月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第3章 新しい特別科目

23 新しい特別科目

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 確認試験1は小数、分数、正負の数が入った計算を解くだけのもの。
 方程式の解を求める問題もあるけれど、あくまで式は既に立っていて、あとは解くだけ。
 
 面倒な作業だけれど、まあ確認なんてこんなものだろう。
 そう思いつつ解いて、ケアレスミスなく全問正解。

 しかし確認試験を解いた後。『確認試験2』という項目が出てきた。
 まさか連続であるとは思わなかった。
 ここでは『確認試験1』だけで、『確認試験2』があるとしてもあと8コマ進めたらだろう。
 そう思っていたのだ。

 現在の時間を確認。15時22分。そして『確認試験2』は『所要30分』と記されている。
 なら夕食の配給に間に合うだろう。さっさとやってしまおう。
 私はタップして、試験画面へと進める。

 ◇◇◇
 
『確認試験2』の範囲そのものは『確認試験1』とほぼ同じ。
 しかし中身は大分異なる。計算問題なしで、文章題ばかりだ。
 つまり文章を読んで自分で式を作り、答えを出せという代物。もちろん文章はオーフ標準語だ。

 ただ私は文章題の方が好きだ。むしろ計算問題が続くよりありがたい。
 計算なんてのは所詮は作業だ。
 式を変形させて簡単にする事が出来る場合はあるけれど、基本的には創意工夫が必要ない、単なる単純作業の積み重ね。

 でも文章題は、作業部分は圧倒的に少なめ。
 問題の論理を読解し、組み立てていく部分がメインになる。
 そして面白くない作業部分が少なめだ。
 計算問題なら4問くらい作業させられるところを、1問分の作業で済む。

 文章題がオーフ標準語で書かれていても、知識魔法を使えば翻訳できる。
 しかも文章題に使われているような文章は、翻訳が素直だ。

 つまり私にとっては、むしろ計算問題より楽だし楽しい。
 なので『確認試験1』より調子よく考え、解く。

 2回見直しをした後『回答終了』ボタンをタップ。
 よしよし、全問正解。そう思ったところで、タブレットが通知音を発した。

『通知が届いています』

 何だろう。タップしてみる。

『特別科目追加のお知らせ』

 今の数学がトリガーなのだろうか。
 それとも『魔法Ⅰ』が終わって『魔法Ⅱ』に入った事だろうか。
 そう思いつつ、タップして画面を切り替える。

『特別科目『独自魔法作成Ⅰ』が受講可能になりました。この科目の内容は、以下の通りです。
 ○ 学習目標 
  ・ 基礎的な魔法制御を身につけること
  ・ 簡単な独自魔法を自分で作成出来るようになること
 ○ 単位数 3分の1(8単位時間)
 ○ 特記事項
  ・ 履修完了は、指導員の前で独自魔法を披露し、発動と効果を確認することによって行います
  ・ 履修完了後の最初の第1曜日から、振り込まれる奨学金が100Cカルクフ増加します。外出許可が出ていない者については……』

 小遣いが増えるというのには、注目すべきだろう。
 私の懐事情にとって朗報というだけではない。
 お金を払ってでも受けて欲しいという、向こうの意思の表れだから。
 つまり取得すると、私の価値が上がるということを意味する。

 それに独自の魔法なんて言葉には、正直惹かれないでもない。
 可愛げのないつまらない私でも、そのくらいの中二心は持っているのだ。
 ここの世界はファンタジーのような、冒険者とか魔物との戦闘とか、王国とか貴族とかは無いようだけれど。

 だから結論は、受けるの一択。

 ただそうなると、他の科目の学習時間をどうするかだ。
 自然科学と地理歴史の進みが遅くなってしまう。
 かと言って言語は、ある程度までは一気に進めてしまいたい。

 学習コマ数のノルマを増やすというのは、やらない方がいい気がする。
 今でも少々疲れ気味なのだ。
 これ以上ノルマとして詰め込むと、きっと精神的に無理が出る。

 やれる範囲でやる。そのくらいに考えるのが無難だろう。
 でも各科目の進度や成績によって特別科目が出るのなら、全てを出来るだけ早く進めた方がいい。
 そんな焦りを感じてしまうのだ。

 効率よくここでの学習を進める、攻略法みたいなものは無いだろうか。
 何をどれくらい進めたら、有用な特別科目が出るというような。
 攻略系統図みたいなあると便利なのだけれど。

 そう思っても、知識魔法は反応しない。
 無いというのが答えなのか、公開しないだけなのか。

 そう思ったところで、タブレットに新たな表示。そして通知音。

『まもなく夕食の配給時刻です。私室の外へ出る事が出来る格好で、共同棟1階食堂まで受け取りに来て下さい』

 残念、いつもの夕食時間の通知だった。
 そういえば、そろそろそんな時間だ。
 取りあえず今は、頭を切り替えて夕食を取りに行こう。
 私はタブレットの電源を切って、魔法で収納した後、立ち上がる。

 ◇◇◇

 食堂は、そこそこの並び具合。
 いつも通り並ぼうとしたところで、ふっと視界の端で何かが動いた気がした。
 何だろう。そう思ってそちらを見てみる。

 ニナだった。こちらに向かって歩いてきて、そのまま列の、私の後ろに並ぶ。

「今日は相談したい事があります。私の部屋で一緒に夕食を食べませんか。昨日いただいたパンプディングほどではないですけれど、おまけも用意しています」

 どうやら私が来るまで、隠蔽魔法を使って端に隠れていたようだ。
 食堂は基本的に危険地帯。
 それに昨日の件があるので、やりすぎとは言えない。

 私としても、ニナと話が出来てちょうどいい。
 ニナが学習をどう進めているのか、聞いてみたいと思ったから。
 1日にどれくらいのコマ数を進めているかとか、各科目はどれくらい進んでいるかとか。
 あと先ほど、特別科目が出た事についても話しておきたい。
 
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