月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

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第一部エピローグ 一斉到達度確認試験

55 一斉到達度確認試験

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 それから一斉到達度確認試験がある3月2日まで、静かで平和な日々が続いた。
 食堂は以前に比べ、かなり安心出来る場所に変わった。

 誰も常駐していないという訳ではない。
 元ゾンビのうち、自室謹慎処分になっていない生徒がまだ5~6人来てテーブル3つ位使っている。
 しかし前よりずっと静かだし、一応はタブレットを使って勉強をしている様だ。

 あまりに変わりすぎたので寮へ帰る途中、渡り廊下でついニナに言ってしまった。

「幾らリーダー格がいなくなったからといって、変わりすぎだよね」

「何か施設側からの連絡があったのかもしれません。このままの学習進度ではこういった事態になります、のような指導が入ったとか。処分の後なので無視は出来ないのでしょう」

 確かにそんな事はありそうだ。私も納得だ。

 もちろん試験までの10日ちょっとの間、全く何も無かったわけではない。
 たとえば私は、勉強ばかりしている時間にうんざりしたので、22日の昼過ぎに図書室に行って、スイーツのレシピ本を借りた。

 小説にしなかったのは、私がまだオーフ標準語をすらすら読める段階に達していないからだ。
 情報紙を読んで、現状がよくわかった。
 だから読みやすさと実利とを兼ねて、レシピ本にした訳だ。

 実は自然観察実習で食べたバイキングで出た、この国風のスイーツを作ってみたいと思ったのもある。
 同じチーズケーキでも、私とはまた違う感じなのだ。

 そしてこの世界のレシピ本は魔法前提の調理方法で記されていて、私の知っているレシピとはかなり違っていた。
 参考になるし、面白い。
 調理器具も地球とは大分異なっている。
 たとえば焦げ目を簡単につける為のコテがあるとか、逆にオーブンは基本的に存在しないとか。

 食材も当然違う。
 テッテレルやタクサルは知っていたけれど、パルニナという甘く煮た豆を半乾燥させたものとか、知らないものが多い。
 小麦粉の代用品だって、グネタム粉の他にもカハヒン粉やトルテア粉や……
 似たようなスイーツでもそれぞれの粉で作り分けられていて、それぞれ味も食感も名称も違う様だ。

 この本で学んだレシピを元に、25日第1曜日には材料の買い出しに出かけた。
 そしてついあれこれ作ってしまった結果、スイーツ系の在庫が大量になったりもしている。 

 他にはニナの他にカタリナ、ヒナリ、フインと連絡をとった。
 掲示板に公設休憩所でプレ女子会をやろうと書き込んだら、全員集まってくれたのだ。

 なお次の女子会は、一斉到達度試験翌々日の4日予定。
 内容は『自然公園でペット恐竜をなでなでした後、自然公園の景色がいい場所でお昼ご飯を食べる』に決まった。
 なお雨天順延で、中止の時は朝8時までに掲示板に『雨なので女子会は中止します』と書くことになっている。

 ◇◇◇

 そしてついに3月2日、一斉到達度確認試験の日。
 なお試験が1日ではなく2日なのは、1日が第6曜日だから。
 第6曜日は指導員も基本的にお休みらしい。

 試験は9時開始だから、余裕を見て8時50分くらいに部屋を出る。
 ニナの部屋をノックして、ここからは2人で第一教室へ。

 だいたい皆、似たようなタイミングで出たようで、階段も渡り廊下もそこそこ生徒がいる。
 でも会話する程の知り合いはいなかったので、そのまま何もなく第一教室に無事到着。

 第一教室は6割くらい埋まっていた。
 そして会話出来る知り合いもほとんどがもう着いている。
 廊下側から3列目、前から2番目、ヒナリの左横が空いていたので着席。

おはようポナン ナテノン。どう、調子は」

「数学は小学校卒業程度ですし、言語もⅠの半分までだから問題ないでしょう。自然科学や地理歴史は知識魔法を使えますし、大丈夫だと思います」

 ヒナリは本来は陽葵ひまりで、元日本人で高校3年だったそうだ。
 だから私としても、割と話しやすい。

「でも共通語の単語って紛らわしいというか、間違えそうな単語が多いよね」

 私の最大の懸念はここだったりする。
 言語の確認試験、いつも微妙にスペルミスして満点が取れないのだ。

「アルファベットが少ないから仕方ありません。それに文法そのものは覚えやすくて楽です」

「まあその通りなんだけれどね」

「ところでこのままだと天気が良さそうですね」

 何を言いたいのかはわかる。

「明後日は無事決行かな」

 もちろんフンテト君を愛でる会、いや女子会のことだ。

「ええ。楽しみです」

 廊下側から足音が聞こえた。
 黒板上の時計を見るとまもなく9時。
 ならこれはナラハ指導員だろう。

「それじゃ」

 座り直して、偵察魔法で教室内の人数を数える。  
 男子が17人で女子が18人。
 最初は男子20人、女子20人で始まった筈だから、5人はいなくなっているという事だ。
 3人は完全矯正で第一施設に送られているけれど、残り2人はどうしたのだろう。

 そういえばニナから1人、割と早い段階で消えていたと聞いた覚えがある。
 掲示板等に載っていないだけで、それなりに処分はやっていたのかもしれない。

 入ってきたのは予想通り、ナラハ指導員。
 偵察魔法を解除して、机上に筆記用具一式とタブレットが出ていることを確認。問題ない。
 
「それでは全員揃っている様ですので、試験の説明を開始します。まず偵察魔法や透視魔法等、他人の解答を見る事が出来る魔法は使用禁止です。ただし知識魔法は使用しても問題ありません……」
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