月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第19章 女子会その2

103 まずは集合まで

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 確かにそうやって犯罪者、あるいは犯罪を犯しやすい者を淘汰すれば、結果的に安全は確保出来るだろう。
 公による洗脳なんて恐怖というかディストピアという気がするけれど、死刑や終身刑に類するものだと思えば納得できる気がする。

 カタリナの説明は、まだ続いている。

「犯罪ではなく、労働あるいは財産的なものについてもそう。ヒラリアでは強制労働施設にかかるコストが無視できない額になってきている。ペルリアもそう。ただしペルリアの場合、自己破産者の人格書き換えはある程度認められている分、少しはまし。ナルニーアレの場合は人格書き換えが認められる範囲が広いから、今のところ強制労働施設が財政の負担になってはいない」

 そういえば社会見学実習の時、何か関係あることを聞いた気がする。

『住民調査反対派の集会での演説内容だろうと思われます。
「つまり、住民調査や強制労働施設への移送は、費用ばかりかかって効果が上がっていないのが実情であります。そして現状をベースとした試算では、対象を強制労働施設に送るより、むしろ現状のまま生活費を援助した方が、遥かに費用がかからないと出ています。そうすれば住民調査を無くしても……」』

 つまりペルリアでも、強制労働に関する費用は、少なからず国の財政上の負担になっているのだろう。
 そう思ったところで、カタリナの説明の続きが入る。

「むろん強制的な力の行使は、濫用の危険性を伴う。ただしこの世界では、知識魔法による監視が有効。一般による監視が可能で監視の結果不正をただすことが出来る状態なら、問題はない。この点で問題のある国はオーフにもある様だけれど、ナルニーアレ、ペルリア、ヒラリアは問題ない。
 ならある程度の不自由より、安全と効率を取りたい。」
 
 惑星オーフにも、そういった意味で危険な国は幾つかある。
 地理歴史をある程度進めれば出てくるので、私も当然知っている。

 一神教による専制国家なんてのまである。
『慈悲深い最高神ツアーフが悪しき世界から人を救い出し、オーフへ導いた。その為ツアーフ神に絶対服従を誓い、生活の全てを捧げる必要がある』
 そんな内容が国の最高法に記されている、ツアーフ教国だ。

 でもまあ、今はそういった私たちとすぐに関係しないだろう国のことは置いておこう。
 それに安全については、若干の疑問がある。

「でもそういった安全対策の違いって、現時点での安全さを反映した結果じゃないのかな。安全ではないからこそ、その分厳しい法律が必要だっていうのもある気がするけれど」

「おそらくはその通り。現状で体感できる安全さも、おそらくはナルニーアレよりペルリアやヒラリアの方が上。ただどの国も、毎年一定数の移民が入ってくる。故に変化を免れ得ない。なら現状で人権などの名目で非効率や既得権的な非合理が認められているより、法律が既に整備されている方が安全な気がする」

 なるほど。
 カタリナの言いたいこととは違うかもしれないけれど、似たような事を感じることは日本時代にあった。
 うちの家からそう遠くない地域で、たちの悪い不法滞在者が増加して、住民が困っている地域が実在していたから。

 しかもそこに訳のわからない人権団体だの微妙な政治家だのが絡んできた。
 人権という名目で、不法滞在者が不法行為をしようと、住民の方が譲るべきだという理解出来ない理屈を押し立てて。
 だから『法律が既に整備されている方が安全』という意味は理解出来るのだ。
 
「もちろんこれは、現時点での私の考え。それに知識魔法や公開情報ではわからないことがあるのも確か。法が現地でどれくらい正しく執行されているかも、外部の情報だけではわかりにくい。だから現状ではどこと決めず、かわりに選択肢を自由に選べるよう、出来る事は全部やっておく。それが今の方針」

 なるほど。
 
「なるほどね。私はそこまで考えなかったな」

「参考までにチアキは、今はどれが目標?」

 これは正直に言ってしまっていいだろう。

「ヒラリアの特A。最難関だからいざという際に潰しが効くから。あとは食生活的に、ペルリアより私が前にいたところに近いなんて程度の理由」

 言っておいて何だけれど、カタリナほど考えていないというか、浅い理由だと感じる。
 それに実際のところは、アキトとうな重のせいだったりするのだ。
 何というか……
 我ながら情けない。

「ならきっと、やっていることはほとんど同じ。あのコースを狙う実力があれば、事実上他のコースのどれも選択可能」

「まあ狙うだけなら誰でも出来るんだけれどね」

 実力が伴っているかは別として。
 なんて思ったところで、入口から1人入ってくるのが見えた。
 ニナが到着した様だ。

 ◇◇◇

 ニナとフインは来たけれど、ケイトとヒナリはなかなか来ない。
 壁面にかかっている、あと5分で11時となる時計を見てニナが口を開く。

「今回は入口広場待ち合わせだから、そろそろ行きましょうか」

「そうですね。動物園の入場料の20Cカルクフを節約しているのかもしれません」

 フインの言葉に私たちも頷いて、立ち上がる。
 えっ、もう撫でないんですか?
 そういう顔でこちらを見るフンテト君。

「また来るね」

 そう声をかけて、ふれ合い動物ランドの外へ。
 動物園を出て、入口広場へ移動。

 そろそろ時間かな。
 そう思ったところで、入口からダッシュでやってきた2人組を発見。
 見慣れた様式4の服、ケイトとヒナリだ。

「ヒナリの学習が終わらなかったんよ」

「最初の確認試験で80点だったではないですか」

「確認試験は満点とってなんぼ。わからない部分は戻ってやりなおし。知識魔法のおかげで暗記せんでいいだけ、地球よりましっしょ」

 うんうん。
 厳しいけれど、ケイトの方針はきっと正しい。
 私以外の皆さんそう思っているのか、視線が温かい気がする。

「それで今日はどの辺で食べますか? 今日はちょっと日差しがきついですから、日陰がいいです」

 たしかにニナの言うとおりだ。
 ケイトは走ってきたせいでまだ暑いらしく、冷却だの送風だの幾つも魔法を起動している。

 一方で一緒に走ってきたはずのヒナリは、送風魔法を使っているけれどそこまで暑そうではない。
 これは基礎体力とか、運動能力の違いだろうか。
 だとしたらケイトがなかなか不憫だ。
 ヒナリがそれに気づいているかどうかは別として。
 
「ならこの先から階段を上って東へ行ったところ。風が通って涼しい」

 自然公園に詳しいカタリナについて、私たちは歩き始める。
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