【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  ゆるゆ

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極上のかんばせ

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 イケメン村は秘境にある。

 新幹線で一番近くの駅までゆき、そこから在来線に乗り換えて一番近くの駅までゆき、そこからバスで一番近くのバス停までゆくと、お迎えの車が来てくれるという。

 ……秘境だ。

 …………たどり着けるかな、私。


 普段出不精で、全く出歩かない私には、大変な冒険だ。
 オンライン小説の主人公になったら、野山を駆け回れるし、空も飛べるし、魔法を使えるし無双できるし異世界転生で最強だけど、リアルは長時間電車に乗ってるだけで疲れるよ。

 しかし私にはスマホがある。
 きっとスマホが何とかしてくれる!

 オンライン小説をにまにま読みつつ、田畑を越え、海辺を走り、山に分け入る電車とバスにゴトゴト揺られた。


「…………あ!」

『次の話』をタップしたのに、エラーになった。
 通信が途切れたらしい。


『イケメン村は、電波の届かない秘境にあります。
 スマートフォンから解放された癒しの日々をご堪能ください』

 イケメン村の説明には、確かにそう書いてあった。


「私にとってはスマホが癒しなんだけどなー。
 …………ほ、ほんとに大丈夫かな…………」

 バスはどんどん山のなかへと分け入っていく。
 お尻ががたごと揺れるたび、びくりと跳びあがった。


「終点です」

 アナウンスの声に促され、よろよろバスを降りる。

 踏みしめたのは、銀世界だった。








 雪が、頬に、鼻に降る。

「わあ、雪だ!」

 雪のあまり降らないところに住んでいる私には、雪は憧れだった。

 雪でお困りの方には本当に申し訳ないのだけれど、1年に1回積もるか積もらないか、積もってもすぐ消える、雪うさぎなら何とか作れるが、雪だるまを作れるのは5~10年に1度の大雪の日だけな地域に住んでいると、雪を見ると年甲斐もなく、ジャンプしたくなる。

 足を踏み入れると、きゅ、きゅ、と鳴る雪の音、雪を踏みしめる感覚が珍しくて、楽しくて、顔が笑ってしまう。

 唇から零れる息は、真っ白だ。


「えと、お迎えの車は……」

 辺りを見回したけれど、雪に埋もれたバス停があるだけだ。
 山と雪しかない。
 樹々に降り積もる雪が、どさりと落ちる音に跳びあがる。


「……詐欺もいやだけど、遭難もいやだ……!」

 泣きそうになった。

 旅館の人に迎えに来てくれるようお願いしようとしたけど、電波が届かないので、勿論電話も掛けられない。

 どんな時もオンライン小説を読んだら元気になるのに、電波が届かないので、元気も出ない。


「……ど、どうしよう……」

 来た道を、戻る?

 確認してみたバス停の時刻表には、予定がひとつしか書かれていなかった。


「さっきのが、最初で最後のバスだった――!」

 泣き崩れた。

 雪に埋もれて冷たかったので、あわあわ起きる。


「…………どうしよう…………」

『詐欺サイトにだまされて30代女性遭難!
 凍死体見つかる!』

 新聞やTVの煽り文句が頭を巡った。



 私の人生は、いつも、いつでも、こんな感じだ。

 ……望みが高すぎるのかな。
 欲しいものは、いつだって手に入らない。
 私はいつも、ぼけっと見つめるだけで、周りばかりが華やかに通り過ぎてゆく。


 ぽたり。

 落ちた涙が、雪にちいさな穴をつくった。


 ぽたり。

 ぽたり。

 ちいさな穴が、増えてゆく。

 誰もいない真っ白な世界で、雪に埋もれるように、私は泣いた。


「…………っ……」

 …………努力が、足りなかったのかな。

 でも、頑張ったんだよ。
 私なりに、一生懸命頑張った。

 でも、だめで。
 いつだって、だめで。

 私は、何者にもなれなくて。

 ひとりぽっちで、雪に埋もれて死ぬんだ。



「うわぁああん――――!!」

 ちいさな子どもみたいに、声をあげて泣いた。

 降り続く雪が、私の泣き声を吸い取るように舞い降りる。


 寒い。
 耳が痛い。
 指先が痺れる。

 ほんとに死んじゃうよ。
 チョコレート、持ってたかな。

 ぐすぐす鼻を啜りながら、ダウンコートの前を掻き合わせる。

 来た道を戻った方がいいのかな。
 ここで待ってたら、ほんとに旅館の人が来てくれる?
 やっぱり、だまされた?
 私が、強欲だったから?
 私みたいな非モテには、分不相応な望みを抱いたから?


「だって、一生に一度くらいは、イケメンに癒されてみたかったよ――――!!」


 鼻水を流しながら号泣したら、エンジンの音が遠くから聞こえた。


「あぁあああ!!」

 だ、誰か来た!!


「た、たすけてください、お願いします――!!」

 恥も外聞もなく、涙と鼻水で叫んで、両手を挙げる。

 白い雪を掻き分けるように進んできた艶やかな漆黒の車が止まる。
 雪のなかに降り立ったのは、磨き抜かれた革靴、セミブローグだ。
 爪先の穴飾りが漆黒の革のうえになめらかな曲線を描く。

 こんな雪のなかで履いたら、思いきり滑って転びそうだけど
『ああ、その革靴、一番すき!』
 声をあげそうになった私は、あわあわ閉じかけた口を、ぽかんと開けた。


 めちゃくちゃこのみなのは、靴じゃなかった。

 少し長めの黒髪が、透きとおるうなじに艶やかに流れる。
 貴やかささえ感じる眉の下で、漆黒の瞳が涼やかに切れあがる。

 薄めの桜の唇は微かに開かれ、零れる白い息が、その人がよくできた人形ではないことを告げていた。


 漆黒のロングコートがひるがえる。

 頭の芯が痺れるような、いい匂いがした。






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