55 / 125
第一部エピローグ 一斉到達度確認試験
55 一斉到達度確認試験
しおりを挟む
それから一斉到達度確認試験がある3月2日まで、静かで平和な日々が続いた。
食堂は以前に比べ、かなり安心出来る場所に変わった。
誰も常駐していないという訳ではない。
元ゾンビのうち、自室謹慎処分になっていない生徒がまだ5~6人来てテーブル3つ位使っている。
しかし前よりずっと静かだし、一応はタブレットを使って勉強をしている様だ。
あまりに変わりすぎたので寮へ帰る途中、渡り廊下でついニナに言ってしまった。
「幾らリーダー格がいなくなったからといって、変わりすぎだよね」
「何か施設側からの連絡があったのかもしれません。このままの学習進度ではこういった事態になります、のような指導が入ったとか。処分の後なので無視は出来ないのでしょう」
確かにそんな事はありそうだ。私も納得だ。
もちろん試験までの10日ちょっとの間、全く何も無かったわけではない。
たとえば私は、勉強ばかりしている時間にうんざりしたので、22日の昼過ぎに図書室に行って、スイーツのレシピ本を借りた。
小説にしなかったのは、私がまだオーフ標準語をすらすら読める段階に達していないからだ。
情報紙を読んで、現状がよくわかった。
だから読みやすさと実利とを兼ねて、レシピ本にした訳だ。
実は自然観察実習で食べたバイキングで出た、この国風のスイーツを作ってみたいと思ったのもある。
同じチーズケーキでも、私とはまた違う感じなのだ。
そしてこの世界のレシピ本は魔法前提の調理方法で記されていて、私の知っているレシピとはかなり違っていた。
参考になるし、面白い。
調理器具も地球とは大分異なっている。
たとえば焦げ目を簡単につける為のコテがあるとか、逆にオーブンは基本的に存在しないとか。
食材も当然違う。
テッテレルやタクサルは知っていたけれど、パルニナという甘く煮た豆を半乾燥させたものとか、知らないものが多い。
小麦粉の代用品だって、グネタム粉の他にもカハヒン粉やトルテア粉や……
似たようなスイーツでもそれぞれの粉で作り分けられていて、それぞれ味も食感も名称も違う様だ。
この本で学んだレシピを元に、25日第1曜日には材料の買い出しに出かけた。
そしてついあれこれ作ってしまった結果、スイーツ系の在庫が大量になったりもしている。
他にはニナの他にカタリナ、ヒナリ、フインと連絡をとった。
掲示板に公設休憩所でプレ女子会をやろうと書き込んだら、全員集まってくれたのだ。
なお次の女子会は、一斉到達度試験翌々日の4日予定。
内容は『自然公園でペット恐竜をなでなでした後、自然公園の景色がいい場所でお昼ご飯を食べる』に決まった。
なお雨天順延で、中止の時は朝8時までに掲示板に『雨なので女子会は中止します』と書くことになっている。
◇◇◇
そしてついに3月2日、一斉到達度確認試験の日。
なお試験が1日ではなく2日なのは、1日が第6曜日だから。
第6曜日は指導員も基本的にお休みらしい。
試験は9時開始だから、余裕を見て8時50分くらいに部屋を出る。
ニナの部屋をノックして、ここからは2人で第一教室へ。
だいたい皆、似たようなタイミングで出たようで、階段も渡り廊下もそこそこ生徒がいる。
でも会話する程の知り合いはいなかったので、そのまま何もなく第一教室に無事到着。
第一教室は6割くらい埋まっていた。
そして会話出来る知り合いもほとんどがもう着いている。
廊下側から3列目、前から2番目、ヒナリの左横が空いていたので着席。
「おはよう。どう、調子は」
「数学は小学校卒業程度ですし、言語もⅠの半分までだから問題ないでしょう。自然科学や地理歴史は知識魔法を使えますし、大丈夫だと思います」
ヒナリは本来は陽葵で、元日本人で高校3年だったそうだ。
だから私としても、割と話しやすい。
「でも共通語の単語って紛らわしいというか、間違えそうな単語が多いよね」
私の最大の懸念はここだったりする。
言語の確認試験、いつも微妙にスペルミスして満点が取れないのだ。
「アルファベットが少ないから仕方ありません。それに文法そのものは覚えやすくて楽です」
「まあその通りなんだけれどね」
「ところでこのままだと天気が良さそうですね」
何を言いたいのかはわかる。
「明後日は無事決行かな」
もちろんフンテト君を愛でる会、いや女子会のことだ。
「ええ。楽しみです」
廊下側から足音が聞こえた。
黒板上の時計を見るとまもなく9時。
ならこれはナラハ指導員だろう。
「それじゃ」
座り直して、偵察魔法で教室内の人数を数える。
男子が17人で女子が18人。
最初は男子20人、女子20人で始まった筈だから、5人はいなくなっているという事だ。
3人は完全矯正で第一施設に送られているけれど、残り2人はどうしたのだろう。
そういえばニナから1人、割と早い段階で消えていたと聞いた覚えがある。
掲示板等に載っていないだけで、それなりに処分はやっていたのかもしれない。
入ってきたのは予想通り、ナラハ指導員。
偵察魔法を解除して、机上に筆記用具一式とタブレットが出ていることを確認。問題ない。
「それでは全員揃っている様ですので、試験の説明を開始します。まず偵察魔法や透視魔法等、他人の解答を見る事が出来る魔法は使用禁止です。ただし知識魔法は使用しても問題ありません……」
食堂は以前に比べ、かなり安心出来る場所に変わった。
誰も常駐していないという訳ではない。
元ゾンビのうち、自室謹慎処分になっていない生徒がまだ5~6人来てテーブル3つ位使っている。
しかし前よりずっと静かだし、一応はタブレットを使って勉強をしている様だ。
あまりに変わりすぎたので寮へ帰る途中、渡り廊下でついニナに言ってしまった。
「幾らリーダー格がいなくなったからといって、変わりすぎだよね」
「何か施設側からの連絡があったのかもしれません。このままの学習進度ではこういった事態になります、のような指導が入ったとか。処分の後なので無視は出来ないのでしょう」
確かにそんな事はありそうだ。私も納得だ。
もちろん試験までの10日ちょっとの間、全く何も無かったわけではない。
たとえば私は、勉強ばかりしている時間にうんざりしたので、22日の昼過ぎに図書室に行って、スイーツのレシピ本を借りた。
小説にしなかったのは、私がまだオーフ標準語をすらすら読める段階に達していないからだ。
情報紙を読んで、現状がよくわかった。
だから読みやすさと実利とを兼ねて、レシピ本にした訳だ。
実は自然観察実習で食べたバイキングで出た、この国風のスイーツを作ってみたいと思ったのもある。
同じチーズケーキでも、私とはまた違う感じなのだ。
そしてこの世界のレシピ本は魔法前提の調理方法で記されていて、私の知っているレシピとはかなり違っていた。
参考になるし、面白い。
調理器具も地球とは大分異なっている。
たとえば焦げ目を簡単につける為のコテがあるとか、逆にオーブンは基本的に存在しないとか。
食材も当然違う。
テッテレルやタクサルは知っていたけれど、パルニナという甘く煮た豆を半乾燥させたものとか、知らないものが多い。
小麦粉の代用品だって、グネタム粉の他にもカハヒン粉やトルテア粉や……
似たようなスイーツでもそれぞれの粉で作り分けられていて、それぞれ味も食感も名称も違う様だ。
この本で学んだレシピを元に、25日第1曜日には材料の買い出しに出かけた。
そしてついあれこれ作ってしまった結果、スイーツ系の在庫が大量になったりもしている。
他にはニナの他にカタリナ、ヒナリ、フインと連絡をとった。
掲示板に公設休憩所でプレ女子会をやろうと書き込んだら、全員集まってくれたのだ。
なお次の女子会は、一斉到達度試験翌々日の4日予定。
内容は『自然公園でペット恐竜をなでなでした後、自然公園の景色がいい場所でお昼ご飯を食べる』に決まった。
なお雨天順延で、中止の時は朝8時までに掲示板に『雨なので女子会は中止します』と書くことになっている。
◇◇◇
そしてついに3月2日、一斉到達度確認試験の日。
なお試験が1日ではなく2日なのは、1日が第6曜日だから。
第6曜日は指導員も基本的にお休みらしい。
試験は9時開始だから、余裕を見て8時50分くらいに部屋を出る。
ニナの部屋をノックして、ここからは2人で第一教室へ。
だいたい皆、似たようなタイミングで出たようで、階段も渡り廊下もそこそこ生徒がいる。
でも会話する程の知り合いはいなかったので、そのまま何もなく第一教室に無事到着。
第一教室は6割くらい埋まっていた。
そして会話出来る知り合いもほとんどがもう着いている。
廊下側から3列目、前から2番目、ヒナリの左横が空いていたので着席。
「おはよう。どう、調子は」
「数学は小学校卒業程度ですし、言語もⅠの半分までだから問題ないでしょう。自然科学や地理歴史は知識魔法を使えますし、大丈夫だと思います」
ヒナリは本来は陽葵で、元日本人で高校3年だったそうだ。
だから私としても、割と話しやすい。
「でも共通語の単語って紛らわしいというか、間違えそうな単語が多いよね」
私の最大の懸念はここだったりする。
言語の確認試験、いつも微妙にスペルミスして満点が取れないのだ。
「アルファベットが少ないから仕方ありません。それに文法そのものは覚えやすくて楽です」
「まあその通りなんだけれどね」
「ところでこのままだと天気が良さそうですね」
何を言いたいのかはわかる。
「明後日は無事決行かな」
もちろんフンテト君を愛でる会、いや女子会のことだ。
「ええ。楽しみです」
廊下側から足音が聞こえた。
黒板上の時計を見るとまもなく9時。
ならこれはナラハ指導員だろう。
「それじゃ」
座り直して、偵察魔法で教室内の人数を数える。
男子が17人で女子が18人。
最初は男子20人、女子20人で始まった筈だから、5人はいなくなっているという事だ。
3人は完全矯正で第一施設に送られているけれど、残り2人はどうしたのだろう。
そういえばニナから1人、割と早い段階で消えていたと聞いた覚えがある。
掲示板等に載っていないだけで、それなりに処分はやっていたのかもしれない。
入ってきたのは予想通り、ナラハ指導員。
偵察魔法を解除して、机上に筆記用具一式とタブレットが出ていることを確認。問題ない。
「それでは全員揃っている様ですので、試験の説明を開始します。まず偵察魔法や透視魔法等、他人の解答を見る事が出来る魔法は使用禁止です。ただし知識魔法は使用しても問題ありません……」
79
あなたにおすすめの小説
力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します
枯井戸
ファンタジー
──大勇者時代。
誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。
そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。
名はユウト。
人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。
そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。
「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」
そう言った男の名は〝ユウキ〟
この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。
「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。
しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。
「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」
ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。
ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。
──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。
この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜
凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。
目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて…
(まさか……転生…?!)
魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。
魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり──
王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結】前世聖女のかけだし悪女
たちばな立花
ファンタジー
魔王を退治し世界を救った聖女が早世した。
しかし、彼女は聖女の能力と記憶を残したまま、実兄の末娘リリアナとして生まれ変わる。
妹や妻を失い優しい性格が冷酷に変わってしまった父、母を失い心を閉ざした兄。
前世、世界のために家族を守れなかったリリアナは、世間から悪と言われようとも、今世の力は家族のために使うと決意する。
まずは父と兄の心を開いて、普通の貴族令嬢ライフを送ろうと思ったけど、倒したはずの魔王が執事として現れて――!?
無表情な父とツンがすぎる兄と変人執事に囲まれたニューライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる