月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第16章 買物遠征?

91 買物遠征⑴

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 言語と魔法を1単位時間コマずつ進めた後、支度をして、様式4の服で施設を出る。

 最初は公設市場に直行。
 まずは2階の会計で預金を全額下ろす。

 以前から思っていたのだけれど、毎回ちまちま公設市場まで行って少額のお金を下ろすのは面倒だし、職員さんも手間だろうから。
 魔法収納に入れておけば落とす心配は無い。
 使いすぎないように注意は必要だけれど。

 そしてついでに空いている2階のトイレで、様式4の服からこの前買った服に着替え。
 これは独自魔法を使用すれば、一瞬で着替えられる。

 次は予定では北島ノルツア インフトのヘント商業施設カルテノだ。
 しかしちょっと考え直して、ヌローラ商業施設カルテノへ行く事にする。

 本日見る予定のうち食料品については、公設市場で売っている値段を概ね把握済みだ。
 しかし服の値段は、あまりよく知らない。
 それに店によって売っている服の傾向が違う可能性がある。

 だから行く前に、服の値段と傾向の基準を頭に入れておいた方がいい。
 そして基準にするのは、ヌローラ商業施設カルテノがいいだろう。
 施設から行きやすいし、客層が私たちとそう変わらないように見えるから。

 1階に降りて南出口から出て、いつものルートでヌローラ商業施設カルテノへ。
 看板には『夏物衣料&水着セール! 一足先に夏を着こなそう!』とある。

 さて2階のセール会場は、この前服を買った時とは大分変わっていた。
 並んでいる服だけでなくラックの配置が違うし、見本のマネキンも多い。

 それでは私に良さそうなのを探そう。
 胸のなさをカバー出来て、露出少なめのもの。
 見るとそれなりにありそうだ。

 棚にハンガー状の器具でかかっているのは、例によって完成品ではなく、布地とデザイン画入りのタグ。
 つまり水着も、縫製してもらって完成という形だ。
 そしてマネキン人形の周りに、人形が着用しているデザインと近い水着があるという陳列。

 まずは上はラッシュガード風、下はパレオがあるものから見ようかな。
 いやスカートだと泳ぐときに下が不安だから、ショートパンツ風の方がいいかな。
 そう思いつつ、私は物色を開始する。

 ◇◇◇

 大体のお値段と傾向は理解したので、ヌローラ商業施設カルテノを出て、ニトレ大通りを北へ。
 まずはこの先にあるヘント商業施設カルテノの食料品店で食料品の値段を確認して、次に南隣にあるツエフ商業施設カルテノで水着と夏服を見るつもり。

 街中でコリウ川を北島ノルツア インフトへ渡るのは、社会見学実習の時以来で2回目。
 渡っただけでは、特に街の治安が変わったなんてことは感じられない。
 歩いている人の様子も、この辺は南島フツア インフトとそう変わらない気がする。
 
 南島フツア インフト側は官庁や事務所の入った3~4階建ての建物が並んでいたけれど、こちらは小さめの倉庫や、やはり小さめの工場が多い。
 壁が煉瓦色の土壁なので、風景的にはあまり変わらないけれど。

 そして1ブロック先左側とさらに次のブロックに、官庁街にあるのと色、サイズともに似た大きな建物が建っている。
 手前がツエフ商業施設カルテノで、奥がヘント商業施設カルテノだ。
 
 予定通り、奥のヘント商業施設カルテノから見ていこう。
 ここは1階が食料品と消耗品系の新品日用雑貨、2階と3階が家具類や日用品の、主に中古。
 知識魔法によると、惑星オーフ全般で、中古品は普通に流通しているらしい。
 
『チアキの記憶にある地球ほど安価に大量生産可能な巨大施設はないため、食料品以外の価格は比較的高価です。ですから家具や食器、鍋などある程度長期間使用出来るものは、中古で購入するのも一般的となっています』

 これを知ったとき、中古服も安く売っていないかと思った。
 しかし知識魔法によると、残念ながらそうでもないらしい。

『ペルリアの場合、中古の布類は、そのままの形よりも、布や繊維として再利用される場合が多いです。これは布製品の元となる植物繊維や動物性繊維のほとんどを輸入に頼っていることが原因です。
 植物繊維はヒプロと呼ばれるシダ、動物性繊維は主にハロイハウルという恐竜が主な材料です。これらは高温多雨な気候を好むほか、栽培や飼育に広い土地を必要とすることから、リクリア大陸北西側に位置するヘカラ国からの輸入が主です。
 ヘカラ国はペルリアのすぐ南ですが、国内に比べると輸送費が高くつきます。ですので布は古布を原料とした再生繊維で作られる場合が多く、古布は回収して分解されることがほとんどです』

 つまり中古服は、少なくともペルリアではあまり一般的ではない。
 残念だが諦めて、新品の安くてデザインがいいものを探すしか無さそうだ。

 ということで、でもその前に、まずは食料品。
 ヘント商業施設カルテノに入り、売り場へ。
 基本的には日本のスーパーマーケットと同様、商品をカゴに入れて持ち歩いて、レジで精算する方式だ。

 なお売り場入口には、注意書きが貼られている。

『ここから会計までの間は、物品等を収納または取り出しすることが可能な魔法の使用を禁止します』
 
 そしてやや小さい字で、こう付け加えられている。

『空間操作系の魔法の使用を感知した場合は、知識魔法で事実調査の上、魔法により身体を拘束する場合もあります』

 商品の盗難を防ぐ為だろう。
 魔法があると便利ではあるけれど、それだけではないということか。

 でも公設市場には、ここまでの注意書きは無かった気がする。
 何か理由があるのだろうか。

『公設市場は国の施設で、設立当初から公設市場法で管理されています。ですので市場管理者は市場内において警察権を有しており、商品の窃盗や毀損者に対して強制拘束魔法を独自判断で使用可能です。
 ですが民間の市場はそうした権限を有していません。ですので入場場所にこういった掲示を行い、入った者はこの条件に合意したとして管理しています。既に判例によりこの方法は有効とされており、ある程度規模が大きい民間の市場はほぼこうした掲示がなされています』

 なるほど。
 でもヌローラ商業施設カルテノはそんな掲示は無かった気がする。

『ヌローラ商業施設カルテノは雰囲気を壊さないためにこうした方法をとらず、警備員複数名による魔法探知によって警備を行っています。あの程度の広さと南島フツア インフト中央という治安がいい環境では、その方法でも有効とみなしているのでしょう』

 なるほど、理解した。
 つまりここでは、そういった看板が必要と判断される状況なわけだ。

『その通りです。60年ほど前に、20名以上による事前共謀なしの一斉窃盗事案が多発した結果、看板に事前了解を取った上、多数であっても魔法で拘束可能な方法がとられるようになりました』

 事前共謀なし、とはどういう意味だろう。

『集団で入って窃盗をするという事前共謀があった場合は、共謀した時点で警察による身柄拘束が可能となります。ですが大型店内部にいる多数の客が、他の客が窃盗もしくは何らかのアクションを起こしたのを機に窃盗を行った場合、その時点までは具体的な犯意がないので強制手段をとることが出来ません。これが『事前共謀なしの一斉窃盗事案』です』

 暴動を見て自分も暴動に参加する、みたいなものか。

『その通りです。当時は民間施設の管理者であっても、現行犯人であっても魔法による拘束が出来ず、現場の店員や警備員が個別に対処するしかありませんでした。ですがこの『事前共謀なしの一斉窃盗事案』が多発した影響で法律が改正され、あらかじめ看板等で範囲を指定することを条件に、犯罪を知識魔法で確認した相手に対し強制拘束する魔法を使用することが認められました。この看板はそういった経緯と法律に基づくものです』

 何も措置しなければ、事前共謀なしの暴動的なものが、この商業施設カルテノでも起こる可能性がある。
 というか既にあったということか。
 今は危険を感じないけれど、十分警戒しておこう。
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