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偶然通りがかった研究員の人に手伝ってもらって、紺野を仮眠室のベッドへと寝かせる。
そこまで運んだ時には、ぜーはーと息が切れた。運動不足とはこのことか。
「ところで、あなたは?」
「あぁ、えっと……紺野に拾われました?天川です」
「紺野さんに!?それは、なんというか……災難でしたね」
小さく、ごしゅ、まで聞こえたけど、俺は聞こえないふりをした。
ご愁傷さまってどういう意味だよ?紺野、どんなやばいやつ認定なわけだ?
「暫くすれば起きると思うので、天川さんもこちらでごゆっくりおくつろぎください」
そう言って、研究員の人は出て行ってしまった。
紺野と二人きりだが、紺野は寝たまま俺は暇でしかない。
かと言って、この部屋に何があるかと言えば何もない。
ベッド以外に何もなく、仕方なしにため息を吐いた。
携帯端末については、この施設に入る際、ロッカーの中に預けてしまっていて今、手元にない。
完全に手持無沙汰なわけだが、どうしたものか。
「いやいや、君のフェロモンは一種の才能だよね。ぜひ研究させてもらいたい」
「突然起きるなよ」
ぱちっと目を覚ました紺野が勢いよく起き上がる。
びくっと体をはねさせ、扉を見つめていた俺は振り返った。
「いや、君のフェロモンがまだほんのりと薄かったことが幸いしたよね。いやしかし、本当に興味深いね」
「おい」
「あぁ、わかっているよ。今日はサンプルももらったし、かえって大丈夫。昨日の運転手、笹川に遅らせよう。あぁ、昨日は勢いで連れてきてしまったけれど君の家でいいのかな?」
その言葉に、そういえば昨日無断外泊をしたのだと何の気なしに思った。けれど、夜が遅く朝も早く出ていく俺にはあまり関係のないことだったのかもしれないが。
「そう言えば、引っ越しをしたかったのだよね?良ければ私のセーフティハウスの一つに越してくるかい?」
「いや、遠慮しておく。家賃払えそうもないしな」
紺野の手引きで前の会社も辞めることになってしまった。
なら、俺が払える保証もない。紺野は、俺を引き抜くようなことを言っていたが、俺は医療関係者でもないし。
「あぁ、それについては問題ないよ。私の秘書としてこれから働いてもらうからね。君を連れ歩いても問題の無い立場だ」
「……秘書?」
「まぁ、仕事の内容は先輩秘書たちに倣ってくれればいいよ。彼女たちもまた、気のいい子たちばかりだから」
そういうものか?と首をかしげていると、引っ越しの準備もこちらで手配しよう、などと言い始めさすがに焦る。
「俺は実家暮らしだったんだ。そんな大掛かりな……」
「なら、運び出しはすぐ済むね。じゃあ、一緒に手配しておくよ」
そうして、俺が止める間もなくさっさと紺野は手配を済ませてしまった。
俺は、笹川さんの運転する車に乗せられ、もう一人の男性秘書だと言う人と共に実家に帰ることとなった。
「すみません、あの人強引なので」
「……だろうなぁ」
というか、すごい早業である。
問題は、両親や兄弟たちだ。引っ越したところでうるさそうだな、とは思うのだが。
ため息を吐けば、心配事など何もありません、お任せください、とさわやかに微笑まれてしまった。
心配なのは業者じゃないのだが……。
玄関のカギを開け、ただいま、と中に入れば、驚いた顔をして母がリビングからやってきた。
「え、あら?陸……?どうしたの、こんな時間に……」
母が戸惑うのも無理はない。そもそも、母の顔など久しぶりに見たというもの。
「俺、会社の関係で引っ越すことになったから」
前々から考えてあった一人暮らし用の言い訳をこんなところで使う羽目になるとは思ってもみなかったが。
「引っ越すって……今すぐに?」
「その点についてはご安心ください。業者のほうはもう手配済みです。引っ越し費用などもわが社のほうで負担できますので、少しの間お邪魔いたしますね」
ニコリ、と男性秘書の野口さんが笑う。
さわやかだなぁ、と思う反面、俺は胡乱な目で笑った。
「そう……体壊さないように気を付けるのよ、陸」
普段、俺の飯も用意しない人が何を言うか、と思うが対面がすべての母のセリフらしい。
はいはいと聞き流し、業者が来たので、俺の部屋への道を開けてもらう。
なんか、来るの早くね?と思うが、まぁ大企業というか、大手の会社の以来であれば当然なのかもしれないが。
そういうのは、なんかよくわからない。
「圧巻だな……」
ものの、数時間もしない内に、部屋のものは梱包され、ベッドなどの家具も運び出された。
あっという間に何もなくなった部屋の埃を掃除して全てが完了した。もちろん、玄関の俺の靴などもすべて運び出された後だ。
この家に俺という人間がいたという痕跡があっという間になくなってしまっている。
とは言っても、別に感傷的になったりはしないが。
もともと引っ越す予定だったのが、少し早まっただけ。紺野のおかげでこの家族と離れられただけ。
それでは、と俺は家を後にした。不思議そうな顔で俺を見る男性秘書の安元さん。
だが、本当に俺は簡単な挨拶だけして、家を、出た。
「良かったのですか?ほかのご家族の方にご挨拶などは……」
「別に、大丈夫ですよ。あの家は、俺がいても居なくても変わりませんから」
そう、変わらない。家族の団欒の中にも入っていない俺がいなくなったところで、変わるわけがない。
ベータの、一般的な家族になるだけだ。そう、アルファ(俺)という異分子を排除して。
「そう、ですか……これから、天川君の部屋までご案内いたしますね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
笹川さんの運転で再び、今度は俺の住む場所へと案内してもらった。
セーフティハウスの一つというが、この間のゆきと春とは違う部屋で、広いには広いが、彼らの住む部屋よりは狭く、マシなところだった。
だが、一人で住むにはやはり広い。
「ここで、一人暮らしすんの、俺……?」
「はい、ここがあの施設から一番近くの小さな部屋ですね。彼の所有物なので、家賃などはあまり気にしなくて結構ですよ。給料から天引きになりますので。天川くんはアルファだと伺っております。なので、もちろん番ができるかと思いますが、連れ込んでしまっても大丈夫ですよ」
「いや、そういう問題じゃない気がするんだが……まぁ、はい」
もらえるものは貰っておけ、精神でもういいや、と突っ込みから何からすべて諦めた……きっと、それらは意味のないことだから。
そこまで運んだ時には、ぜーはーと息が切れた。運動不足とはこのことか。
「ところで、あなたは?」
「あぁ、えっと……紺野に拾われました?天川です」
「紺野さんに!?それは、なんというか……災難でしたね」
小さく、ごしゅ、まで聞こえたけど、俺は聞こえないふりをした。
ご愁傷さまってどういう意味だよ?紺野、どんなやばいやつ認定なわけだ?
「暫くすれば起きると思うので、天川さんもこちらでごゆっくりおくつろぎください」
そう言って、研究員の人は出て行ってしまった。
紺野と二人きりだが、紺野は寝たまま俺は暇でしかない。
かと言って、この部屋に何があるかと言えば何もない。
ベッド以外に何もなく、仕方なしにため息を吐いた。
携帯端末については、この施設に入る際、ロッカーの中に預けてしまっていて今、手元にない。
完全に手持無沙汰なわけだが、どうしたものか。
「いやいや、君のフェロモンは一種の才能だよね。ぜひ研究させてもらいたい」
「突然起きるなよ」
ぱちっと目を覚ました紺野が勢いよく起き上がる。
びくっと体をはねさせ、扉を見つめていた俺は振り返った。
「いや、君のフェロモンがまだほんのりと薄かったことが幸いしたよね。いやしかし、本当に興味深いね」
「おい」
「あぁ、わかっているよ。今日はサンプルももらったし、かえって大丈夫。昨日の運転手、笹川に遅らせよう。あぁ、昨日は勢いで連れてきてしまったけれど君の家でいいのかな?」
その言葉に、そういえば昨日無断外泊をしたのだと何の気なしに思った。けれど、夜が遅く朝も早く出ていく俺にはあまり関係のないことだったのかもしれないが。
「そう言えば、引っ越しをしたかったのだよね?良ければ私のセーフティハウスの一つに越してくるかい?」
「いや、遠慮しておく。家賃払えそうもないしな」
紺野の手引きで前の会社も辞めることになってしまった。
なら、俺が払える保証もない。紺野は、俺を引き抜くようなことを言っていたが、俺は医療関係者でもないし。
「あぁ、それについては問題ないよ。私の秘書としてこれから働いてもらうからね。君を連れ歩いても問題の無い立場だ」
「……秘書?」
「まぁ、仕事の内容は先輩秘書たちに倣ってくれればいいよ。彼女たちもまた、気のいい子たちばかりだから」
そういうものか?と首をかしげていると、引っ越しの準備もこちらで手配しよう、などと言い始めさすがに焦る。
「俺は実家暮らしだったんだ。そんな大掛かりな……」
「なら、運び出しはすぐ済むね。じゃあ、一緒に手配しておくよ」
そうして、俺が止める間もなくさっさと紺野は手配を済ませてしまった。
俺は、笹川さんの運転する車に乗せられ、もう一人の男性秘書だと言う人と共に実家に帰ることとなった。
「すみません、あの人強引なので」
「……だろうなぁ」
というか、すごい早業である。
問題は、両親や兄弟たちだ。引っ越したところでうるさそうだな、とは思うのだが。
ため息を吐けば、心配事など何もありません、お任せください、とさわやかに微笑まれてしまった。
心配なのは業者じゃないのだが……。
玄関のカギを開け、ただいま、と中に入れば、驚いた顔をして母がリビングからやってきた。
「え、あら?陸……?どうしたの、こんな時間に……」
母が戸惑うのも無理はない。そもそも、母の顔など久しぶりに見たというもの。
「俺、会社の関係で引っ越すことになったから」
前々から考えてあった一人暮らし用の言い訳をこんなところで使う羽目になるとは思ってもみなかったが。
「引っ越すって……今すぐに?」
「その点についてはご安心ください。業者のほうはもう手配済みです。引っ越し費用などもわが社のほうで負担できますので、少しの間お邪魔いたしますね」
ニコリ、と男性秘書の野口さんが笑う。
さわやかだなぁ、と思う反面、俺は胡乱な目で笑った。
「そう……体壊さないように気を付けるのよ、陸」
普段、俺の飯も用意しない人が何を言うか、と思うが対面がすべての母のセリフらしい。
はいはいと聞き流し、業者が来たので、俺の部屋への道を開けてもらう。
なんか、来るの早くね?と思うが、まぁ大企業というか、大手の会社の以来であれば当然なのかもしれないが。
そういうのは、なんかよくわからない。
「圧巻だな……」
ものの、数時間もしない内に、部屋のものは梱包され、ベッドなどの家具も運び出された。
あっという間に何もなくなった部屋の埃を掃除して全てが完了した。もちろん、玄関の俺の靴などもすべて運び出された後だ。
この家に俺という人間がいたという痕跡があっという間になくなってしまっている。
とは言っても、別に感傷的になったりはしないが。
もともと引っ越す予定だったのが、少し早まっただけ。紺野のおかげでこの家族と離れられただけ。
それでは、と俺は家を後にした。不思議そうな顔で俺を見る男性秘書の安元さん。
だが、本当に俺は簡単な挨拶だけして、家を、出た。
「良かったのですか?ほかのご家族の方にご挨拶などは……」
「別に、大丈夫ですよ。あの家は、俺がいても居なくても変わりませんから」
そう、変わらない。家族の団欒の中にも入っていない俺がいなくなったところで、変わるわけがない。
ベータの、一般的な家族になるだけだ。そう、アルファ(俺)という異分子を排除して。
「そう、ですか……これから、天川君の部屋までご案内いたしますね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
笹川さんの運転で再び、今度は俺の住む場所へと案内してもらった。
セーフティハウスの一つというが、この間のゆきと春とは違う部屋で、広いには広いが、彼らの住む部屋よりは狭く、マシなところだった。
だが、一人で住むにはやはり広い。
「ここで、一人暮らしすんの、俺……?」
「はい、ここがあの施設から一番近くの小さな部屋ですね。彼の所有物なので、家賃などはあまり気にしなくて結構ですよ。給料から天引きになりますので。天川くんはアルファだと伺っております。なので、もちろん番ができるかと思いますが、連れ込んでしまっても大丈夫ですよ」
「いや、そういう問題じゃない気がするんだが……まぁ、はい」
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