月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第3章 新しい特別科目

22 数学の確認試験

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 午前のお茶タイムの後、『言語Ⅰ』、昼食、また『魔法Ⅱ』、『言語Ⅰ』をやって。 

 風呂や洗濯を魔法訓練として単位に出来た結果『魔法Ⅰ』が先に終わったけれど、『言語Ⅰ』もあと1コマで終わりだ。
 ただ少し疲れたから、連続で『言語Ⅰ』をやるのはやめておこう。

 時間を確認。14時12分。
 少し早いけれどきりがいいから、おやつ休憩だ。
 魔法収納から昨日作ったパンプディングを出して、机上へ。

 パンプディングの甘みで、頭の疲れが少し取れた気がした。
 正直、勉強漬けに参っているというか飽きている。
 他にする事がないし、学習を進める必要性は高そうだから仕方ないのだけれど。

 こんな事を思うのは、きっと昨日の外出のせいだ。
 あれも学習のひとつだったのだけれど、此処にこもって学習をするのとは大分違った。
 だからこそ、此処に閉じこもって学習を進めることに、倦怠感を覚えてしまったのだろう。

 あとはこの異世界に慣れて、危機感が薄れているのも原因かもしれない。
 何となく見た窓の外は雨。15時頃は、割と雨が降りやすい。

 ◇◇◇

 現在の私は、1日に魔法関係2コマ、言語が2コマ、それ以外を2コマという目安で学習を進めている。

 最低24単位が必要で、1単位が24単位時間分。だから最低限必要学習しなければならないのは、24*24=576単位時間分。
 それを2月から9月の237日でやるとすると、1日あたり最低限こなさなければならないのは576/237≒2.43単位時間分。
 つまり1日あたり3科目進めれば、最低限+アルファは確保出来る事になる。

 ただこれで充分かというと、きっと違う。
『魔法Ⅱ』という科目は、『魔法Ⅰ』が履修完了になるまで出なかった。
 どれかの科目が終わらなければ履修できない科目がある、という事だ。
 なら学習は進めておいた方がいい。後の選択肢を増やすために。

 日本の高校までの学校は、1日の授業は最大6時限だった。
 なら当座は、学習課題を1日に6コマ進めるのを目安にしよう。
 基本的に午前中に3コマ、午後に3コマで。
 言語と魔法を優先ということで、この2つは出来るだけ1日に2コマは入れるようにして。

 そんな目安を立てていたけれど、実際は1日に8コマ進めている。
 これは私が時間を潰せるものが、今のところは他に無いからだ。

 強いて言えば地図を見たり、興味を持った場所を知識魔法で調べたりするくらい。
 あとはデザートを作る時間。

 日本にいる頃は、スマホで小説や漫画をよく読んでいた。
 動画は話題になったものを、時々程度に。
 しかし此処のタブレットからは、施設からの連絡と学習関係、生活関係の資料以外にはアクセス出来ない。

 せめて本とか漫画を読めればいいのだけれど、なんてことを思ってしまう。
 小説も漫画も本の形式で存在するのは、知識魔法で確認済みだ。
 しかし外出して購入するのは、現状では難しい。

『一般的な小説で、1冊300Cカルクフ位からです』

 安い本でも、私の一週間の小遣いが消えてしまう様だ。
 楽しめるかどうかわからない本にそれだけつぎ込む度胸は、少なくとも今の私にはない。
 それではおやつ作りが出来なくなってしまう。

 来週の小遣いで、バターとクリームと、砂糖や卵の追加を買うつもりなのだ。
 この世界には牛がいないので、バターもどきやクリームもどきだけれど。
 そうすれば作れるデザートの種類が、ぐっと増える。

 なら図書館とか図書室とか、そういった無料で本を読むことが出来る施設を教えてくれるかと思ったのだ。
 しかし知識魔法によって、図書館の利用は否定されてしまった。

『ポアノンには図書館がありますが、ペルリア国民以外は利用資格がありません。施設を卒業して受け入れ国が決まるまでは、何処の国民ともなっていない為です。協定により国民に準ずる扱いをすることとなっていますが、福祉制度や国民サービスの一部は使えません。図書館も使えないサービスのひとつです』

 なら施設に図書室は無いのか。
 そう考えたのだけれど、知識魔法の返答は無い。

 もし無いのなら『ありません』旨の返答をしてくるだろう。
 つまり『あるけれど、私には使用出来ない』状況なのではないか。
 もしそうなら外出のように、何かの条件で解禁されるかもしれない。

 条件が学習の進度や成績なら、やはり言語の科目が関係している可能性が高いだろう。
 ただ言語の学習、今でも他に優先して日に2コマ入れている上、結構疲れる。
 出てきた単語や構文は忘れないようにノートにつけておくし、忘れていないか翌日確認する必要があるしで。

 ◇◇◇

 あれこれぼんやり考えているうちに、パンプディングが無くなってしまった。
 小鉢の底にも、もうひとかけらも残っていない。
 仕方ない。休憩の時間を終わりにして、学習を開始するとしよう。

 ただ今日は頭がなんとなく疲れている。暗記系の科目をやる元気はない。
 でも窓の外は雨、だから運動はパス。
 室内運動場を使うにせよ、今の雨の強さなら共用棟までの渡り廊下で濡れそうだから。

 なら今日最後の学習科目は、数学にしよう。
 今の私にとって、一番負担が少なく感じる科目だから。

 現在履修中の数学科目は『数学Ⅰ』。
 名前こそ高校でやりそうな感じだけれど、この施設での内容は、概ね中学校の範囲まで。
 このくらいの内容なら、ケアレスミスさえしなければ楽勝だ。
 そんな訳で『数学Ⅰ』8コマ目の学習を開始する。

 ◇◇◇

 今回の内容は、分数や小数を使った一次方程式だった。
 それも文章題がメイン、私にとっては楽だしウェルカムな内容。

 私は計算問題より文章題が好きだ。
 計算は単なる作業で面白くないし、面倒くさい。
 一方で文章題を読んで解くという作業は、推理小説やパズルに近い楽しさがある。
 文章題1問は計算問題4問くらいのウエイトなので、面白くなく面倒な計算が少なくて済むのもいい。
 
 結果、そこそこ調子よく最後まで終了。
 しかし今回はただ終了するだけでは無く、確認試験という項目が現れた。
 言語の時と同じだな、そう感じる。

 ただどの科目でも、途中で確認試験が出る訳ではないようだ。
『魔法Ⅰ』は24コマ全部を終わらせるまで、確認試験はなかった。
 魔力測定が確認試験の代わりなのだろうか。

 いずれにせよ、ここで確認試験を受けておいた方がいいだろう。
 なので早速、『確認試験1』をタップして画面を進める。
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