氷のように冷たい王子が、私だけに溶けるとき

夜桜

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ふたりの国づくり

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 朝日が昇り、薄紅色の光が湖面に揺れる。

 今日も、穏やかで優しい一日が始まった。
 けれど、わたしの心はどこか、そわそわとしていた。

 もっと、ふたりでできることがあるのではないか。
 そう思ったのは、昨日、村の人たちが「このあたりに診療所があったら……」と話しているのを耳にしたからだった。

 ここは辺境。
 医者も少なく、建物も足りていない。

 それなら、わたしが建てよう。
 聖女の力で。

 ケラウノスが山へ薪を採りに行っている間、わたしは屋敷の裏手にある空き地へ向かった。
 深呼吸して、静かに目を閉じる。
 掌に集中し、土の精霊に呼びかける。

「どうか、この地に新たな“拠り所”を」

 わたしの祈りに応じて、大地がやさしく波打ち始めた。
 木の根が伸び、土が持ち上がる。
 聖なる光が舞う中、小さな木造の小屋が姿を現した。

 簡素ながらも、風雨をしのげる立派な建物だった。

「ふう……」

 額の汗をぬぐいながら振り返ると、そこにはケラウノスが立っていた。

「ネリネ……これは、君が?」

 驚きと感嘆が入り混じった声。
 彼は、まるで何かに気づいたような目でわたしを見つめていた。

「すごい……君の力は、こんなにも……」

 彼はゆっくりとわたしの手を取った。

「君の力があれば、この辺境の地を……いや、ひとつの“国”として育てられるかもしれない」

 わたしはきょとんとして、彼を見上げた。

「く、国って……」

「夢じゃない。君とならできる。争いのない場所、人々が安心して暮らせる国を、俺たちで作るんだ」

 真剣なその瞳に、胸がどきんと鳴った。

 彼が本気なのだと、すぐにわかった。

 この人は、本気でこの辺境を、ふたりの理想郷に変えようとしている。

「……わたしに、できることがあるなら……全部、やります」

 わたしがそう答えると、彼は穏やかに微笑み、優しくわたしを抱きしめてくれた。

 その胸の中は、あたたかくて。
 安らぎと、未来の夢が詰まっていた。

「愛してるよ、ネリネ」

 耳元で囁かれた声に、胸がいっぱいになる。

「……わたしも、愛しています」

 言葉を返すと、彼はわたしの髪にそっとキスを落とした。

 その日の午後、ふたりで村を訪れた。
 診療所を建てたことを伝えると、村の人々は心から喜んでくれた。

「ありがとう……ありがとう聖女様!」

 その声に、胸がじんと熱くなる。

 ケラウノスが隣で「うちのネリネはすごいだろう」と得意げに言うものだから、わたしは顔を真っ赤にしてしまった。

 夜、満天の星の下、ふたりでベランダに腰かけ、湖を見ながら語り合う。

「国づくり、かぁ……まさかこんな未来が待っていたなんて」

 わたしが呟くと、彼はそっとわたしの手を取った。

「君と出会ったからだよ。ネリネ、君が俺に力をくれた。愛をくれた」

「……そんな……」

 でも、わたしも同じだった。

 彼がいたから、わたしはここまで来られた。
 愛されて、支えられて、ようやく自分を好きになれた。

 わたしたちの国――それは、もしかすると世界で一番小さくて、一番愛おしい国かもしれない。

 けれど、これから少しずつ、大きくしていく。
 わたしと、ケラウノスで。

 ふたりで築く未来を、これからも――
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