月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第19章 女子会その2

104 昼食会開始

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 階段を上って2分も歩かない辺りの林の中に、テーブルと椅子が幾つかある区画があった。
 下草はしっかり刈られているし、低い枝も払われている。
 しかも台地の端に近いせいか風がそこそこ通って、なかなか快適だ。

 テーブルと椅子を魔法でさっと綺麗にして、6人で陣取る。
 テーブルは8人でも大丈夫なほどの広さがあって、あれこれ広げてパーティをするにはちょうどいい。
 
「それではお昼には少し早いですけれど、始めましょうか」

「そうですね」

 施設の昼食は、毎度おなじみサンドイッチ。今日の中身はハムチーズ、卵サラダ、マッシュポテト。
 あとはやっぱり定番の、芋、豆、野菜を煮込んだとろみのあるスープ。

 そして本日のメイン、各自が買ってきたり作ってきたりした惣菜。
 1品少ないけれど、明らかに大きいのがあるから、きっとそれが2人共同なのだろう。

 そして私は、空のパン皿ひとつ。
 もちろん何も出さないという意味ではない。
 それでは説明だ。

「今回はオーダー形式。これに書いてあるスイーツは作れるから、何がいいか1人1品ずつ教えて。ここに出すから」

 ちなみにオーダー表に書いたのは、
 プテンクプリンパノプテンクパンプディングクレフポパンケーキのテッテレル&クリーム、ナークラフントパウンドケーキタートデネーラソ糖蜜のタルトテオプロ紅茶ケーキタポラ・クポショートケーキ、ハレリナクランツ、テオヘレオ紅茶ゼリー
の、合計9種類。

「これって、バラバラにお願いしても、単価は大丈夫でしょうか」

 ニナにそう聞かれたけれど、問題ない。

「ここに書いてあるものなら大丈夫。チーズケーキとか材料の単価が高いのは個数が多いと制限を超えるから、書いてない」

「じゃあさ、6個ぜんぶバラで頼んで、みんなでシェアるのアリじゃね?」

 確かにそれも楽しいかなと思う。
 というか、最初はそうしようと思ったのだ。
 ただ私は、何を6個作ればいいか絞りきれなかった。
 結果、こういう形にしたのだ。

「確かにそれもいいですね。なら私はタポラ・クポショートケーキで」

 ヒナリがそう口火を切ると、あとは早い。

「それではナークラフントパウンドケーキを1つお願いします」

「私はパノプテンクパンプディングで」

「ハレリナクランツよろ」

タートデネーラソ糖蜜のタルトをお願いします」

 フイン、カタリナ、ケイト、ニナと次々に注文が出た。
 ただこの世界には知識魔法がある。
 だからメモを取らなくても大丈夫。

 材料を出して、いつものスイーツ作成魔法を起動。
 この魔法、今では別の種類のスイーツを10個まで同時並行で作れる様に改良済み。

 だから5人の注文プラス、バスク風チーズケーキなんてのを追加しても、30秒程度で全部出来上がる。
 作る品と数、出す場所を指定しておけば、あとは放っておいて大丈夫だ。

「てか便利だしウマそーなんだど、この独自魔法の構成マジで考えるとエグくね?」

 それは私自身も否定できない。

「最初はそれほど難しい独自魔法じゃなかったんだけれどね。気がついたところをあれこれ改良したから、大分複雑になってるのは確か。
 でもケイトのパイも分厚いし大きいよね。それってヒナリと共同」

 直径20cmくらい、厚さ5cmより上という、クリスマスケーキくらいの大きさのパイだ。
 ただ上面はパイ地ではなく、綺麗に焼き目をいれたグラタンっぽい。 

「そうなんよー。今回ヒマリまじ時間なくて料理選べなかったから、2人分の予算とヒマリの要望聞いて、ウチが作っといたわ。ヒマリが肉マシでボリュ爆盛りって言うから、芋肉パイにしたんよ」

「切って断面を見ていいですか?」

 これはフインだ。
 肉食女子として確かめておきたいらしい。

「どぞどぞ~」

 フインが何か魔法を使って直径方向にばっさり切って、断面が見えるように広げる。
 側面と下面がパイ生地で、上面1cm位がマッシュした芋、そして中身が小さめの細切れ肉とソースの様だ。
 ソースは固めに作ってあるようで、切断面が崩れる様子はない。

「美味しそうですけれど、お肉が高かったのではないでしょうか?」

「予算2人分やし端肉なんで安いんよ。てか逆にそっちのデカ塊のが高いんじゃね?」

「今回は焼き豚です。エルアラフの腕肉塊を200Cカルクフで買って作ったものの4分の1を切って持ってきました」

 日本風の焼き豚と違い、表面が赤くてテカテカしている。
 いわゆる中華風の焼き豚という奴だろう。

「ところでカタリナとニナはひょっとして、肉が多いことを予想して買ってきたのでしょうか?」

 フインが言った理由は分かる。
 カタリナもニナもサラダだったから。
 ただし種類はそれぞれ違う。

「チアキがスイーツで、フインが肉なのは予想できた。あとは野菜が必要と考えて買ってきた」

「私も同じように考えました。種類がかぶらなくて良かったです」

 カタリナのはスティック状にカットしたヘイコやテクヒに、2種類のディップを付けて食べるというスティックサラダ。
 ニナのは様々な野菜の千切りをマヨネーズっぽく見えるドレッシングであえたコールスローサラダだ。

「いつもの食事より種類が多いし美味しそうです。それでは食べましょうか」

「そうですね」

 そんな感じで、昼食会開始。
 焼き豚とパイ、どっちから食べようか。

 ちょっと考えたけれど、取り敢えず手前にあって取りやすいパイに決定。
 魔法で6分の1サイズにカットして、取り皿代わりに持ってきた朝食用プレートに取る。

 結構重くて詰まっているな。
 そう思いつつ、一口サイズにカットして口へ。

 おっと、思った以上に凝っている。
 上の芋側にホワイトソースっぽいソースが仕込まれている一方、下の肉側はミートソースっぽい味付け。
 両方食べると、良い感じに味が広がる。

「美味しいし凝っているね、これ」

「ウチの田舎味だけど、アリっしょ」

 確かに美味しい。
 かなりボリューミーで重いはずなのだけれど、抵抗なく食べきってしまう。
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