月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
88 / 125
第15章 4月の一斉試験

88 試験結果

しおりを挟む
 まあ、話せる知り合いが残るのは悪いことじゃない。
 それにケイトは、知識魔法に頼らず会話できているあたり、相当優秀で努力もしているのは確かだ。
 そもそも学習時間が十分でなければ、第一こちらの教室に来るはずがない。

 とりあえずケイトには、こう答えておこう。

『言語と自然科学で1問ずつ間違った』

『マジ!? 洒落になってないんですけど』

 そういえばこの機会に、ケイトに聞いてみようか。
 それなり以上に学習した上で成績を聞いているのだ。
 何か目標があるのかもしれない。
 ということで質問してみる。

『そういえばケイト、卒業後のコースって、難しいの狙ってる? さっき壁って言ってたし、勉強もかなり進めているみたいだし』

『人気ないけど、必修多くて基準高めのコース狙ってんの。具体的にはナルニーアレ連邦の開拓者特別A基準。自分の牧場つくるのが夢なん』

 知らないコースの名前が出てきた。
 ナルニーアレ連邦に行くつもりはなかったから、調べていなかったのだ。
 もちろん理由はある。

『ナルニーアレ連邦って、ペルリアやヒラリアと比べると政治体制的に危険じゃない? 生活水準も一人あたりGDPも低いし、国民の権利も一部制限されてるし』

 ペルリアやヒラリア共和国が昔からの先進国だとすれば、ナルニーアレ連邦はようやく近年先進国、あるいは中進国最上位に食い込んできた国だ。

 今は三権分立を含む近代的な体制になってはいる。
 だが10年前までは軍部出身の大統領による開発独裁体制で、今の仕組みも革命に近いクーデターの産物だ。
 国内がまだ不安定なため、政治的自由も一部制限されている。デモなどの集団示威行為は禁止だ。

『そーゆーのわかってる。でもだからこそ開拓が進められてるし、優遇制度も多いんだよね。開拓者特別A基準なら、義務教育のあとさらに2年間、実戦的に学べるし、自分の開拓地と準備金がもらえるし』

 なるほど。独立して農業を目指すなら悪い制度じゃない。
 ただ私から見ると、リスクが大きすぎる気がする。
 念のため、知識魔法で条件を確認しておこう。

『ナルニーアレ連邦開拓者特別A基準は、言語Ⅷ、魔法Ⅷ、数学Ⅵ、自然科学Ⅴ、地理歴史Ⅴ、医療基礎Ⅲ、独自魔法作成Ⅴの7科目を履修し、最終確認試験で各80点以上が必要です。卒業後はナルニーアレ連邦首都ルリアフの義務教育学校を経て、レナア島の開拓前進都市オノリクにある養成校で2年間学びます。養成校の成績と卒業時に出す開拓案に応じて、最高2,000,000Cカルクフの開拓準備金と、道路のみ開通済みの開拓地2km²以上が支給され、開拓を行うことになります』

 確かに独立はできそうだけれど……

『なかなか厳しくて大変なコースだよね、卒業後も』

『そだね。実際人気ないし、定員も埋まらないっぽい。でも街で神経すり減らすより、独立して自分の領域持ちたいって思うんよ』

 意外だった。
 ギャル語っぽい口調だから都会志向かと思ったが、実際は逆だったらしい。
 そもそもここは日本じゃないし、ギャル文化も違うのかもしれない。
 いや、そもそもギャルという存在自体、この惑星オーフにいるのかも不明だ。

『てかチアキは? もう目指すコース決めてんの?』

『そこまではっきりは決めてない。今はヒラリアの特別A基準が最難関だから、それに対応できるようにしてるだけ』

『あれ超ムズいじゃん! 条件も厳しいし倍率もヤバいし。なんで? 彼氏が行くとか?』

 いや、ちょっと待て。

『彼氏なんていないけれど。そもそもそんな関係になれるような環境じゃないし』

『前に「私より進んでそうな男子いるから聞いてみる」って言ってたよね? あれ彼氏じゃないん?』

 アキトは彼氏じゃない。
 確かに話して楽しいと思ったし、一緒に演劇を観に行く約束はしたけれど。

『生活実習で知り合った情報交換相手ってだけ。そのあと売店で1回、情報交換で2回会っただけ。最後に話してからもう20日以上経ってる』

 嘘ではない。1回は2人きりで長く話し込んでしまったけど……。
 そろそろまた情報交換してもいいかもしれない。
 ケイトから聞いた医療基礎のことも話したいし。

『怪しいけど、証拠ないし今は黙っとく。それに第一施設の指導員、もう階段上ってきてるし。そろそろおしゃべりやめるわ』

 来たか。私は偵察魔法を起動する。
 3月の試験後にも来たごつい中年女性、テルミ指導員が階段を上ってきていた。
 ニナとヒナリは大丈夫だろうか。

「さて、第一施設のテルミ指導員が来た。第一施設に移動することになった2名は廊下へ。寮の荷物はすでに移動済みだ。他の者はもう少し待ってくれ」

 エノフ指導員の声で、男子1人と女子1人が無言で立ち上がり廊下へ出て行く。
 どちらも3月の試験で第一施設から来た顔ぶれだ。アキトやカタリナ、フインは余裕がありそうだし、ケイトもさっき話したとおり。
 だから心配はしていなかったけれど。

 気になるのは第二向こうの教室のニナとヒナリ。
 何せ向こうは4分の1近くが移動になる。
 こっちより移動になる確率がずっと高い。

 廊下に魔法の視点を飛ばす。
 第二教室からも生徒がぞろぞろと出てきた。
 1人、2人……10人。
 見た限りでは、ニナもヒナリもいない。

 念のため第二教室を探る。
 ニナは窓際2番目、ヒナリは中央列前から5番目に座っていた。
 無事残れたようだ。

 引率の指導員は第一教室に顔を出さず、12人を連れて階段の下へ消えていく。
 12人ということは、素行不良者1人は別で第一施設に送られたのだろう。

『掲示板に措置が書かれてます』

 知識魔法からそう返答があったので、掲示板魔法を起動。
 なるほど、移動を拒否したため眠らせて搬送したとある。
 いずれにせよ厄介者が消えたのは、こっちにとってもありがたい。
 そう思ったところで、エノフ指導員が口を開いた。

「この後、第一施設から13名、長期課程(Ⅰ)に決まった者が来る。そして次回の一斉到達度確認試験は5月1日第5曜日。本日は以上だ。解散」

 エノフ指導員が教室を出たのにあわせ、私たちも立ち上がる。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。 目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて… (まさか……転生…?!) 魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。 魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり── 王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

処理中です...