月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第12章 楽しい情報交換?

70 おめでとう

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 午前中は学習が進まなかったので、午後は一気に4科目進めるつもりだった。
 しかし『言語Ⅱ』も『魔法Ⅱ』も、本日は24単位時間コマ目。
 つまり、終了時のあれこれが入るわけだ。

 『言語Ⅱ』は確認試験を受けた結果、またもやスペルミスを1個出してしまい、95点。
 失敗を嘆きつつ、『魔法Ⅱ』の24単位時間コマ目へ。

 魔力トレーニング的なものというより、知識の確認といった内容を読んで終えたところで、『魔法Ⅰ』の時にはなかった確認試験が出てきた。
 今までに覚えた魔法の効果や、治療魔法の注意点といった内容だったので、取りあえず100点。
 ただし、これで終わりではない。

『魔法科目の終了基準を満たしたので、魔力測定を受けてください』

 『魔法Ⅰ』の時と同様、こんな指示が出てきたのだ。
 時間は15時10分。
 今から測定に行って帰ってくると、もう夕食の配給までに学習する時間が残らない。

 ここはささっと1科目進めて、それから魔力測定と食事配給、両方をこなしてくるのがいいだろう。
 そして私的に短時間で済ませられるのは、やっぱり数学だ。
 現在は『数学Ⅱ』の3単位時間コマ目が終わったところ。
 だからきっと、余分な時間はかからない。

 ということで、『数学Ⅱ』の4単位時間コマ目に挑戦。
 今回の内容は比例と一次関数。
 内容的にはまだまだ余裕のはず……

 ◇◇◇

 『数学Ⅱ』4単位時間コマ目は、思ったより時間がかかってしまった。
 結果、魔力測定を終えて食堂へ来たのは17時40分過ぎと、かなり遅め。
 列には誰も並んでいなかった。
 そろそろストックも溜まってきたので、今日は小盛を選んで収納。
 その場を後にして、ルーティンワーク的に下膳口で朝・昼食の箱を出す。

 食堂で食事をしている人は6人ほど。
 声高に馬鹿なことを話すなんてことはなく、静かに食事をしている。
 会話もあるけれど、うるさいとは感じない程度。

 もちろんゾンビがいた時のような危険性は感じない。
 だから安心して、中を一通り眺めてみる。

 知っている顔はいない。
 もしニナがいたら、アキトから聞いた『表計算』の条件を話そうと思ったのだけれど。

 朝の食事配給の時に話し合う等、決めているのだろうか。
 それとも夕食時にも情報交換はしたけれど、もう引き払ってしまったのだろうか。

 更になんとなく見てみると、向こう側の壁に設けられた掲示板が目に入った。
 偵察魔法ではよく見ていたけれど、自分の目でこうやって落ち着いて見るのは初めてだ。
 たまには直接自分の目で、直接掲示板を見るのもいいかな。
 そう思って、近づいて見てみる。

 まずは、生徒が書き込める掲示板。
 真っ先に目に入ったのがこれだ。

『全員外出条件クリア(予定)おめでとう!(記:フアム)』

 何だ何だ? そう思いつつ、続く書き込みを読む。

『今度の『ペルリア社会見学実習』で第二施設の生徒は全員、外出可能になるみたいです。おめでとう!(記:ヒナリ)』

 なるほど。ヒナリの書き込みで状況を理解した。
 どうやら社会見学実習、全員参加となる旨の通知か掲示があったようだ。
 どれどれ、ということで施設側の掲示を見てみる。

『3月10日実施の『ペルリア社会見学実習』は参加者多数の為、生徒によって教室が指定されています。6日12時頃発出予定のお知らせをよく読んで、実施に備えてください。
 またこの実習により、現在ペルリア第二施設にいる生徒全員が、外出を許可されることになります。これにより、第二施設での『ペルリア生活実習』、『ペルリア自然観察実習』については、以降は個別に認定し、個別に実施という形式となります。
 ただし、既に参加した実習には、参加出来ません。詳細は個別に届いたお知らせを参照してください』

 施設側からのお知らせは、以上のようだ。
 なるほど、この「現在ペルリア第二施設にいる生徒全員が、外出を許可されることになります」で、「おめでとう」ということか。
 なら、今度は拡大女子会でもやるのかな。

 そして、掲示板への生徒側の書き込みはかなりのボリューム。
 ここで全部読むと、結構な時間がかかりそうだ。

 私は本日、あと3単位時間コマ分は学習を進めるノルマがある。
 だから後は、部屋に戻って夕食を食べながら見ることにしよう。
 そう判断して、食堂から廊下、そして女子寮へ。

 特に何事もなく部屋へと到着し、机上に夕食を広げる。
 今日の夕食のメインは芋パイ。
 肉野菜炒めの上にマッシュポテトを乗せて焼いたものだ。

 ここで出てくる料理、とにかく芋が出てくることが多い。
 今日のサラダはさいの目切りのポテトサラダで、スープは芋クリームスープだ。
 ただし味は、そう悪くないというか、多分美味しい。

 芋が多いというのは、日本の大豆加工品ばかりというのと同様、文化みたいなものだろう。
 美味しいに多分がついてしまうのは、まだここの文化に慣れていないから。
 なんてことを考えつつ、更に夕食を食べつつ掲示板を確認。

 大部分は「おめでとう」メッセージだ。
 中には、
『第二施設唯一の外出できない生徒になるところでした。ぎりぎりセーフです(記:アルテ)』
なんてのもあるけれど。

 長期課程(Ⅰ)の最低基準は、
  ① 試験直前までの1ヶ月間に進めた学習の単位時間コマが60時間より多い
  ② 試験の成績が6割以上
だったはずだ。

 しかし最低限の学習時間では、今回の『社会見学実習』等の履修基準には足りなくなるだろう。
 つまり、きっと皆さん、それなりに努力しているということだ。
 それに、自由な第二施設に今いるということは、矯正が必要な問題行動も無いということだろう。

 私としても、努力の邪魔になる者が減って快適だ。
 以前のゾンビ、まさかあそこまで反社会的発想で動いているとは思わなかったなあ……
 なんて思いつつ「おめでとう」メッセージその他を読んでいたところ、ふとある書き込みに目がとまった。

『この掲示板によく書き込まれていたあの人も参加なのでしょうか。だったら違うグループであってほしいです(記:チウロウ)』

 そうだ、問題人物が1人、いたのだった。
 しかし、次の書き込みを見て、ほっとする。

『まともになっていない限り、参加出来ないでしょう。知識魔法で確認すればわかります(記:ウー)』

 念のため、私も知識魔法で確認する。

『謹慎処分になっている期間は、授業や実習には参加出来ません。また今回の該当者は、思考や今後の行動に問題がないと魔法的に判断されるまで、第二施設の長期課程(Ⅰ)に復帰することはありません』

 こう決定する施設側の運営は、地球先進国基準の第三者的な目で見た場合、独裁的・強権的と非難する向きもあるかもしれない。
 なんて思いつつも、私がほっと安心したのは事実だ。

 まあ施設側も、何度も注意や警告をしている。
 その上で本人に事情聴取なんてことまでした。

 魔法で本人の外形的言動だけでなく考え方まで調査可能なのに、わざわざそういった手間をかけているのだ。
 おそらくは本人に抗弁の機会を与える為に。
 だから『強権的』というのは当たらないかもしれないけれど。
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