兄をたずねて魔の学園

沙羅

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15 ~天Side~

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「どうして、呼ばなかったの」
「逆に、どうして会長が来たのかの方が気になるんですけど……」

問い詰めたい気持ちはあったが、確かにそれは真っ当な疑問だと思い、まずは彼の質問に答えることにする。

「黒薔薇のネクタイピン、実はGPSと盗聴器がついてるんだよ」
「えっ!? これにそんな機能が……ってか、なんで教えてくれなかったんですか。無断でって犯罪じゃあ……」
「結果的に助かったんだからいいでしょ。こんな時でもなかったら使うつもりもなかったし。それに、情報を知っている人が増えれば対策される可能性も上がってしまう」
「まぁ、それはそうだけど……」

半分納得していて、もう半分は懐疑的な反応をしている。それでもこちらは質問にちゃんと答えたのだから、今度こそ質問に答えてもらわなければならない。

「それで、どうして呼ばなかったの。気絶なんかしてまで」
「えー……、あんまり、覚えてないんですけど」
「覚えてるだけでもいいから」

この子のことは、理解ができない。
目的に向かって真っすぐ進む、自分と似たような人間なのかとも思ったけれど、それだけならば相手の見ていないところでまで必死に耐える必要はない。脅されて仕方なくであれば、許せるくらいの器量は自分にだってあるのだ。
まぁ、そんな器量すらないとこの子に思われているのであれば別の話だが。

信用してもらえていないのか。それとも、目的のため俺に迷惑をかけてはいけないと思い込んでいたからなのか。真意を知りたくて、彼から言葉が紡がれるまでじっと待つ。

「たぶん俺が、あいつらの思い通りになるのが嫌だっただけです」
でも彼の口から出たのは、打算のない真っすぐな言葉だった。

「あいつらは、会長のことなんて全然知らないくせに噂に流されて逆恨みしてて。そのうえ、俺をさらって優位に立たないと会長に会えないような卑怯者でした。そんな汚い奴らに、会長を会わせたくないと思った。……だから、あんな行動に出たんだと思います」
「なに、それ」
「俺、会長は案外まともだと思ってますから」
「どういう意味」
「優しいんですよ。冷たいように見えて、意外と身近な人を遠ざけられない。俺に流されてしまったのが、その証拠です」

優しいだなんて、初めて言われた。いや、自分に心酔している人間には言われることもあったけれど、実際に周りにいる人間からは「合理的」「冷静」なんてどちらかと言えば正反対の印象で評価されることが多い。

「目、おかしいんじゃないの」
普段されない角度からの褒め言葉に、つい悪態をついてしまう。自分でも子どもみたいな反応だと思った。
「えー、視力は良い方なんですけどね」
とぼけた彼の言葉に、2人で笑い合う。なんだかこの子といると、会長として取り繕わなくていい自分がいると気付いた。

「上、脱いで。別に何もしないから。手当するだけ」
痣ならたしか、冷やすのが一番効果的だったはずだ。塗り薬は今はないから、後で保健室からもらってこなければ。タオルを水で濡らしてしぼり、あらわになった彼の肌にそっと当てる。

「いって……」
「俺も、君は優しすぎるほどに優しいと思うよ」
お腹も背中も、紫色の痣が浮かんでいる。服の上からではあまり分からなかったから手加減してしまったが、やっぱりあいつらをもっと痛めつけておけばよかったと思った。

「でも、もっと自分を大切にして」
痛々しい姿を見てつい口に出した言葉に、どの口が、と自分で突っ込みを入れる。同時に、こんな忠告をする自分に自分で驚いていた。
「なんか会長、変わりました? 確かに今までも優しさの片鱗はありましたけど……そんなこと言う人でしたっけ」
「……うん。変わったの、かも」

秋弥が帰って来ないと思ったら、怖かった。
秋弥が襲われていると知ったら、一瞬で頭に血がのぼった。
秋弥が無事に帰ってきて……、心底ほっとしている。自分を守ろうとしてくれた痣だらけの背中が、なんだかとても愛おしい。

あぁ、そうか。と腑に落ちた。
彼は既に、自分の中の「価値のある人間」になっているのだと。

「完敗だよ、君には」
「え」
「近くに居てこんなに居心地がいいの、初めてなんだ」

卑怯だな、と思う。兄のことを利用して勝手に側に置いておきながら、こんなことを言うなんて。

「好きだよ、秋弥」
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