最愛の番になる話

屑籠

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 それから数日後の休日、啓生とリビングのソファーに座っていると、そこに宗治郎が声をかけてきた。

「伊丹 雫についての調査結果が出ております」

 そう宗治郎は啓生に書類を手渡した。

「ふーん……なるほどね」
「啓生様、いかがなさるおつもりですか?」
「とりあえずは、咲ちゃん次第かな?」

 ね、と啓生にその資料を手渡された。
 そこには、雫の現状が記されている。
 悪いと思ったけど、せっかく調べてくれたんだし、とそれに目を通した。

「……ねぇ、啓生さん」
「なぁに?」
「この、婚約ってアルファとオメガには一般的なの?」

 光也にも尚志にも婚約者が居るなんて聞いたことは無い。
 けれど、雫には居たみたい。その婚約も、雫が高校に入る前に解消されているけど。
 今のご時世で政略結婚などあるのかと疑問に思う。

「まぁ、まま有るんじゃないかな? 僕達四方は、運命の番以外には反応しないから政略結婚なんて意味ないんだけど」
「そうなんだ……」
「伊丹は百様、生まれた時からの婚約者が居たとしてもおかしくはないですね。十全、百様にはオメガはそれなりに生まれます。百様は特にオメガの行く末を心配して、本家なら特に婚約者を早々に決めてしまいます」
「……俺、雫の元婚約者、知ってる」

 その名前は、記憶にあって新しい。
 どうして、雫が婚約解消になったのかも書いてあるけど。
 でも、やっぱりこのアルファは好きじゃないと、少し眉間にしわが寄る。

「獅子王のアルファを?」
「前の学校の、生徒会長」
「あぁ、そう言えばそうだったね」

 礼人と逃げた、その人から。でも、捕まって礼人が今どうしているのかは知らないし、俺は学校を辞める羽目になった。
 そう考えると、やっぱりアルファオメガとの関わりは良いことなんてまるでなかった。
 それがどうしてこうしてアルファの番になっているのか。

「雫の婚約解消の理由は……獅子王にふさわしい学力が身につかなかったから? なにそれ?」
「あの学校に入学することが、条件だったのかもしれないね」
「そう……そういうのも、良く有ること?」
「まぁ、政略結婚ならね。百様とか千手ならありえないこともないんじゃない?」

 そう言って、啓生の視線は宗治郎に移る。宗治郎はその視線を受けて頷いた。

「そうですね、何故か彼らの家は家格の合う優秀なオメガを求めていますので」
「優秀なオメガ……それってそんなに大事なこと?」
「いいえ。少なくとも、四方や雪藤では運命の方が大事です」

 そうそう、と啓生が頷く。
 啓生をじっと見つめると、うん? と首をかしげた。

「え、嘘は言ってないよ? 僕だって咲ちゃんが大事だし、これは四方の血筋だし、家柄でも有るし」
「俺が馬鹿でもアホでも良かったってこと?」
「んー? うん。ちょっと抜けてるほうが人間って可愛いよね?」
「それ、俺が抜けてるって言ってる?」

 んふふ、と笑う啓生はやっぱり俺をアホだと思っているみたいだ。
 いや、いいんだけどさ。どうせ、啓生や宗治郎たちアルファにとってベータなんて取るに足らない存在だったんだろうし。

「俺の番が咲ちゃんで、本当に良かったって思ってるよ? 本心だよ?」
「……知ってる」

 それは、啓生の態度からずっとわかってる。
 啓生は、俺に伝えることを惜しまないし。だから、きっと啓生がこの先俺を裏切ることがない事なんてわかりきってる。
 それでも、心の底で何処か信じられない自分がいる。

「なぁんでそんなにむくれちゃったの? 可愛いなぁ」
「可愛くないし……あれ?」
 
 ふと、啓生を見て、そして宗治郎と風都を見た。
 突然の行動に彼らは揃って戸惑っているようだ。

「啓生さんって、かっこいいの?」
「え、僕今までずっとカッコ悪いと思われてたの!?」
「いや、違うけど」

 ショックを受けたような顔をした啓生の顔を見て、ぶはっ、と風都が吹き出す。
 宗治郎もこころなしか、肩を震わせて俯いている。

「す、すみませっ、ははっ!」
「ひどっ! 咲ちゃん!?」
「だから、違うって言ってる」
「えぇ、じゃあどういう事?」

 俺の言葉に戸惑ったように啓生が顔を覗き込んできた。
 その問いかけるような視線から目を逸らして答える。
 
「その……俺、今まで啓生さんの外見がどうとかって考えたことなくて、啓生さんがいつも俺を可愛いって言うから啓生さんはどうなんだって考えて」
「なるほど、客観的に始めて僕を見たって事かな。え、僕の事を見てくれて嬉しいと言うべきか、僕自身を見ていてくれて嬉しいと言うべきか悩むね」
「どちらにしろ、嬉しいの」

 啓生は俺のことになると、とんでもなく馬鹿になってると思うんだけど。
 でも俺なんかの言葉に一喜一憂している啓生を見るのは悪くない。
 
「嬉しいね。咲ちゃんが僕の話をしているだけですでにもう嬉しいしこの世の全てに勝てるよね。うん、優勝」
「えっと、意味がわからない」
「ん、ふふ、僕が咲ちゃんを大好きだってだけ理解してくれてればそれでいいよ。僕が勝手に後は愛でるからね」
「そう……それで、啓生さんって?」

 啓生は、かっこいい部類に入るの?
 よく、分からない。それほど、俺は人に興味がないんだろう、きっと。
 
「んー、僕は普通だと思ってるけど」
「一般的に、外見は良いと思われますよ」
「アルファはイケメンが多いですからね」
「そう、なんだ……んー」
 
 アルファとしては一般的、ということなのか?
 ぺたぺたと啓生の顔を触ってみるが、わからない。
 んっふふ、と啓生はその行動について嬉しそうに笑うばかりだ。
 ほんと、変な人。
 
「まぁ、僕の外見はどうでもいいよね。それで、獅子王はどうしたい?」

 そう言えば、そんな話をしていたっけ?
 すっかり脱線して忘れていた。

「生徒会長は、嫌い。でも、礼人に不幸になってほしいわけじゃないから、何もしないで」
「そう? なら、何もしないけど……咲ちゃんは優しいね?」
「そんな事、ないよ」

 ただ、知り合った友達が、自分のせいで不幸になってほしいわけじゃない。自分のせいだっていうのが嫌だ。
 だから、啓生には何もしてほしくない。

「俺、嫌なことを避けてるだけだから」
「嫌なこと?」
「そう、俺は……ただ、啓生さんにいやいやって駄々こねてるだけ」
「んー、でも僕は嬉しいから、そうは思わないけどね」
 
 客観的に見れば、俺はただの駄々っ子だ。
 我儘言って、困らせているのはわかってる。

「咲也様はもっと啓生様にわがままを仰っても良いのですよ。啓生様など困らせてちょうどいいくらいですので」
「風都って、僕には本当に遠慮なくひどいよね。まぁ、咲ちゃんにちゃんとしてくれるなら良いけど」
「えぇ、誓って私の主は咲也様ですので」
「僕はどうでもいいって聞こえるのは気の所為じゃないよね~? 酷くない!?」

 啓生と風都の言葉の掛け合いは、軽口を叩く友達のようで、少しだけ羨ましくもある。
 だから、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけムッとしてしまった。
 
「啓生さんは、傷ついてなさそう」
「ん、ふっ! さ、咲也様、啓生様も人間ですので一応、傷つくことも有るかと存じます」
「え、あの」

 宗治郎の言葉に、え? え? と俺は戸惑う。
 人間以外に思ったこと無いんだけど……え、まかり間違ったら人間じゃなくなるの?
 アルファだから?

「そーじろー、その言い方もどうなの? ここに俺の味方は居ないの?」
「あ、いや……啓生さんは俺の味方でしょ?」

 自分でも何言ってんだろうって思ったけど、それ以上に目が点になったように俺を見つめてくる。
 そして、満面の笑みで俺を抱きしめてきた。

「うん、うん、そうね! 僕は一生咲ちゃんの味方だよ! あぁ、可愛い! この世界に存在して良いのか疑問になるぐらいの可愛さ! 大好き!」

 すりすりと頬ずりまでしてくるから、ちょっと嫌になって抜け出そうとした。
 けど、啓生は余計に力を込めて来て抜け出すにも抜け出せなくなってしまった。

「け、啓生さん?」
「あぁ、家から出ないで一生咲ちゃんと一緒に暮らしたい」
「啓生様、そろそろ咲也様をお離しください。今日は一日咲也様と一緒に居られるのですから」
「えぇー? もう少しだけ、ね? いいでしょ、咲ちゃん」

 キラキラした目で見つめられると、うっ、と息が詰まる。
 そして、視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。

「ありがとう、咲ちゃん! ほら、咲ちゃんもいいって言ってるし!」
「言わせたのでしょうが……まぁ、今日の報告はそちらだけでしたし、そろそろ昼食の準備をしてまいります」
「うん、お願い。あぁ、そう言えばそろそろ咲ちゃんも病院に行かないとだっけ?」

 ハッとしたように啓生は携帯を確認した。
 そうですね、と宗治郎が頷く。

「そうですね、咲也様の検診は次の週の中日に予定されております」
「そっか。僕も予定は空いてるんだよね?」
「もちろんです。啓生様も一緒に検診の予定ですので」
「え、僕も?」

 はい、と真剣な顔をして宗治郎は頷いた。
 その顔に反して啓生の顔は少しだけ悪い。
 病院が嫌いなのだろうか?
 ずーんと沈んだような啓生の頭をそっと撫でる。

「俺と一緒なんだ。じゃあ、安心だね」

 俺が、という言葉は飲み込んでおく。
 多分、それを言っても変わらなかった気がするけど、啓生は顔をぱぁっと明るくさせた。
 
「咲ちゃん……あぁ、もう神様の最高傑作だよね。僕の番は、本当に罪作りで神様が丹精込めて作ってくれたに違いない!」
「いや、意味わからない」
「そんな咲ちゃんも大好きだよ!」

 んっふふ~、と啓生は楽しそうだった。
 この人の方こそ、単純すぎるんじゃないかと少しだけ呆れてしまった。
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