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12.ユーリス・セントヘレナという男
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「お帰りなさい!戦利品をどうぞ!」
あれだけ魔界にいた時間は長く感じられたのに、こっちの世界ではまだ夕方になっていなかった。
受付のお姉さんにもらった尻尾を渡す。
「お願いします…。」
お姉さんは目を丸くして、分厚い本を勢いよくめくる。
「こ、これは…お待ちくださいね。すごい!40万セシルです。」
「え?」
「バブロルという希少種の尻尾だと思います。こちらは深層部でしか手に入らない貴重なアイテムでしてこのお値段になります!」
そうか、普通は穴に落ちて深層部に行ったりしないし、そこの主に会って弟子入りしたりすることはないのか。
本当に僕ってば、ツイてる男だな!
「あ、ありがとうございます!」
40万セシルという今まで手にしたこともないような大金がテーブルに積まれ、ほくほくな思いでバッグに詰め込む。
この調子でいけば、予定より早くあの城から出ていくことができそうだ。
サラサのお母さん探しと並行して、もう一つやりたいことを今からやろう!
やってきたのは地権管理のお店。
もう一つのやりたいこと…それは村を作ること。
村を作ればまたできることが増えるし、身寄りのない人たちが安全に生活できる。
「村の建設?お嬢さんが?」
一見、庶民の娘という風貌をしているので驚くのも無理はない。
「森の地権を買い取るのと、建築できる人を雇いたくて。」
担当してくれているおじさんは疑ってかかり少し嫌味な口調で言う。
「でも高いよぉ?貴族じゃなきゃ」
「ここに前金として40万あります。」
するとおじさんは手のひら返しで棚から地図を取り出してくる。
「帝都とセントヘレナ伯爵領の間にある森の一角くらいなら安いでしょ?」
帝都とセントヘレナ領は馬車で二日かかるほど離れている。
その間の森は全く開発されておらず、手の施し甲斐がある。
「安いと言ってもその規模だと1000はするよ?払えんのかい?そこに職人も1人つければ+100。」
「もちろん可能です。」
魔界で一か月働けば払える金額だ。ありがたい。
「おじさんがあの場所を私のために押さえてくだされば手数料も100乗せてお支払いします。」
「のった!」
金が人を動かすことは元家族を見ればよくわかることだ。
こういった莫大な交渉を怖気ずにしているところをみると、僕もやはりあの一族だったという事実が蘇ってくる。
今頃、浮かれたリリアは皇太子と結婚の用意を進めているに違いない。
帝都の人はもう僕のことなんて忘れている。人間は鉄みたいなものだから。
普段なら玄関に誰もいないのに今日はあの執事が渋い顔をして待っていた。
「帰りました。」
どういう反応をすれば分からず素っ気なく言う。
執事は玄関の時計を見て溜息をつく。
「こんな遅い時間まで…はぁ、お帰りなさいませ。」
苦言を呈したいだけならよしてくれ、とも思うが、心の内を言ったらさらに呆れられそうなので黙っておこう。
「ユーリス様が貴方と面会したいとおっしゃっています。すぐに着替えて、応接間に来るように。」
ユーリス、ユーリス…、自分が最近忙しくて、書斎から出てこない婚約者のことを全く忘れていた。
そうだ、僕は『白い婚約』をしている最中だった。
はぁ、このままずっと顔を合わせないのでも僕は良かったよ!!!
「は、はい…。」
着替え?必要ない。何せ僕の部屋には普段着しかないのだから。
執事は質素な服を着ている僕をいぶかしげに見つめるも、ご丁寧に主がいる書斎まで案内してくれた。
僕は緊張しながら扉をノックする。
「失礼します。」
そう言って入ると中には筋骨隆々な男の人が奥に座っている。
銀髪をスマートに切り揃え、一般的に褒められる顔面を持っているこの男がユーリス・セントヘレナ。
実に貧弱な僕と比べると羨ましい限りだ。
年は一つ上だと聞いているが…すでに歴戦の猛者のような風格がある。
「1週間前にこちらに来ました。リリア・エルレルトです。」
「父のことがあって中々顔を合わすことができずにすまなかった。」
へー貴族って謝ることができたんだ!(新発見)
かといって、僕の悪女人生の真相を知ってもらおうなんて思わないから安心しろ。
「あ、いえ…お気になさらず。」
「君は皇太子から流罪の命を受け、ここに来た。父は俺に君を遺したが…俺は君を愛することはない。」
「承知の上です。」
少し食い気味に返事をしてしまった。
僕も男を好きになることはないからお互い様ってことで!うんうん、よかった!
嬉しさが顔に出ていたのか(?)、ユーリスはやけに冷たい目で僕を見てくる。どういう感情…?
普通貴方も悪女から好かれなくて喜ぶ側だろ?
「…ならいい。変に勘違いされても困るからな。故に俺の関係ないところであれば好きに暮らしてくれ。ただし、散財だけはやめてほしい。」
「はい。」
もちろん、自分で使うお金くらい自分で稼げます。
「話は以上だ。」
そう言って、初めての面会は瞬時に終わった。
ユーリスは表情筋が働いていないのか?と思うほど無表情で話しかけてくるものだから、僕もどんな顔をしたらいいのかあまり分からなかった。
でもまぁ余計なことを聞かれなかっただけありがたい。
本当にユーリスは僕に興味がないんだな。当たり前か。
ユーリスは実害がないのでそれでいい。鬱陶しいのはあの二人の女中だ。
今日も今日とて部屋に戻る僕を見るなり、ぼそぼそ何かを呟いている。黙って仕事してくれ。
最近は前のように直接嫌がらせをしてくるわけではないので、何か裏で企んでいそうな気がする。
気を付けなくては…。
部屋に戻り、空を見上げる。
さっきまで止んでいた牡丹雪がまた降ってきた。
「早く逃げたい。」
春が来る前にはここを出なくてはいけない、今度は自分のために生きる道を諦めたくないから。
孤軍は耐えて雪解けを待つ。
あれだけ魔界にいた時間は長く感じられたのに、こっちの世界ではまだ夕方になっていなかった。
受付のお姉さんにもらった尻尾を渡す。
「お願いします…。」
お姉さんは目を丸くして、分厚い本を勢いよくめくる。
「こ、これは…お待ちくださいね。すごい!40万セシルです。」
「え?」
「バブロルという希少種の尻尾だと思います。こちらは深層部でしか手に入らない貴重なアイテムでしてこのお値段になります!」
そうか、普通は穴に落ちて深層部に行ったりしないし、そこの主に会って弟子入りしたりすることはないのか。
本当に僕ってば、ツイてる男だな!
「あ、ありがとうございます!」
40万セシルという今まで手にしたこともないような大金がテーブルに積まれ、ほくほくな思いでバッグに詰め込む。
この調子でいけば、予定より早くあの城から出ていくことができそうだ。
サラサのお母さん探しと並行して、もう一つやりたいことを今からやろう!
やってきたのは地権管理のお店。
もう一つのやりたいこと…それは村を作ること。
村を作ればまたできることが増えるし、身寄りのない人たちが安全に生活できる。
「村の建設?お嬢さんが?」
一見、庶民の娘という風貌をしているので驚くのも無理はない。
「森の地権を買い取るのと、建築できる人を雇いたくて。」
担当してくれているおじさんは疑ってかかり少し嫌味な口調で言う。
「でも高いよぉ?貴族じゃなきゃ」
「ここに前金として40万あります。」
するとおじさんは手のひら返しで棚から地図を取り出してくる。
「帝都とセントヘレナ伯爵領の間にある森の一角くらいなら安いでしょ?」
帝都とセントヘレナ領は馬車で二日かかるほど離れている。
その間の森は全く開発されておらず、手の施し甲斐がある。
「安いと言ってもその規模だと1000はするよ?払えんのかい?そこに職人も1人つければ+100。」
「もちろん可能です。」
魔界で一か月働けば払える金額だ。ありがたい。
「おじさんがあの場所を私のために押さえてくだされば手数料も100乗せてお支払いします。」
「のった!」
金が人を動かすことは元家族を見ればよくわかることだ。
こういった莫大な交渉を怖気ずにしているところをみると、僕もやはりあの一族だったという事実が蘇ってくる。
今頃、浮かれたリリアは皇太子と結婚の用意を進めているに違いない。
帝都の人はもう僕のことなんて忘れている。人間は鉄みたいなものだから。
普段なら玄関に誰もいないのに今日はあの執事が渋い顔をして待っていた。
「帰りました。」
どういう反応をすれば分からず素っ気なく言う。
執事は玄関の時計を見て溜息をつく。
「こんな遅い時間まで…はぁ、お帰りなさいませ。」
苦言を呈したいだけならよしてくれ、とも思うが、心の内を言ったらさらに呆れられそうなので黙っておこう。
「ユーリス様が貴方と面会したいとおっしゃっています。すぐに着替えて、応接間に来るように。」
ユーリス、ユーリス…、自分が最近忙しくて、書斎から出てこない婚約者のことを全く忘れていた。
そうだ、僕は『白い婚約』をしている最中だった。
はぁ、このままずっと顔を合わせないのでも僕は良かったよ!!!
「は、はい…。」
着替え?必要ない。何せ僕の部屋には普段着しかないのだから。
執事は質素な服を着ている僕をいぶかしげに見つめるも、ご丁寧に主がいる書斎まで案内してくれた。
僕は緊張しながら扉をノックする。
「失礼します。」
そう言って入ると中には筋骨隆々な男の人が奥に座っている。
銀髪をスマートに切り揃え、一般的に褒められる顔面を持っているこの男がユーリス・セントヘレナ。
実に貧弱な僕と比べると羨ましい限りだ。
年は一つ上だと聞いているが…すでに歴戦の猛者のような風格がある。
「1週間前にこちらに来ました。リリア・エルレルトです。」
「父のことがあって中々顔を合わすことができずにすまなかった。」
へー貴族って謝ることができたんだ!(新発見)
かといって、僕の悪女人生の真相を知ってもらおうなんて思わないから安心しろ。
「あ、いえ…お気になさらず。」
「君は皇太子から流罪の命を受け、ここに来た。父は俺に君を遺したが…俺は君を愛することはない。」
「承知の上です。」
少し食い気味に返事をしてしまった。
僕も男を好きになることはないからお互い様ってことで!うんうん、よかった!
嬉しさが顔に出ていたのか(?)、ユーリスはやけに冷たい目で僕を見てくる。どういう感情…?
普通貴方も悪女から好かれなくて喜ぶ側だろ?
「…ならいい。変に勘違いされても困るからな。故に俺の関係ないところであれば好きに暮らしてくれ。ただし、散財だけはやめてほしい。」
「はい。」
もちろん、自分で使うお金くらい自分で稼げます。
「話は以上だ。」
そう言って、初めての面会は瞬時に終わった。
ユーリスは表情筋が働いていないのか?と思うほど無表情で話しかけてくるものだから、僕もどんな顔をしたらいいのかあまり分からなかった。
でもまぁ余計なことを聞かれなかっただけありがたい。
本当にユーリスは僕に興味がないんだな。当たり前か。
ユーリスは実害がないのでそれでいい。鬱陶しいのはあの二人の女中だ。
今日も今日とて部屋に戻る僕を見るなり、ぼそぼそ何かを呟いている。黙って仕事してくれ。
最近は前のように直接嫌がらせをしてくるわけではないので、何か裏で企んでいそうな気がする。
気を付けなくては…。
部屋に戻り、空を見上げる。
さっきまで止んでいた牡丹雪がまた降ってきた。
「早く逃げたい。」
春が来る前にはここを出なくてはいけない、今度は自分のために生きる道を諦めたくないから。
孤軍は耐えて雪解けを待つ。
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