13 / 14
12.ユーリス・セントヘレナという男
「お帰りなさい!戦利品をどうぞ!」
あれだけ魔界にいた時間は長く感じられたのに、こっちの世界ではまだ夕方になっていなかった。
受付のお姉さんにもらった尻尾を渡す。
「お願いします…。」
お姉さんは目を丸くして、分厚い本を勢いよくめくる。
「こ、これは…お待ちくださいね。すごい!40万セシルです。」
「え?」
「バブロルという希少種の尻尾だと思います。こちらは深層部でしか手に入らない貴重なアイテムでしてこのお値段になります!」
そうか、普通は穴に落ちて深層部に行ったりしないし、そこの主に会って弟子入りしたりすることはないのか。
本当に僕ってば、ツイてる男だな!
「あ、ありがとうございます!」
40万セシルという今まで手にしたこともないような大金がテーブルに積まれ、ほくほくな思いでバッグに詰め込む。
この調子でいけば、予定より早くあの城から出ていくことができそうだ。
サラサのお母さん探しと並行して、もう一つやりたいことを今からやろう!
やってきたのは地権管理のお店。
もう一つのやりたいこと…それは村を作ること。
村を作ればまたできることが増えるし、身寄りのない人たちが安全に生活できる。
「村の建設?お嬢さんが?」
一見、庶民の娘という風貌をしているので驚くのも無理はない。
「森の地権を買い取るのと、建築できる人を雇いたくて。」
担当してくれているおじさんは疑ってかかり少し嫌味な口調で言う。
「でも高いよぉ?貴族じゃなきゃ」
「ここに前金として40万あります。」
するとおじさんは手のひら返しで棚から地図を取り出してくる。
「帝都とセントヘレナ伯爵領の間にある森の一角くらいなら安いでしょ?」
帝都とセントヘレナ領は馬車で二日かかるほど離れている。
その間の森は全く開発されておらず、手の施し甲斐がある。
「安いと言ってもその規模だと1000はするよ?払えんのかい?そこに職人も1人つければ+100。」
「もちろん可能です。」
魔界で一か月働けば払える金額だ。ありがたい。
「おじさんがあの場所を私のために押さえてくだされば手数料も100乗せてお支払いします。」
「のった!」
金が人を動かすことは元家族を見ればよくわかることだ。
こういった莫大な交渉を怖気ずにしているところをみると、僕もやはりあの一族だったという事実が蘇ってくる。
今頃、浮かれたリリアは皇太子と結婚の用意を進めているに違いない。
帝都の人はもう僕のことなんて忘れている。人間は鉄みたいなものだから。
普段なら玄関に誰もいないのに今日はあの執事が渋い顔をして待っていた。
「帰りました。」
どういう反応をすれば分からず素っ気なく言う。
執事は玄関の時計を見て溜息をつく。
「こんな遅い時間まで…はぁ、お帰りなさいませ。」
苦言を呈したいだけならよしてくれ、とも思うが、心の内を言ったらさらに呆れられそうなので黙っておこう。
「ユーリス様が貴方と面会したいとおっしゃっています。すぐに着替えて、応接間に来るように。」
ユーリス、ユーリス…、自分が最近忙しくて、書斎から出てこない婚約者のことを全く忘れていた。
そうだ、僕は『白い婚約』をしている最中だった。
はぁ、このままずっと顔を合わせないのでも僕は良かったよ!!!
「は、はい…。」
着替え?必要ない。何せ僕の部屋には普段着しかないのだから。
執事は質素な服を着ている僕をいぶかしげに見つめるも、ご丁寧に主がいる書斎まで案内してくれた。
僕は緊張しながら扉をノックする。
「失礼します。」
そう言って入ると中には筋骨隆々な男の人が奥に座っている。
銀髪をスマートに切り揃え、一般的に褒められる顔面を持っているこの男がユーリス・セントヘレナ。
実に貧弱な僕と比べると羨ましい限りだ。
年は一つ上だと聞いているが…すでに歴戦の猛者のような風格がある。
「1週間前にこちらに来ました。リリア・エルレルトです。」
「父のことがあって中々顔を合わすことができずにすまなかった。」
へー貴族って謝ることができたんだ!(新発見)
かといって、僕の悪女人生の真相を知ってもらおうなんて思わないから安心しろ。
「あ、いえ…お気になさらず。」
「君は皇太子から流罪の命を受け、ここに来た。父は俺に君を遺したが…俺は君を愛することはない。」
「承知の上です。」
少し食い気味に返事をしてしまった。
僕も男を好きになることはないからお互い様ってことで!うんうん、よかった!
嬉しさが顔に出ていたのか(?)、ユーリスはやけに冷たい目で僕を見てくる。どういう感情…?
普通貴方も悪女から好かれなくて喜ぶ側だろ?
「…ならいい。変に勘違いされても困るからな。故に俺の関係ないところであれば好きに暮らしてくれ。ただし、散財だけはやめてほしい。」
「はい。」
もちろん、自分で使うお金くらい自分で稼げます。
「話は以上だ。」
そう言って、初めての面会は瞬時に終わった。
ユーリスは表情筋が働いていないのか?と思うほど無表情で話しかけてくるものだから、僕もどんな顔をしたらいいのかあまり分からなかった。
でもまぁ余計なことを聞かれなかっただけありがたい。
本当にユーリスは僕に興味がないんだな。当たり前か。
ユーリスは実害がないのでそれでいい。鬱陶しいのはあの二人の女中だ。
今日も今日とて部屋に戻る僕を見るなり、ぼそぼそ何かを呟いている。黙って仕事してくれ。
最近は前のように直接嫌がらせをしてくるわけではないので、何か裏で企んでいそうな気がする。
気を付けなくては…。
部屋に戻り、空を見上げる。
さっきまで止んでいた牡丹雪がまた降ってきた。
「早く逃げたい。」
春が来る前にはここを出なくてはいけない、今度は自分のために生きる道を諦めたくないから。
孤軍は耐えて雪解けを待つ。
あれだけ魔界にいた時間は長く感じられたのに、こっちの世界ではまだ夕方になっていなかった。
受付のお姉さんにもらった尻尾を渡す。
「お願いします…。」
お姉さんは目を丸くして、分厚い本を勢いよくめくる。
「こ、これは…お待ちくださいね。すごい!40万セシルです。」
「え?」
「バブロルという希少種の尻尾だと思います。こちらは深層部でしか手に入らない貴重なアイテムでしてこのお値段になります!」
そうか、普通は穴に落ちて深層部に行ったりしないし、そこの主に会って弟子入りしたりすることはないのか。
本当に僕ってば、ツイてる男だな!
「あ、ありがとうございます!」
40万セシルという今まで手にしたこともないような大金がテーブルに積まれ、ほくほくな思いでバッグに詰め込む。
この調子でいけば、予定より早くあの城から出ていくことができそうだ。
サラサのお母さん探しと並行して、もう一つやりたいことを今からやろう!
やってきたのは地権管理のお店。
もう一つのやりたいこと…それは村を作ること。
村を作ればまたできることが増えるし、身寄りのない人たちが安全に生活できる。
「村の建設?お嬢さんが?」
一見、庶民の娘という風貌をしているので驚くのも無理はない。
「森の地権を買い取るのと、建築できる人を雇いたくて。」
担当してくれているおじさんは疑ってかかり少し嫌味な口調で言う。
「でも高いよぉ?貴族じゃなきゃ」
「ここに前金として40万あります。」
するとおじさんは手のひら返しで棚から地図を取り出してくる。
「帝都とセントヘレナ伯爵領の間にある森の一角くらいなら安いでしょ?」
帝都とセントヘレナ領は馬車で二日かかるほど離れている。
その間の森は全く開発されておらず、手の施し甲斐がある。
「安いと言ってもその規模だと1000はするよ?払えんのかい?そこに職人も1人つければ+100。」
「もちろん可能です。」
魔界で一か月働けば払える金額だ。ありがたい。
「おじさんがあの場所を私のために押さえてくだされば手数料も100乗せてお支払いします。」
「のった!」
金が人を動かすことは元家族を見ればよくわかることだ。
こういった莫大な交渉を怖気ずにしているところをみると、僕もやはりあの一族だったという事実が蘇ってくる。
今頃、浮かれたリリアは皇太子と結婚の用意を進めているに違いない。
帝都の人はもう僕のことなんて忘れている。人間は鉄みたいなものだから。
普段なら玄関に誰もいないのに今日はあの執事が渋い顔をして待っていた。
「帰りました。」
どういう反応をすれば分からず素っ気なく言う。
執事は玄関の時計を見て溜息をつく。
「こんな遅い時間まで…はぁ、お帰りなさいませ。」
苦言を呈したいだけならよしてくれ、とも思うが、心の内を言ったらさらに呆れられそうなので黙っておこう。
「ユーリス様が貴方と面会したいとおっしゃっています。すぐに着替えて、応接間に来るように。」
ユーリス、ユーリス…、自分が最近忙しくて、書斎から出てこない婚約者のことを全く忘れていた。
そうだ、僕は『白い婚約』をしている最中だった。
はぁ、このままずっと顔を合わせないのでも僕は良かったよ!!!
「は、はい…。」
着替え?必要ない。何せ僕の部屋には普段着しかないのだから。
執事は質素な服を着ている僕をいぶかしげに見つめるも、ご丁寧に主がいる書斎まで案内してくれた。
僕は緊張しながら扉をノックする。
「失礼します。」
そう言って入ると中には筋骨隆々な男の人が奥に座っている。
銀髪をスマートに切り揃え、一般的に褒められる顔面を持っているこの男がユーリス・セントヘレナ。
実に貧弱な僕と比べると羨ましい限りだ。
年は一つ上だと聞いているが…すでに歴戦の猛者のような風格がある。
「1週間前にこちらに来ました。リリア・エルレルトです。」
「父のことがあって中々顔を合わすことができずにすまなかった。」
へー貴族って謝ることができたんだ!(新発見)
かといって、僕の悪女人生の真相を知ってもらおうなんて思わないから安心しろ。
「あ、いえ…お気になさらず。」
「君は皇太子から流罪の命を受け、ここに来た。父は俺に君を遺したが…俺は君を愛することはない。」
「承知の上です。」
少し食い気味に返事をしてしまった。
僕も男を好きになることはないからお互い様ってことで!うんうん、よかった!
嬉しさが顔に出ていたのか(?)、ユーリスはやけに冷たい目で僕を見てくる。どういう感情…?
普通貴方も悪女から好かれなくて喜ぶ側だろ?
「…ならいい。変に勘違いされても困るからな。故に俺の関係ないところであれば好きに暮らしてくれ。ただし、散財だけはやめてほしい。」
「はい。」
もちろん、自分で使うお金くらい自分で稼げます。
「話は以上だ。」
そう言って、初めての面会は瞬時に終わった。
ユーリスは表情筋が働いていないのか?と思うほど無表情で話しかけてくるものだから、僕もどんな顔をしたらいいのかあまり分からなかった。
でもまぁ余計なことを聞かれなかっただけありがたい。
本当にユーリスは僕に興味がないんだな。当たり前か。
ユーリスは実害がないのでそれでいい。鬱陶しいのはあの二人の女中だ。
今日も今日とて部屋に戻る僕を見るなり、ぼそぼそ何かを呟いている。黙って仕事してくれ。
最近は前のように直接嫌がらせをしてくるわけではないので、何か裏で企んでいそうな気がする。
気を付けなくては…。
部屋に戻り、空を見上げる。
さっきまで止んでいた牡丹雪がまた降ってきた。
「早く逃げたい。」
春が来る前にはここを出なくてはいけない、今度は自分のために生きる道を諦めたくないから。
孤軍は耐えて雪解けを待つ。
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
愛されることを諦めた途端に愛されるのは何のバグですか!
雨霧れいん
BL
期待をしていた”ボク”はもう壊れてしまっていたんだ。
共依存でだっていいじゃない、僕たちはいらないもの同士なんだから。愛されないどうしなんだから。
《キャラ紹介》
メウィル・ディアス
・アルトの婚約者であり、リィルの弟。公爵家の産まれで家族仲は最底辺。エルが好き
リィル・ディアス
・ディアス公爵家の跡取り。メウィルの兄で、剣や魔法など運動が大好き。過去にメウィルを誘ったことも
レイエル・ネジクト
・アルトの弟で第二王子。下にあと1人いて家族は嫌い、特に兄。メウィルが好き
アルト・ネジクト
・メウィルの婚約者で第一王子。次期国王と名高い男で今一番期待されている。
ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
この物語には"性的なことをされた"という表現を含みますが、実際のシーンは書かないつもりです。ですが、そういう表現があることを把握しておいてください!
是非、コメント・ハート・お気に入り・エールなどをお願いします!
末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。