最愛の番になる話

屑籠

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 次の日、学校に行ってみると、昨日突っかかってき子が、ごめんね、とそっぽ向きながら言ってきた。

「ごめんね、いきなり言われてびっくりしたでしょ。あんた、何も知らないんだって? この学校のことも」
「え、あ、うん。そう、だけど」
「先生に、昨日注意された。君が何も知らないんだからって。だから昨日のお詫びに教えてあげる、この学校のこと」

 後でね、と言ってその時は次の授業のために戻っていってしまった。
 何と言うか、こういうの見たことあるような? と首を傾げる。
 そして、昼休みご飯を食べながらその子は語りだす。

「この学校っていうか、オメガ科がある高校には必ずアルファ科があるんだけど知ってる?」
「うん。前に居た学校にも有ったから。俺は、普通科に通ってたからよく知らないけど」
「そう……オメガ科とアルファ科がある理由って、実は集団見合いだったりするんだよ」
「ん!?」

 口の中に入れたもの、吹き出しそうになった。
 え、集団見合いとか本当にあるの!?
 あの学校、ひと学年アルファクラス2、オメガクラス2、ベータクラス2とかだったから、人数的にはかなり居たけど……アルファならわかるのかな?
 
「オメガにとって、アルファと結ばれるのが幸せって言われてる。だから、合同授業なんかで一緒になるときに僕らは邪魔してほしくないの。条件の良いアルファに見初められるように努力してるんだもん」
「そう、なんだ。だから、邪魔しないで、か」
「うん。早い内に見つけて、見初めてほしい。それに、捨てられ無いように努力しないといけないんだよ。運命以外は、アルファから番の解消ができるから」

 つまりは、えっと、どゆこと?
 俺、邪魔なんてしないけど、邪魔になるって事?
 番探しの?
 
「番のいる俺が、邪魔?」
「むしろ、どうしてアルファの護衛を連れてきたのか不思議だった。けど、アルファって強いアルファに従う習性があるんだって。だから、君の番は君の護衛を従えられる程、強いってことでしょ? 君の言葉で、君の番が動いたら並のアルファは従っちゃうと思うし」
「なるほど。そっか……」

 やっとどういう事か納得できた。つまりは、俺を警戒していたわけじゃなくて、アルファを従えられるアルファが番である事を警戒していたのか。
 きっと、彼は自分の性格を理解しているんだろう。んー、ピッタリのアルファがどこかに居そうな気がするけどな。
 だって、考えてみればツンデレっぽくて可愛いだろうし。

「俺は、この学校にオメガとアルファについて知りたくてきたんだ。前居た学校には戻りたくないし、それでも知りたいと思ったら、啓生さん……俺の番が探してくれたのがここだった」
「愛されてるね、羨ましい……」
「君たち風に言うと、運命だから、ね」

 そっか、と笑う彼に自然と俺も笑顔になった。
 友達なんて要らないと思ってたけど……観察するにはもってこいかも。情緒心配になるけど面白いし。
 
「可愛いな……ねぇ、風都さん。彼、可愛いよね」
「えっと、たぶん一般的には?」

 一緒に御飯を食べていた風都は、彼を見てそして首をかしげた。
 俺は可愛いと思うんだけどな。
 素直な性格も含めて、全部可愛らしいと思う。
 
「雪藤のアルファはこれだから……」
「雪藤のアルファ?」
「知らないの? 同じ雪藤なのに?」

 雪藤の養子になっているとは言え、四方に居るほうが多いので、雪藤については余り知らない。
 啓生と風都たちの血がつながっているという事ぐらいしか、本当に知らないことに気がつく。
 
「う、うん」
「雪藤と雪藤が仕えてる四方のアルファって番以外には興味なんてサラサラ無いんだよね。ほんっと、唐変木。オメガの間でも雪藤だけは狙うなって言われてるぐらい。びっくりする程なびかないんだもん」
「そうなんだ……知らなかった」

 四方だけじゃないのか、とちらりと風都を見れば風都はどこ吹く風で視線をそらした。
 その行動に何かひっかかる。

「四方の方なんて会える確率、ほぼ無いんだけど雪藤だけはちょこっとだけあるからね。だから、注意してるよ」
「注意? 何で?」

 視界に入らないのなら、被害はないのでは?

「雪藤のアルファに捕まると、普通のアルファより執着がひどくて厄介なんだって。愛されはするらしいけど」
「あぁ、なるほど」

 それはきっと、ほぼ雪藤を名乗る四方の方々だ。
 四方の血が入ってる雪藤の人も多少はいるだろうけど。

「んー、でも感じ方は人それぞれだし、雪藤の番さんたちは穏やかな人ばっかりだったよ。アルファの人たちは……全員そっくりだった」

 四方の話だけど。でも、いい人たちばっかりだったし、四方の人たちは本当にそっくりな人たちばかりだった。
 いや、もう本当に。

「そうなんだ……まぁ、君に不満がないなら良いんじゃない? あ、そろそろ昼休み終わる」

 一緒に教室に戻って、午後の授業を受けて帰った。
 あっさりとそう言って、教室に戻る。
 その途中で彼の名前を聞いた。伊丹 雫と言うらしい。そう言えば名乗ってなかったね、と笑ってたから忘れていたんだろう。

「啓生さん、昨日言ってた子なんだけど」
「うん」

 家に戻ってきて、昨日と同じように夕飯ができるまで啓生と話をすることになった。
 そう言えば、進展! と思って俺は少しはしゃぎながら啓生に話す。
 
「とっても可愛かった」
「う、うん?」

 思ってた返事と違ったのか、啓生は少し驚いているみたい。
 
「学校のこととか教えてくれたんだ。なんかめっちゃ、リスみたいだった」
「リス……でも、嫌なことはなかったんだね?」
「うん。別に、雫が言ったことは気にしてないよ?」
 
 そう? と怪訝そうな顔をしているけど、本当に気にしてない。
 理由がそもそもわかったし。

「そもそも、警戒されてたの俺じゃなかったし」
「そうなの? 風都?」

 ある意味そうとも言えるけど、そうじゃない。
 
「違う、啓生さんだよ」
「え、なんで僕?」

 本当にどうして自分なのかわからないみたいだ。
 俺も、雫に教えてもらわなかったらわからなかった。
 オメガ科特有の考え方なのか、それとも雫が飛躍して考えてるのか、後は前例があるか。
 そのどれかだろう。

「啓生さんが動いて、アルファとの縁談を邪魔されたくなかったんだって」
「ふーん? そうなんだ」

 バッサリと啓生の興味は失われてしまったようだ。
 けど、俺は雫がそんなに必死な理由を知らないから、少しだけ気になってはいる。
 
「でも……雫なら、きっと良い人に出会えると思うんだけどな」
「どうして?」
「雫、素直なんだ」
「素直?」
「そう。ちゃんと間違ったことは認められるし、人の言葉は受け入れられる。ちょっと暴走気味になるところもあるみたいだけど、そこも可愛いって思えるよね。ほんと、見ていて飽きない子なんだ」

 うん、ちまちま教室の中を動き回っている様子も声高に話す様子も。全部見ていて飽きない子だと思う。
 
「……ちなみに、それってもしかして」
「小動物的な感じで可愛いよね」
「なるほどー……愛玩動物の間違いかな?」

 どちらにしろ、人というよりは本当に観賞用だ。
 啓生は、納得したように1つ頷くと、もし、と俺の顔を覗き込んでくる。
 
「もし、咲ちゃんが心配なら、その子のこと少しだけ気にかけてあげようか?」
「……それは、嫌」
「んっ、ふふっ、うんうん、わかったよ。あぁ、可愛いな僕の番は」
 
 きっと啓生なら、素敵な人を紹介してくれるだろう。
 けど、雫のために啓生が動くのが嫌だった。喜んで、お願い、なんて言えない。
 だから、いやって言ったら啓生は嬉しそうに頬を緩めて笑うから、反対に俺の頬は膨れていく。

「可愛くないし」
「可愛いよ、僕の一番かわいくて大事な大事な番の咲ちゃんだもの」
 
 すりすりと啓生が俺にすり寄ってくるけど、俺はすり寄ってくる啓生からそっぽを向いた。
 気が向いたときだけかまったりして、俺だって愛玩動物じゃないんだから。

「むくれてる、可愛い。この世の誰より可愛いよね。うん、優勝」
「意味わかんない」
「んふふ、でも咲ちゃんは気になるんでしょ?」

 それはそう。雫は、どこか焦っているようにも感じるから、どうしてなのかも知りたいし。

「じゃあ、少しだけ調べてみようか彼のこと」
「え、でもそれは……」
「調べても、何もない場合もあると思うよ? でも、困ってるなら助けてあげたいんでしょ?」
「うん……でも、啓生さんに迷惑かけたくないし、俺のことだし」

 俺のことで、啓生の時間が盗られるのは嫌だ。
 啓生は、そんな俺のことも可愛いっていうけど、本当にアルファの番を見る目っていうのはどうなってるんだろう?
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