地球が逆回転する事態だと思う。
隣から、めちゃくちゃいい匂いがする。
横顔、めちゃくちゃかっこいー。
絶対夢だ。
思って頬をつねったら、痛い。
痛い夢だよ、わかってる。
「寒くない?」
微笑んで、暖房を強くしてくれる。
ぶわ、と暖かい風が顔に掛かって、多分赤くなってるのだろう鼻を撫でた。
雪深い山道、というか、どこに道があるのか皆目わからない真っ白な世界を、迷うことなく、漆黒の車は進んでゆく。
ステアリングに掛かる長い指に、見惚れた。
軽く握られるたび、指がひらめくたび、どきどきする。
男の人を見ると、つい、手を見つめてしまう。
長くてきれいな指を見るだけで、うっとりする。
……そんなとこばっかり見てるから非モテなのかなあ……
いやもっと根源的なものがあるような気がするけど!
しょんぼりを打ち倒すような、理想の指だった。
「穴が開くほど、顔を見られるけど。
こんなに指を見られたのは、初めてかも」
喉を鳴らして、美貌の人が笑う。
「指が、すき?
結芽」
左の手でステアリングを握りながら、右手の長い指が、私の指に触れる。
ピリ、と走る静電気みたいな痛みより、ほのかに伝わるぬくもりに、発火した。
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