月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
90 / 125
第16章 買物遠征?

90 買物遠征計画

しおりを挟む
 結局話の結論は出ないまま、8時半で話し合いを切り上げて寮の部屋へ。

 さて、今日は第3曜日だ。
 しかし第2曜日が試験だったから、今週はまだ買い出しに行っていない。

 つまりスイーツ材料が、割と心許ない状態になっている。
 ゼラチン粉の在庫は0だし、小麦クネタン粉も切れた。
 テッテレルの砂糖漬けがなくなったし、紅茶ももう無い。
 ゼリー用にテッテレルや紅茶は使用しまくったから、仕方ない。

 つまり私は今日、公設市場に出かける必要があるわけだ。
 そう思ったところでふと、先ほどの話し合いを思い出した。
 ヌローラ以外の商業施設カルテノに行くかどうかという話を。

 食料品については、公設市場が値段と品質のバランスが取れているとされている。
 しかし品質がいまひとつでも、もっと安い品物を売っている市場や商業施設カルテノは無いだろうか。

 タブレットを出して、ポアノンの地図を表示させる。
『品質は今一つでも安い食品を扱う商店や商業施設カルテノ』で検索。

 6箇所ほど表示された。
 場所は南島フツア インフト東部、北島ノルツア インフトのほぼ全域だ。
 服を買うときに見たトロナ商業施設カルテノ、ペラウ商業施設カルテノでも食品を扱っている模様。

 北岸ノルツア ポルツオ南岸フツア ポルツオには無いのだろうか。
 そう思ったところで知識魔法が起動する。
 
南岸フツア ポルツオは一般の住宅がほとんどないため、店もありません。北岸は治安上問題が多いので、基本的に商店や商業施設カルテノは出店を控えています』

 北岸ノルツア ポルツオの治安は、そこまで酷いのか。
 日本時代の私の家の近くにも治安がよろしくないとされる地区はあったけれど、そんなものではなさそうだ。

 ならやはり近づかない方が正しいのだろう。
 そう思ったところで思い出す。
 今こそ、安全対策で購入した服の出番ではないかと。

 先週の第一曜日に購入した後、部屋の中では何度か着て試している。
 外で様式4の服から一瞬で着替えるため、また様式4の服に一瞬で着替えるために、独自魔法も開発した。
 物陰などの人目がない場所さえ確保すれば、魔法を起動して一瞬で着替えが完了する。

 よし、今回は買い物ついでに周囲の状況を確認するとしよう。
 ただし少しでも危険を感じたら、すぐに引き返すことにして。
 
 最初に行くのは、公設市場の会計だ。
 現在の所持金は100カルクフしかない。
 今回は紅茶やテッテレルなど、ゼリーの中身や風味となるものを購入したい。
 そうなると、どう考えても、100カルクフでは足りない。

 あとはどの地区が、本当に近づいてはいけない場所かも知っておこう。
 どういうことかというと、人種的な問題だ。
 服は変えられても、肌の色や顔つきは変えられない。
 魔法で変えられるかもしれないけれど、その場合見破られたらさらにまずいこととなる可能性がある。

 ここの階層問題や治安問題は、人種も絡んでいたはずだ。
 だから黄色人種が歓迎されないというか、むしろ敵視している場所もあるはず。
 例によって知識魔法が起動する。

『旧来からいる白人系住民と最近10年間に移住者に増えてきたアジア系住民との間に摩擦が生じています。白人系住民の貧困層は北岸ノルツア ポルツオの西側、工場に近く比較的開発が早く進んだアイナエア地区に多く、アジア系住民の貧困層はポアノンの人口が増えた後に開発された北岸ノルツア ポルツオ東側、ピウピタ地区に集中して居住しています』

 つまり着替えたとしても、私は北岸ノルツア ポルツオ西側に近づかない方が賢明ということか。
 あと北島ノルツア インフト側の小さい店も今回は避けておこう。
 客層が極端に偏っていると危険な可能性が否定できないから。

 なら公設市場に寄った後、
 ① 北島ノルツア インフトへ渡ってみて、
 ② 危険を感じないならヘント商業施設カルテノを見て、ついでにすぐ南にあるツエフ商業施設カルテノで水着と服を見て
 ③ 南島フツア インフトに戻った後、東へ向かってペラウ商業施設カルテノを見て、
 ④ 南島フツア インフト北側に点在する店を回って、
 ⑤ 施設へ戻る
というコースがいいだろう。

 これで問題ないだろうかと考えたところで、知識魔法が再度起動。

南島フツア インフトでもペラウ商業施設カルテノ付近は、ピウピタ地区の住民が比較的日常的にやってきます。そういった者の中には粗暴な者をはじめ行動に問題のある者も多いことから、一部の住民はアジア系出身の住民に強い偏見を持っています。特に個人店のうち古い店では、かつて発生した暴動の記憶から今でも偏見と強い警戒感を持つ者が少なくありません。
 もちろん南島フツア インフト東側にはアジア系出身者も多く住んでいます。そういった住民はピウピタ地区のような貧困地区住民と一緒に扱われたくないことから、そういった個人店を敬遠し、カリナタ市場街等を中心に使用しています。ただこちらも比較的排他的な場所なので、近づかない方がいいでしょう』

 ④はやめておいた方がいい、了解だ。
 しかし何というか、面倒だ。

 ただ昔からポアノンに住んでいた人からみれば、現実はそうなのだし、そうなったのも必然なのだろう。
 実際うちの近所の町でも、某地域出身の一部の外国人は白い目で見られていた。

 全員が悪いとは言わない。
 でも悪いと傍若無人なのが10人以上いれば、避けようとするのは当然の反応だ。
 なおかつほとんどが現状での滞在が違法だったりしたら……
 そこに更におかしな団体が入り込み、どう考えてもおかしい主張を繰り返していたら……

 ここでは移民、それもまだ国民ですらない私としては、出来るだけ危険に近寄らないのがきっと正しい。
 だったら南島フツア インフト中央部の安全な場所から出るな、という考え方もある。

 ただ現状をある程度把握しておくのも重要ではあると思うのだ。
 もちろん安い物を買いたいという理由も、今回は結構大きいのだけれど。

 よし、今日は思い切って出かよう。
 様式4の服を着て出かけた後、①の公設市場でこの前買った服に着替えて、②のヘント商業施設カルテノとツエフ商業施設カルテノを見て、更に③のペラウ商業施設カルテノを回るというコースで。

 しかしその前に、まずは学習のノルマから。
 言語Ⅳと魔法Ⅳを1単位時間コマずつ進めてから、出るとしよう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

(改定版)婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?

水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」 ここは裁判所。 今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。 さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう? 私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。 本当に裁かれるべき人達? 試してお待ちください…。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...