婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜

夜桜

文字の大きさ
19 / 27

第19話 さらばザガート・ターン議員

しおりを挟む
 夜明け前、帝都は静けさに包まれていた。
 けれど、わたしの胸の内は、不安と決意でざわめいていた。

 レックスから聞かされた、“皇都混乱作戦”。
 ザガート・ターン議員の最後の悪あがき――帝都に混乱を起こし、その責任を軍に押し付け、大提督の失墜を狙うという恐るべき陰謀。

「これで最後です。……もう、終わらせなくては」

 そして、わたしたちは動いた。


 未明。
 南門の前で、奇妙な動きをする群衆が現れた。
 一見するとただの市民の集まりに見えたが、レックスはすでに察知していた。


「この群衆の中に、武装した扇動者が混ざっている。排除しろ」


 軍の精鋭部隊が即座に展開され、暴徒たちは即座に鎮圧された。
 混乱は未然に防がれ、ザガートの計画は水泡に帰した。

 その日の午後、元老院の特別審問会が開かれた。



「わたくし、ノア・クレメンタインは……元老院議員マグヌス・ローレンス殿および、ザガート・ターン殿の背信行為に関する証拠を提出いたします」


 大理石の広間に、わたしの声が響いた。
 貴族たちの視線が一斉に集まる。

 違法薬物“黒鉄花”の密売、クレメンタイン辺境伯への脅迫、さらには帝都襲撃計画。
 全てを、わたしとレックスは調査し、証拠を押さえていた。

 そして、レックスが立ち上がる。


「帝国軍大提督として断言する。ザガート・ターンは国家反逆罪にあたる。……これは軍の意志ではない。帝国のための、裁きだ」


「ふざけるなッ!」


 椅子を蹴って立ち上がったザガートが怒声を上げる。


「これは、軍の独裁だ! 私は正義のために動いただけだ!」
「正義……?」


 わたしは静かに彼を見つめた。


「あなたが救おうとしたのは、帝国ではない。あなた自身の野心よ」


 その瞬間、広間の空気が決定的に変わった。
 かつて彼に賛同していた議員たちまでもが顔を背け、誰も彼に手を差し伸べなかった。


「やめろ……! お前たち……わたしを見捨てる気かっ!?」

 護衛兵が彼の腕を押さえ、拘束する。


「まだ終わっていない……私は……私は帝国を……!」
「連行しろ」


 レックス様の冷酷な命令とともに、ザガートは引きずられていった。
 その顔は、もはや貴族の威厳も、理想も何も残っていなかった。



 夕陽が差し込む皇都の高台。
 風が静かに吹き抜ける中、わたしはレックスと並んでいた。


「これで……終わったんですね」
「いや。始まりだ、ノア」

 彼の横顔は、どこか寂しげで、でも穏やかだった。


「私は……これまで任務として、お前を守ってきた。だが……」


 彼がわたしの手を取る。


「今は、そうではない。ノア。お前を、帝国の大提督としてではなく……ひとりの男として守りたいと思っている」

 胸が、熱くなった。


「それって……」
「正式な言葉ではない。だが……私は、お前を妻に迎えたいと、心から思っている」


 答えは、まだ出せなかった。
 でも、心が躍っていた。


「わたしも……レックス様のこと、大切に思っています」


 彼の瞳が優しく細められた。

 帝都を巡る闇は払われた。
 けれど、まだ先がある。
 けれど今は――この人の隣にいられることが、ただ嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...