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7.偽装婚約(2)
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「この二人が主に貴方の世話をするメイドたちです。では、俺は公務がありますので。」
そう言って執事はどこかへ行ってしまった。
メイドの一人は中年で恰幅がよく、もう一人はそばかすが目立った女だ。
二人は貧相な僕をじろじろと観察しているだけで何も話しかけてこない。
いたたまれなくなった僕は声を発することにした。
「よろしくお願いします、リリア・エルレルトです。」
と蚊の鳴くような声で自己紹介をすると、二人はふんと威張って言う。
「私がメイド長のガードルード。そして娘のアリサ。よろしくお願いします、お嬢様!」
どうやらこの人たちは僕にとっていい人ではないみたいだ。
僕を巡って面倒事が起きそうな予感がする。
それから部屋に連れて行ってもらうことにしたが、そこまでの道のりがイライラの連続だった。
「リリアさんって、エリス様のお姉様なんでしょう?」
「聞きましたよぉ?罰としてここに来たって!」
「先代の様子がおかしい時に来てくれていたらなぁ!」
僕のことは罵倒してもいいと思うが(それ相応のことをさせられてきた)、先代のことを悪く言うのは働くうえで支障をきたさないか?と思うのは僕だけだろうか。
先輩面も疎ましいし、過去を掘り返して僕の心を折ろうとする魂胆が見え透いているのも意地汚い。
「着きました!」
通された部屋は別館の角部屋だった。
埃の被ったドアノブをひねると、中は蜘蛛の巣まみれ、ベッドは萎びた、そんなボロ部屋景色が広がっている。
「あの…本当にこの部屋なんですか?」
いくらなんでも…いや、未来の皇太子妃を虐めた女には当然の待遇か?
「えぇ、ユーリス様は厳格な方よ、妻であっても悪女にぴったりの部屋が用意されたってわけ。」
「なるほど…。」
二人がいなくなってから僕は自身を納得させ、まずは窓を開けた。
冷たい新鮮な空気が部屋を駆け巡る。
よく考えれば特段持ち物もないし、これだけの広さがあれば十分に生活できそうだ。
シーツなども洗えば使えるし、部屋は掃除すればいい。
普通の貴族ならここで諦めるが、僕は幼い時から家事を召使いと一緒にさせられてた身だ。
馬小屋の糞の掃除を体験してみろ、今この程度の汚さで僕が折れるわけがない。
廊下に立てかけられていた掃除道具を取っていざ開始。
夕方まで必死に続け人間が住めるくらいの綺麗さに回復した。
「リリアさん、何をしてるんですかぁ?みんなが貴方の悪事を知ってるのに今更評価上げしようなんて。」
驚いた…掃除に集中しすぎて若い方の女中が見えていなかった。
僕は下がってきた袖を巻くって笑顔で言う。
「部屋の掃除です。貴方たちの仕事を減らしているのだからとやかく言われる筋合いございません。」
若い方…アリサは顔を真っ赤にして捨て言う。
「ふん、いつまでその皮が持つのかしら!?」
下だと思っている者から突然攻撃を食らうと皆ああいう顔をするんだなぁ。
滑稽だから僕は好きだけどね。
すっかり夜になり、お腹が空いたので本館の食堂へ行ってみる。
別館への行きしな、ご飯のいい匂いがしていたのでここへは行き方が分かる。
だが時間が合わなかったのか食堂は真っ暗だった。
かろうじて奥の照明が付いていたので覗いてみるとシェフたちが賭け事をしている。
「すみません、私のご飯は…。」
四人全員が僕を凝視する。気まずい…。
「旦那様からから頼まれていないので作っていません。」
「そうですか。」
ユーリス様はご飯もくれないのか。
かなりリリアのことを嫌っていることが分かる。
もしかして僕の知らないところで本物のリリアと繋がっていてすでに攻略済みなのか?
うーん、ここまでの悪待遇、その説が濃厚だな。
そんなことを考えながら別館への渡り廊下を歩いていると、女中たちがすれ違った僕をちらちら見て言う。
「あんな汚い女、旦那様が愛すはずないわ。」
そうだよね、服は半日の掃除で埃まみれ。手土産もなく、称号もない。
あるのは悪女というレッテルだけ。
しかし残念なことに、僕は男に愛されようという気は更々ない。
双方干渉しないこの関係が今後一番楽なのだ。
部屋に戻りベッドに飛び込む。
寮のものよりは簡素で体が痛くなりそうだが、こういう庶民的なものに慣れておけば、この城を出た後生活に適応しやすくなるに違いない。
グぅとお腹が鳴る。最後にご飯を食べたの…いつだったっけな。
「お腹空いたな…。」
今にも飢え死にしそうだ。
でも死んだらダメなんだ、だから明日も生き残る。
「仕方ない、明日買いに行こう。」
ありがたいことに城下町はあるし、隣の領はかなり大都市らしいので最悪そこまでいけば生活必需品は揃う。
今ははした金しか持ち合わせていないが、セントヘレナの人達に隠れて働けばいい。
そう、なんて言ったって、僕は自由なのだから!
朝、勝手に出ていこうとするとどこからともなくあの執事が現れた。
薄着の僕を見るなり大きな溜息をつく。仕方ないだろう、この一着しか持っていないのだから!
僕は早く出たいので無視して玄関へと向かう。
「どこへ?」
そのぶっきらぼうな物言いに、こちらこそ溜息をつきたくなる。
「街です。心配しなくても逃げたりしないですよ。」
「セントヘレナ家に泥を塗るような真似はおやめ下さい。」
言葉選びを間違えた。
この人たちは第一に家名の心配をしているのは重々承知している。
「はいはい。」
僕は上っ面で返事をし、さっさと扉を閉める。
不愉快不愉快。早急にお金を貯めて出ていこう。
そう言って執事はどこかへ行ってしまった。
メイドの一人は中年で恰幅がよく、もう一人はそばかすが目立った女だ。
二人は貧相な僕をじろじろと観察しているだけで何も話しかけてこない。
いたたまれなくなった僕は声を発することにした。
「よろしくお願いします、リリア・エルレルトです。」
と蚊の鳴くような声で自己紹介をすると、二人はふんと威張って言う。
「私がメイド長のガードルード。そして娘のアリサ。よろしくお願いします、お嬢様!」
どうやらこの人たちは僕にとっていい人ではないみたいだ。
僕を巡って面倒事が起きそうな予感がする。
それから部屋に連れて行ってもらうことにしたが、そこまでの道のりがイライラの連続だった。
「リリアさんって、エリス様のお姉様なんでしょう?」
「聞きましたよぉ?罰としてここに来たって!」
「先代の様子がおかしい時に来てくれていたらなぁ!」
僕のことは罵倒してもいいと思うが(それ相応のことをさせられてきた)、先代のことを悪く言うのは働くうえで支障をきたさないか?と思うのは僕だけだろうか。
先輩面も疎ましいし、過去を掘り返して僕の心を折ろうとする魂胆が見え透いているのも意地汚い。
「着きました!」
通された部屋は別館の角部屋だった。
埃の被ったドアノブをひねると、中は蜘蛛の巣まみれ、ベッドは萎びた、そんなボロ部屋景色が広がっている。
「あの…本当にこの部屋なんですか?」
いくらなんでも…いや、未来の皇太子妃を虐めた女には当然の待遇か?
「えぇ、ユーリス様は厳格な方よ、妻であっても悪女にぴったりの部屋が用意されたってわけ。」
「なるほど…。」
二人がいなくなってから僕は自身を納得させ、まずは窓を開けた。
冷たい新鮮な空気が部屋を駆け巡る。
よく考えれば特段持ち物もないし、これだけの広さがあれば十分に生活できそうだ。
シーツなども洗えば使えるし、部屋は掃除すればいい。
普通の貴族ならここで諦めるが、僕は幼い時から家事を召使いと一緒にさせられてた身だ。
馬小屋の糞の掃除を体験してみろ、今この程度の汚さで僕が折れるわけがない。
廊下に立てかけられていた掃除道具を取っていざ開始。
夕方まで必死に続け人間が住めるくらいの綺麗さに回復した。
「リリアさん、何をしてるんですかぁ?みんなが貴方の悪事を知ってるのに今更評価上げしようなんて。」
驚いた…掃除に集中しすぎて若い方の女中が見えていなかった。
僕は下がってきた袖を巻くって笑顔で言う。
「部屋の掃除です。貴方たちの仕事を減らしているのだからとやかく言われる筋合いございません。」
若い方…アリサは顔を真っ赤にして捨て言う。
「ふん、いつまでその皮が持つのかしら!?」
下だと思っている者から突然攻撃を食らうと皆ああいう顔をするんだなぁ。
滑稽だから僕は好きだけどね。
すっかり夜になり、お腹が空いたので本館の食堂へ行ってみる。
別館への行きしな、ご飯のいい匂いがしていたのでここへは行き方が分かる。
だが時間が合わなかったのか食堂は真っ暗だった。
かろうじて奥の照明が付いていたので覗いてみるとシェフたちが賭け事をしている。
「すみません、私のご飯は…。」
四人全員が僕を凝視する。気まずい…。
「旦那様からから頼まれていないので作っていません。」
「そうですか。」
ユーリス様はご飯もくれないのか。
かなりリリアのことを嫌っていることが分かる。
もしかして僕の知らないところで本物のリリアと繋がっていてすでに攻略済みなのか?
うーん、ここまでの悪待遇、その説が濃厚だな。
そんなことを考えながら別館への渡り廊下を歩いていると、女中たちがすれ違った僕をちらちら見て言う。
「あんな汚い女、旦那様が愛すはずないわ。」
そうだよね、服は半日の掃除で埃まみれ。手土産もなく、称号もない。
あるのは悪女というレッテルだけ。
しかし残念なことに、僕は男に愛されようという気は更々ない。
双方干渉しないこの関係が今後一番楽なのだ。
部屋に戻りベッドに飛び込む。
寮のものよりは簡素で体が痛くなりそうだが、こういう庶民的なものに慣れておけば、この城を出た後生活に適応しやすくなるに違いない。
グぅとお腹が鳴る。最後にご飯を食べたの…いつだったっけな。
「お腹空いたな…。」
今にも飢え死にしそうだ。
でも死んだらダメなんだ、だから明日も生き残る。
「仕方ない、明日買いに行こう。」
ありがたいことに城下町はあるし、隣の領はかなり大都市らしいので最悪そこまでいけば生活必需品は揃う。
今ははした金しか持ち合わせていないが、セントヘレナの人達に隠れて働けばいい。
そう、なんて言ったって、僕は自由なのだから!
朝、勝手に出ていこうとするとどこからともなくあの執事が現れた。
薄着の僕を見るなり大きな溜息をつく。仕方ないだろう、この一着しか持っていないのだから!
僕は早く出たいので無視して玄関へと向かう。
「どこへ?」
そのぶっきらぼうな物言いに、こちらこそ溜息をつきたくなる。
「街です。心配しなくても逃げたりしないですよ。」
「セントヘレナ家に泥を塗るような真似はおやめ下さい。」
言葉選びを間違えた。
この人たちは第一に家名の心配をしているのは重々承知している。
「はいはい。」
僕は上っ面で返事をし、さっさと扉を閉める。
不愉快不愉快。早急にお金を貯めて出ていこう。
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