月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第4章 二度目の外出

27 2回目の外出開始

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 今日は13日の第1曜日。
 ニナと外出して、情報紙を買ってくる日だ。

 昨日夕食を食べながら、今日の打ち合わせをしておいた。
 だから待ち合わせ場所、時間、大体の日程については決定済み。
 あとついでに、学習状況についても軽く情報交換。

「数学Ⅰを8単位時間進めて確認試験1を受けたのですが、確認試験2が出てきませんでした。特別科目も出てきていません。
 おそらく確認試験2が出る条件があるのでしょう。おそらく『言語Ⅰ』が履修済であることだろうと思います」

 なら私が『言語Ⅰ』と『魔法Ⅰ』を思い切り進めたことにも、意味はあったのかもしれない。
 ただそうなると……

「難しいよね。どう学習を進めれば正解なのかなんて」

「特別科目を全部取るというのは、きっと無理なのだろうと思います。目標は義務教育学校卒業試験で正答率95%以上、最低でも義務教育学校9学年終了までの内容を完全にする。それ以上は出来る範囲でやればいいと思います」

 確かに卒業後の進度を読んだ限りでは、それで十分な気がする。
 どうにも私の考え方は、余裕がない方に自分を追い詰めがちだ。

 しかし正答率95%以上というのは、かなり難しい気がする。
 気を抜くとケアレスミスだけで5%以上は間違ってしまうし。
 オーフ共通語は紛らわしい単語が多いから。

 それはそれとして、今回の外出ではニナを見習って、私もある程度広範囲に地図を見たし調べ物をした。
 たとえば情報紙についても調べて、第三候補まで考えてある。

 この情報紙、性別や年齢別、更には趣味別とかで、多種多様なものが出ているようだ。
 今回私が購入候補としたのは次の三紙。
 
【プリール】
 18歳から30歳くらいまで女性向け総合紙。地方ごとに出ていて、ここで売っているのはポアノン版で毎週第1曜日に発行。
 内容は最近のニュース、服装チェック、店の案内、連載小説、文通欄等。

【ナヒルカ】
 総合ニュース紙。ペルリア共和国北部版が奇数曜日に発行。
 内容は最近のニュース中心で、日本の新聞に近い模様。

【ネレノーラ】
 40歳くらいまでの女性向け。ポアノンを中心としたノルヒナ地方版が毎週第1曜日発行。
 内容はニュースが少し、飲食店や服飾店の紹介、ショーの案内と批評、文通欄。

 どうしても地球の年齢が頭にあるから、40歳というと中年と感じてしまう。
 地球年齢にすると26歳8ヶ月なのだけれど。
 この辺の感覚も、そのうち慣れるのだろうか。

 他にも購入するバターの銘柄とか、スイーツを食べる店とか、あれこれと調べた。
 確かにこういった作業、勉強の合間の息抜きにはちょうどいい。
 やり過ぎて思ったより時間が経過していた、なんて事もあるけれど。

 朝食・昼食配給は一緒にニナと並んで、まだニナに絡んでこようとした連中はいつものように追っ払って。
 ここでは外出の話はしない。
 もちろん用心の為だ。

 朝食そのものはそれぞれ自分の部屋で食べて、8時ちょうどに門の外側で待ち合わせだ。
 
 7時50分に部屋から出て、寮の玄関で周囲を確認した後、隠蔽魔法を起動。この状態で門に向かう。
 このまま門から出入りしても問題ないことは、知識魔法で確認済みだ。

『門の出入りは隠蔽魔法を使っても問題ありません。魔法的に見張っているので、外出証の有無も含め確認可能です』

 私やニナにとっては施設外部の人間より施設内、特に食堂に多いゾンビのような連中の方が脅威。
 だからそうやって外出を見られないようにするのは結構重要。

 門の外に出て、施設内から見えない塀際に寄ってから、隠蔽魔法を解除する。
 5分くらい早く着いたはずだから、少し待つかな。
 そう思った次の瞬間、私の横にニナが出現した。

「もう来ていたんだ」

「今日の外出は楽しみでしたから、つい早く出てしまいました」

 2人で並んで歩き始める。

「今日は公設市場でお金を下ろして、本屋で情報紙を買って解散でいいよね?」

 昨日の夕食で、ある程度今日の予定は詰めてある。
 だからその確認のつもりで聞いてみた。

「昨晩近くの店を調べていたら、美味しそうなデザートを出すお店が見つかったんです。ですのでもし良ければですけれど、一緒に行きませんか。2人ならわけあって2種類のデザートを食べられます。本屋の東側60mほどの場所にある、パナケラフというお店です」

 パナケラフなら、私も調査済みだ。
 スイーツ一食だけなら、そうお高くはない。
 今日デザートを食べに行こうと思った候補のひとつだったりする。

「いいね。パナケラフは今日寄る候補のひとつだったんだ。せっかくの外出だから、デザートを食べておこうと思って」

「ならパナケラフ以外にも、把握したお店を教えてくれませんか。他の候補も考えてみたいです」

 あの辺りのデザート系のお店についてはひととおり調べてある。

「あとは公設市場北側中央にあるレーナトールと、公設市場南側にあるヌローラ商業施設カルテノにあるエルンかな。どっちもデザートとドリンクのセットだけなら100Cカルクフしないから、値段的には大丈夫だと思う」

 強いて言えばレーナトールはこの前行ったから、他のところがいい。
 ただこの前食べたホットケーキというかクレープもどきは結構美味しかったし、他にもデザートメニューがある。
 だからここでは駄目という事もない。行くのも簡単だし。
 
 エルンはヌローラ商業施設カルテノという、最近運河カナラ地区ツフトラクトに出来はじめた小型商業施設に入っている。
 この商業施設カルテノは若い女性向けで、他には服屋とアクセサリーショップがある。

 ちょっと流行系の場所っぽいから、私達では浮いてしまうかもしれない。
 そう思って第一候補から外した。
 しかし値段自体はそこそこお安い様だ。
 私達と同年代くらいの現地女子がどんな感じなのかを見るのは、悪くない場所だと思う。

「こういったお店は、喫茶店カヘイという種類なんですね」

 ニナの言うとおり、私が今回選んだのはオーフ共通語で喫茶店カヘイと呼ばれるタイプだ。
 日本で言うなら喫茶店とファストフード店を兼ねた感じ。
 マックとかドトールみたいな感じだろうか。
 ここのお店はチェーン店ではないけれど。 

「そう。朝食や昼食は施設で食べるから、今回はスイーツでいいかと思って。喫茶店ハーラーはちょっと高級でお値段高めだし、開くのが遅いから」

 日本語に訳すと喫茶店カヘイ喫茶店ハーラーも同じだけれど、此処ペルリアでは位置づけが違う。
 お値段も結構違うし、営業時間も喫茶店カヘイは朝から夕方までで、喫茶店ハーラーは昼から夜まで。

 この辺はきっと、日本との文化の差だろう。

「ならこの先を左に曲がって、2本西の道を歩いてみませんか。そうすればヌローラ商業施設カルテノとリラノ商業施設カルテノの前を通れます。エルンがどんな雰囲気なのか、わかるかもしれません」

 確かにその方が面白いかなと感じた。
 官庁街は前回の帰りに通ったけれど、赤褐色の重々しい建物が並んでいるだけだし。

「そうだね。その方が楽しそう」

 私はそう同意する。
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