月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第8章 選択肢

53 他の課程について

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 長期課程(Ⅱ)と長期課程(Ⅲ)は、どちらも授業形式で学習を進める形式だ。
 授業は長期課程(Ⅱ)と長期課程(Ⅲ)それぞれ別の、習熟度別のクラスで行われる。

 長期課程(Ⅱ)の最高クラスの場合、必須科目で学べるのは、こんな感じだ。
 ○ 言語(Ⅰから最高でⅦまで。Ⅳまでが必須。各1単位) 
 ○ 魔法(Ⅰから最高でⅦまで。Ⅳまでが必須。各1単位)
 ○ 数学(Ⅰから最高でⅤまで。Ⅲまでが必須。各1単位)
 ○ 自然科学(Ⅰから最高でⅣまで。Ⅲまでが必須。各1単位)
 ○ 地理歴史(Ⅰから最高でⅣまで。Ⅲまでが必須。各1単位)
 ○ 運動(ⅠからⅢまで。必須。各1単位)

 つまり最上級クラスでも、長期課程(Ⅰ)と比べて運動以外で各科目1単位ずつ少なくなっている。

 また特別科目は週あたり、自由選択が2単位時間、施設側が決定して生徒が自由選択出来ないものが1単位時間まで。
 学習出来る時間が限られている分、習得出来る特別科目が長期課程(Ⅰ)より少ない。

 これが長期課程(Ⅲ)となると、言語と魔法はⅤまで、数学がⅣまで、自然科学と地理歴史はⅢまでとなる。

 運動だけは長期課程の(Ⅰ)も(Ⅱ)も(Ⅲ)も3単位。
 これは施設にいる間の運動不足解消用みたいなものだからだろう。
 運動音痴の私でも、タブレットの指示通りに動こうと努力すれば高評価になるので問題ないし、むしろ気分転換になる。

 そして長期課程(Ⅲ)は、授業以外にも訓練・補講時間というものがある。
 授業で理解していないと判断された科目の補講や、職業別に必要と思われる魔法の取得といった事をやるらしい。

 何をやるかは『各生徒に最適なものを施設と指導員が判断します』だそうだ。
 つまり自分では選べない。

 なお長期課程(Ⅱ)や(Ⅲ)であっても、自分の自由時間を使って学習を進めることは可能だ。
 授業より更に進度早めに自習することも、それで上位の科目を履修完了にする事も出来る。

 この場合の科目履修条件は、長期課程(Ⅰ)と同じ。
 履修完了にした科目は、進路選択時に使用可能だそうだ。
 長期課程(Ⅰ)と違って授業に時間を取られるから、結構難しいだろうと思うけれど。

 ◇◇◇

 また長期課程(Ⅱ)と長期課程(Ⅲ)は生活の自由度もかなり異なる。

 長期課程(Ⅱ)は、授業時間以外は割と自由。
 日課時限で決まっているのは、授業の時間の他は、授業がある日の朝食と昼食の時間だけ。
 夕食や第6曜日の食事なら、長期課程(Ⅰ)と同じ時間に受け取った後、あとは何処で食べようと自由。

 外出は月2回の外出許可試験に合格すれば、授業時間中以外は自由に外出可能。
 授業時間に外出出来ないことと、21時に門限があるのが、長期課程(Ⅰ)との違いだ。

 また各寮の個室も、使用者が許可を出せば、入ることが可能。

 一方で長期学習(Ⅲ)は、日課時限がきっちり決まっている。

 起床時間は朝6時で、起きたら部屋の前に出て、寮務指導員による点呼がある。
 食事も朝7時、昼12時、夕5時と決まっていて、食堂の指定の場所でとることとなっているそうだ。

 昼は第6曜日以外は授業と訓練・補講時間で、夕食以降は21時まで自由時間。
 21時に寮の自室扉前に立ち、寮務指導員による点呼を受け、就寝。
 授業や訓練・補講時間以外はどの曜日でも変わらない。

 外出するには、月2回の外出許可試験に合格する必要がある。
 しかも外出出来るのは第6曜日の、8時から16時までのみ。
 その上、外出を希望する場合は、第5曜日夕食前までに担当指導員に行き先と外出目的を告げて許可を貰う必要がある。

 何というか、刑務所みたいな生活だなと思ってしまう。
 もちろん檻なんてものは無いし、実際の刑務所はもっとずっと厳しいのだろうけれど。

 そういえば第一施設の横に、刑務所ではなく強制労働施設があった事を思い出した。
 あちらはもっと厳しいのだろうか。
 
 なお長期課程(Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)とも、一度決まれば施設を出るまで固定という訳ではない。
 1ヶ月ごとの一斉到達度試験時に希望を出せば、他の課程に移る事も可能とあった。
 この際、試験の成績、学習進度、その他素行などが条件を満たしていれば、希望の課程へと移動可能だ。
 また逆に強制的に他の課程に移される事もあるとなっていた。

 とりあえず『希望学習課程の調査と各課程の内容について』については大体理解した。
 それでは残る『施設卒業後の進路について』を確認しておこう……

 ◇◇◇

 翌朝。いつも通り食堂の列に並ぶとニナがやってきた。

「おはよう」

「おはよう。何か眠そうですね」

 その通りだ。30分程朝風呂に入ったけれど、眠気が取れない。
 理由はわかっている。

「単なる寝不足。掲示板に載っていた施設からのお知らせ関係を一通り確認して、それから言語と魔法を進めたから」

『施設卒業後の進路について』は内容が濃かった。
 中でも私が気になったのは、卒業時に選べる進路一覧。

 どれも義務教育学校10年生に編入するのは同じ。
 しかしコースによって場所と内容、居住場所の待遇、奨学金金額が変わってくる。
 要求される取得科目や成績等もそれぞれ違う。

 たとえばヒラリア共和国の特A基準では、必須科目は全て最高進度が要求される。
 その代わり奨学金が、学費家賃食費以外に15,000Cカルクフ相当(現地では正銀貨15枚)出るそうだ。
 学校も首都指定で、寮は個室で風呂付きトイレ付き。
 そこそこ広い上、街にも近いとある。
 
 逆にナルニーアレ連邦の開拓者C基準では、出るのは学費家賃食費等生活にかかる金額の他には月1,000Cカルクフ相当(現地では2,000クフタ)だけ。
 寮も4人1部屋で風呂トイレ共同。授業の他に開拓実習があるし、近くに街はない。
 かわりに『成績は問わない』となっている。

 こんな成績による格差社会? を知ってしまうと、つい学習を進めなきゃと思ってしまうのだ。
 その結果、夜遅い時間なのに、毎日の日課である言語Ⅱと魔法Ⅱを進めてしまったという訳で……

「睡眠時間を減らしてまで、学習を進めたのですか?」

「昨日はあまり進められなかったから。最低限分はやっておこうと思って。必要な単位数を考えると、簡単なうちに出来る限り進めておかないとまずい気がするし」

 同じ1単位時間分でも、数学Ⅰと数学Ⅵでは理解にかかる時間と手間が全然違うだろう。
 なら簡単なうちにガンガン進めておくのが、きっと正解。
 更に留学というか他国に行く学習を考えると、進めるだけ進めて時間の余裕を作った方が良い。

「進められる内に進めるというのは正しいとは思います。でも無理はしないで下さい。体調不良なら魔法で治療できますけれど、精神的に疲れた場合は回復できない可能性がありますから」

 精神的に病んでしまう可能性か。
 高校とかだと、あまり考えなかった気がする。
 ニナは以前は社会人か大学生だったのだろうか。
 
 そんな事を思いつつ今日も大盛で朝昼食を受け取り、下膳口で昨日分を返却。
 朝早めだからか昨日の処分や情報公開のせいか、食堂にたむろっている生徒はごく少ない。
 1人か2人で朝食を食べている生徒が3テーブルいるだけだ。

「夕食の時もこうだといいのですけれど」

「昨日は平和だったし、大丈夫じゃない?」

 ニナとそんな事を話しつつ寮の3階まで一緒に行って、ニナの部屋の前で別れる。
 
 今日の朝食は定番の、薄切りハム4枚、卵焼き、サラダ、クリームスープ、パン3枚、バター代わりの塩・ハーブ入り脂という内容。

 大盛だからかパンが大きめで、かつ1枚多い。
 あとハムも1枚多いし、卵焼きやサラダも心持ち多めという気がする。
 パン2枚とハム1枚を収納してから朝食開始。

 食べながらタブレットで掲示板を確認。
 施設からのお知らせは更新されていないし、生徒の書き込みも読む必要があるものは無さそうだ。
 この掲示板関係ではまだ『この事案を捜査した結果判明した事項』を読んでいない。

 しかし昨日の実習分、普段の勉強が進んでいない。
 だから今日は、朝食を食べたら、勉強に専念しよう。
 掲示板の方はある程度学習を進めてから、休憩の時にでも確認すればいいだろう。
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