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極上のかんばせ
しおりを挟むイケメン村は秘境にある。
新幹線で一番近くの駅までゆき、そこから在来線に乗り換えて一番近くの駅までゆき、そこからバスで一番近くのバス停までゆくと、お迎えの車が来てくれるという。
……秘境だ。
…………たどり着けるかな、私。
普段出不精で、全く出歩かない私には、大変な冒険だ。
オンライン小説の主人公になったら、野山を駆け回れるし、空も飛べるし、魔法を使えるし無双できるし異世界転生で最強だけど、リアルは長時間電車に乗ってるだけで疲れるよ。
しかし私にはスマホがある。
きっとスマホが何とかしてくれる!
オンライン小説をにまにま読みつつ、田畑を越え、海辺を走り、山に分け入る電車とバスにゴトゴト揺られた。
「…………あ!」
『次の話』をタップしたのに、エラーになった。
通信が途切れたらしい。
『イケメン村は、電波の届かない秘境にあります。
スマートフォンから解放された癒しの日々をご堪能ください』
イケメン村の説明には、確かにそう書いてあった。
「私にとってはスマホが癒しなんだけどなー。
…………ほ、ほんとに大丈夫かな…………」
バスはどんどん山のなかへと分け入っていく。
お尻ががたごと揺れるたび、びくりと跳びあがった。
「終点です」
アナウンスの声に促され、よろよろバスを降りる。
踏みしめたのは、銀世界だった。
雪が、頬に、鼻に降る。
「わあ、雪だ!」
雪のあまり降らないところに住んでいる私には、雪は憧れだった。
雪でお困りの方には本当に申し訳ないのだけれど、1年に1回積もるか積もらないか、積もってもすぐ消える、雪うさぎなら何とか作れるが、雪だるまを作れるのは5~10年に1度の大雪の日だけな地域に住んでいると、雪を見ると年甲斐もなく、ジャンプしたくなる。
足を踏み入れると、きゅ、きゅ、と鳴る雪の音、雪を踏みしめる感覚が珍しくて、楽しくて、顔が笑ってしまう。
唇から零れる息は、真っ白だ。
「えと、お迎えの車は……」
辺りを見回したけれど、雪に埋もれたバス停があるだけだ。
山と雪しかない。
樹々に降り積もる雪が、どさりと落ちる音に跳びあがる。
「……詐欺もいやだけど、遭難もいやだ……!」
泣きそうになった。
旅館の人に迎えに来てくれるようお願いしようとしたけど、電波が届かないので、勿論電話も掛けられない。
どんな時もオンライン小説を読んだら元気になるのに、電波が届かないので、元気も出ない。
「……ど、どうしよう……」
来た道を、戻る?
確認してみたバス停の時刻表には、予定がひとつしか書かれていなかった。
「さっきのが、最初で最後のバスだった――!」
泣き崩れた。
雪に埋もれて冷たかったので、あわあわ起きる。
「…………どうしよう…………」
『詐欺サイトにだまされて30代女性遭難!
凍死体見つかる!』
新聞やTVの煽り文句が頭を巡った。
私の人生は、いつも、いつでも、こんな感じだ。
……望みが高すぎるのかな。
欲しいものは、いつだって手に入らない。
私はいつも、ぼけっと見つめるだけで、周りばかりが華やかに通り過ぎてゆく。
ぽたり。
落ちた涙が、雪にちいさな穴をつくった。
ぽたり。
ぽたり。
ちいさな穴が、増えてゆく。
誰もいない真っ白な世界で、雪に埋もれるように、私は泣いた。
「…………っ……」
…………努力が、足りなかったのかな。
でも、頑張ったんだよ。
私なりに、一生懸命頑張った。
でも、だめで。
いつだって、だめで。
私は、何者にもなれなくて。
ひとりぽっちで、雪に埋もれて死ぬんだ。
「うわぁああん――――!!」
ちいさな子どもみたいに、声をあげて泣いた。
降り続く雪が、私の泣き声を吸い取るように舞い降りる。
寒い。
耳が痛い。
指先が痺れる。
ほんとに死んじゃうよ。
チョコレート、持ってたかな。
ぐすぐす鼻を啜りながら、ダウンコートの前を掻き合わせる。
来た道を戻った方がいいのかな。
ここで待ってたら、ほんとに旅館の人が来てくれる?
やっぱり、だまされた?
私が、強欲だったから?
私みたいな非モテには、分不相応な望みを抱いたから?
「だって、一生に一度くらいは、イケメンに癒されてみたかったよ――――!!」
鼻水を流しながら号泣したら、エンジンの音が遠くから聞こえた。
「あぁあああ!!」
だ、誰か来た!!
「た、たすけてください、お願いします――!!」
恥も外聞もなく、涙と鼻水で叫んで、両手を挙げる。
白い雪を掻き分けるように進んできた艶やかな漆黒の車が止まる。
雪のなかに降り立ったのは、磨き抜かれた革靴、セミブローグだ。
爪先の穴飾りが漆黒の革のうえになめらかな曲線を描く。
こんな雪のなかで履いたら、思いきり滑って転びそうだけど
『ああ、その革靴、一番すき!』
声をあげそうになった私は、あわあわ閉じかけた口を、ぽかんと開けた。
めちゃくちゃこのみなのは、靴じゃなかった。
少し長めの黒髪が、透きとおるうなじに艶やかに流れる。
貴やかささえ感じる眉の下で、漆黒の瞳が涼やかに切れあがる。
薄めの桜の唇は微かに開かれ、零れる白い息が、その人がよくできた人形ではないことを告げていた。
漆黒のロングコートがひるがえる。
頭の芯が痺れるような、いい匂いがした。
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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