時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた

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11.魔界の姫(2)

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『水の効果は一時的なものだ。すぐに女の姿に戻るだろうよ。』

これらの泉の水は薬を解毒したり、傷を癒したりする効能があるそうだ。
ただ僕の体内に長年存在している薬はかなり強いらしく、本来の僕に戻るためには泉水を数回に分けて飲み続ける必要があると言っていた。(しかし金輪際近づくなと警告されたのでそれは不可能だが。)

それにしても『魔女の加護』が僕みたいな平凡な人間に与えられたなんて…。
今思えば時間を戻されてからやけに勘が鋭かったし、運動能力も格段に上がっていたのが不思議でたまらなかった。
魔女の力ね…。
あの美しい人に膝枕されていたことを思い出し顔が火照る。

僕はおもむろに泉に潜った。
さっき殴られた箇所の痛みがどんどん引いていく。
水中で目を開け、上を見ると鮮明にあの石を覗いた時のような景色が広がっている。
世界に、こんな美しい場所があるなんて思いもしなかった。
徐々に息苦しくなり水面に上がる。

完全に体が癒えたところで出ようとすると突如地鳴りが始まった。

「次はなんだ⁉︎」

僕は急いで泉から出て濡れた服を絞る。
どこからかゴゴゴゴゴと轟音を立てて何かがこちらに近づいてくるのが分かる。

「何か…くる!」

その瞬間、対面する茂みからとんでもなく大きな魔獣が現れた。
魔獣は泉を踏みつぶしながら向かってくる。
この美しい場所が壊される…。

「落ち着け…。」

心臓は恐怖で正直破裂しそうだ。
自分の数百倍もある化け物が突進してきているのだから。
でも…

「絶対止める…!!」

僕は剣を抜き、足に力を込めて飛び上がり魔獣の額を一突きする。
魔獣の顔がガクッと地面につき速度は落ちたが、そのままの威力で前へ進もうとする。
渾身の力で剣を押し込もうとするが鱗が硬すぎる。

「ひびがっ…!!!」

安物の剣は嫌な音を立てて稲妻のような白い線を現す。
後方には木が迫ってきているのを感じる。
あぁ、このまま僕ごと木に追突して殺す気だ。

「もう、無」
「人間、よくやった。」

そう聞こえた刹那、巨体の動きが止まった。
僕は魔獣の額から力なく滑り落ち、その場で大の字に寝転んだ。

「姫様‼︎ご無事ですか!」
「こいつが足止めしておったわ。諸刃の剣でな。」

目を開けると僕をボコしてきた先程の幼女と部下が頭上にいた。

「お前に感謝はせぬ。その力は魔女のものだからな。」
「そうですね…でも、なんとか守れて、よかった、です。」

僕ができる限りの笑顔でそう言うと幼女はなぜかそっぽを向いてしまう。
一方部下は魔獣を一瞥し眉間を押さえる。

「最近、このような事が多いですね…。対策せねば。」

幼女は少し考えて閃いた!という顔で言う。
またもや嫌な予感がする。

「そうだ!人間、お前が間引きしろ。」
「はい?」

素直に断らさせていただきたい。
まず僕は今日初めて魔界に来た初心者で、さっきから命辛々なんですが。

「私はだからな、この場所を離れる事はできない。」

この子が…王様?自称?いや、強いことは確かだ。本当なのだろう。
なるほどだから物言いが時たま腹立たしい時があるのか。

「その点、人間は境界を行き来できる。実に便利な生き物だ。」

読んだことがある。
魔族には属性があり、深部生息域には境界が張られていると。(一説に過ぎないと思っていた。)
確かに人間は属性関係なく魔界全域に行くことは可能だ…。

「それで、僕にどうしろと?」

僕はなんとか体を起こす。茶色の髪の毛が胸元まで伸びている。

「さっきも言った通り、お前は魔界の厄介者を始末する。簡単な仕事だろ?」
「か、簡単…?」

もうあんな命の危機を感じたくないが…。
すると王女様(?)は自信たっぷりに胸を張っている。

「安心しろ、私もお前に死んでもらっては困る。剣の稽古くらいはつけてやろう!」

剣の稽古は人間界でも使えるからありがたい…だがあんな強さの魔獣を狩るのはまた別問題だ!
僕が疑心暗鬼になっていると女の子は僕の心臓あたりに指を当ててくる。
さっきはこの指から高出力の水魔法が…完全に生殺与奪が握られているってこと!?

「金儲けしたくて魔界に来た事はお見通し。人間界に帰りたいなら承諾することだな。」

…半分脅しじゃないか!

「が、頑張ります。」
「よしその粋だ!」

こうなったら仕方ない…いろいろな意味でやるしかない。
それに…珍しい魔獣を合法的に間引いて持って帰ったらかなり高額で売れるかも…!
彼女との利害の一致は免れない、か…。

「まずはさっき倒したやつを使って解体の仕方を教えるぞ。」

彼女は既に魔獣の胴体の上に立っている。
僕は立ち上がり、鱗を伝ってよじ登る。
足元には死体の匂いを嗅ぎつけた虫たちが蠢いている。かなりグロテスクな光景だ…。

「変な虫みたいなのがたかっています…。」
「自然なことよ。ほれ早くするぞ、食べられる前に。」

僕は部下ゾークさんから借りた短刀で尻尾から四肢、そして頭部と分けて解体し、内臓の部分は幼女が魔法で切り捌いた。
周囲は異様な匂いが立ち込め、四肢と頭部、内臓は少し歩いたところにある崖に捨てられた。(尻尾は戦利品としてもらった。)
幼女曰く、魔獣の死体はこの崖から落とされ、下にいる虫や小魔獣が分解し、残った骨はそれらの住処になっているそうだ。環境が上手く循環している。

「どうしてこの魔獣は暴走したんでしょう…?」
「死期が迫っていたか、はたまたこの泉を壊そうとしたか…まだわからぬ。」

怪訝そうな顔…きっと不可解なことがあるに違いない。
本能がこれ以上踏み込んではいけないと伝えてくる。魔界のことだ。関わらない方がいい、それは分かっている…だが独立のため、サラサのためにもお金が必要なんだ。
利用できるものは何でも利用しなくては。

「魔族の個体が増えると同時に我々王の管理が行き届かなくなる。それが原因だと今は考えられる。だから、行動制限のない人間のお前に間引きを任せるのだ。」
「そうですか…あぁ、貴方の名前を聞いても?これから師匠となる方ですから。」
「ネリーネじゃ。」

そう言ってこの小さい師匠は握手を求めてくる。
彼女にとっても僕にとっても打算的関係。
でもいつか…こうやって手を差し伸べてくれたんだ、いつかはここも僕の居場所になればいいな。

「僕はアルバートです。ご指導よろしくお願いします、ネリーネ師匠。」
「ふん。」

こうして僕のお仕事がまた一つ増えた。
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