兄をたずねて魔の学園

沙羅

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こうして、天先輩との生活が始まった。この生活を始めるに当たって、大きく変わったことが2つあった。

まず1つ目は、連絡が制限されたということ。これまでも『サポーター』である俺と頻繁に連絡をとる人なんてあんまりいなかったけれど、朝陽先輩、郁夜先輩、そして夕斗と連絡がとれなくなるのは意外だった。天先輩曰く、連絡が途絶えることで彼らが心配して、派手に声を挙げてくれるからということらしい。騙すような形になってしまうのは申し訳ないなと思いつつも、先輩の言うことも理解ができたので従う形となった。1カ月も経たないうちに、ネタばらしをすればいいのだし。

もう1つは、天先輩と居る時間が各段に増えたということであった。今までは授業に出れていたのでその時間はもちろん顔を合わせていなかったし、同じ部屋とは言いつつも先輩が自分のスペースに引きこもることが多くて「一緒にいる」という感覚は少なかった。
それがどうだ。
今では先輩はほとんどの時間を共有スペースで過ごし、俺と一緒の空間で生活をするようになった。座る距離も近いことが増えて、その度にあの告白を思い出し、恥ずかしさと罪悪感が胸の中を巡っている。

そして天先輩も授業に行くのをやめ、それもまた2人の時間を増やす大きな理由となった。
「俺だけでいいんじゃないですか」と尋ねたものの、「噂の内容的に俺と秋弥が1日中部屋で過ごしていることにした方がいいから」と返された。どういう理屈なのかは分からないけれど、「それに、一緒に過ごす時間が増えることで情が湧いてくれないかな。なんて考えてたりもするしね」と重ねて返され、恥ずかしさにそれ以上追求することが出来なかった。



まるで学校に居るなんて嘘みたいに、部屋で2人過ごす。自主休講どころではなくて、この状況を親が見たら怒られそうだななんて思った。
せめて勉強だけはしたいという俺の意思を汲んで、勉強だけは天先輩が教えてくれている。
天先輩は根っからの天才で、「なんで理解できないか理解できない」っていうタイプらしいけれど、それでも俺のために言葉を変えて何度も説明してくれる優秀な先生だった。



天先輩の恋愛する姿は想像できなかったから、実際にその対象が自分になると変な感じだ。
もともと物腰は柔らかい人ではあったが、妙な威圧感や言葉の裏に込められた皮肉が、今は完全に消えている。しかも意外と、好きな人には尽くすらしい。
そうなってしまえばただの最高に優しくてかっこいい人で、こんな状況でもなければ本当に恋に落ちていた未来もあったかもしれないなと感じた。
まぁ、こんな状況でもなければ天先輩と会うことはなかったのだけれど。と思い直し、先輩と自分には兄のことを除けば本来何の繋がりもないことを痛感する。

変わった彼の態度と、甘い生活。日々の暮らしの中で、あの告白を頻繁に思い出す。
返事を保留にしている自分は卑怯だと思ったけれど、どう返すのもしっくりこなかった。

彼という人間を知って、最初の嫌悪感はなくなった。むしろ今は、好ましいとは思っている。このまま兄のことが解決して、離れてしまうのは悲しいなと思うほどに。
でも、この状態で彼を好きになって、果たしてそれが続くのだろうか。
こんな完璧な人が、俺を好きになったのが一時の気の迷いじゃないなんて、どうしても思えなかった。好きになった頃に捨てられる未来しか、自分には思い描けない。



「もう勉強はいいんじゃない? これ以上今日やったら秋弥の脳パンクしちゃうよ」
「今日はDVD見ようよ。借りてきたんだ、面白そうなやつ」
「昼間に外に出れない分、夜一緒にお散歩でも行こうか。窮屈な生活させてごめんね」

気にかけてくれる言葉が、嬉しくてくすぐったい。
存外快適な生活のわりに、心はどこか落ち着かなかった。
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