月が出ない空の下で ~異世界移住準備施設・寮暮らし~

於田縫紀

文字の大きさ
60 / 125
第一部おまけ 女子会

60 昼食にいい場所

しおりを挟む
 昼食を食べる場所は、自然公園本園の、前回私が回っていない高台の西北端部分。
 前回私が通った『谷戸と台地を巡るコース』よりさらに西側まで行った後、崖に付いた階段を上った先にある広場だ。
 ここがいいと提案して案内してくれたのは、カタリナだ。

「こんなところまで回ったんだ」

 南側と西側が開けていて、ポアノンの街がよく見える。
 ベンチとテーブルのほか、四阿のような場所もあり、お皿を出してご飯を食べるのにちょうどいい。
 しかも人が少なく、テーブルのほとんどが空いていた。
 多少賑やかにしても全く問題なさそうだ。

 人が少ないのは、公式のおすすめ散策コースから外れているからだろう。
 でもそれなら、カタリナはどうしてここを知っているのだろうと思ってしまう。

「せっかく来たのですから、ほぼ全部を回ろうと思いました。ですから、できるだけ外周に近い散策路を選んで回った結果、ここを知りました。
 ただし、自然公園の台地中央部分は回りきれなかったので、25日に来た時に、他の見ていない部分と合わせて回り直しました」

 せっかちで、かつ几帳面な性格ということだろうか。
 だから、余計に人とつるむのは苦手なのかもしれない。
 でも、この性格だからこそ、学習をどんどん進めているのだろう。
 それに、他人に自分のペースを強要しなければ、問題は全くない。

「ご飯を食べるのは、どこにしましょうか」

「一番先の、あそこにしませんか。ポアノンの街が一番よく見える場所がいいですから」

「そうですね」

 ニナ、フイン、ヒナリの意見で、西側の一番端のテーブルへ。

「汚れていない気がしますが、一応綺麗にしておきましょう。清掃」

 ニナがまた知らない魔法を使っている。

「便利そうな魔法だね」

「部屋の拭き掃除に使える魔法がないだろうか。そう思って調べたら、見つかりました。使用時に設定しなければならない項目が多いですが、慣れると便利な魔法です」

『清掃魔法は、指定した範囲を掃除する魔法です。掃除する範囲や掃除方法を指定することで発動します。掃除する範囲は平面あるいは平面に近い面である必要があります。また、掃除方法は乾拭き、濡らした雑巾で拭く、箒で掃くなど、術者がイメージ可能な方法で指定可能です。今思い浮かべた『掃除機の使用』も、使用者であるチアキなら可能です』

 なるほど、今度使ってみよう。
 さて、テーブルは毎度おなじみの煉瓦色の石製で、表面がつやつやしている。
 今、ニナが魔法で掃除したので、砂埃一つない状態だ。

 8人でも使える広さで、5人なら余裕がある。
 それまで歩いてきた状態のまま座ったので、こちら側がカタリナと私、反対側がニナ、ヒナリ、フインという形で着席した。

「それでは全員、一気に出してしまいましょうか」

「そうですね。どんなものを持ってきたのか、見てみたいです」

 確かにニナやヒナリの言う通り、一気に出した方が気が楽だ。
 いちいち出して品評するよりはずっと良い。
 ただ、私のは皿がないと出せない。
 なので、一言言っておこう。

「私のは取り皿がないと出せないタイプ。あと、甘い物だから、他のおかずと一緒になると食べにくいかもしれない」

「前にいただいたものですか?」

 前にニナと食べたのは、パンプディングだったなと思い出す。

「今回はプリン。作る器がこれしかなかったから、取り皿の上でないと出しにくい。プリンそのものはこんな感じで。あと、これが別掛け用の甘いカラメル。プリン本体にはもう少し苦めのカラメルがかかっているから、お好みで」

 見本として逆さにしてお皿に入れ直したプリンと、小鉢に入ったカラメルを出しておく。

「これを5人で分けるのですか?」

 確かに売っている値段を考えると、フインの質問ももっともだ。
 でも、もちろん今回は違う。

「これが1人分。ただ、作った後は容器なしで収納しているから、お皿か何かがないと出しにくいだけ」

「実は私も、取り皿がないと出しにくい料理を作って持ってきてしまいました。なので申し訳ありませんが、プリンは後で出してもらってもいいでしょうか」

 フインがそんなことを言った。
 作ってきたとは何だろう。
 ちょっと期待してしまう。

「もちろん。デザートだから後で出せばいいと思うし。それで、何を作ってきたのか、見ていい?」

「もちろんです。これで5人分です」

 夕食でよく使われる大きめの深皿に、骨付きの揚げ肉がどんと5つ乗っている。
 茶色い揚がり具合がいかにも美味しそう。
 肉一つ一つも私の握りこぶし大と大きい。

「これって、作るのも大変だし、お金もかかったんじゃない?」

「ちょうどいいエルアラフの骨付き肉があったので、つい買ってしまいました。10個で100Cカルクフだったので、5個なら50Cカルクフです。ここで手に入る調味料を使ったので、私の地元の味と少し変わってしまいましたが。
 ここの朝食や昼食は少し大人しめなので、小遣いが貯まるようになって以降、材料を買って時々作って食べています」

 フイン、文字通りの意味での肉食系女子だったのか。
 でも、確かにこれは美味しそう。
 サンドイッチよりご飯や麺に合いそうではあるけれど。
 というか、これ、ひょっとして……

「ひょっとして、排肉パイコー? 発音が正しいかは自信ないけれど」

「そうです。私の方ではパイグゥと呼んでいます。おかゆや麺のおかずで食べたりします」

「美味しそうだね」

「ええ。サンドイッチとスープでは、何か物足りない気がします」

 やはり肉食系女子だった様だ。
 一気に昼食がパンチ力に満ちあふれたものになったけれど、これはこれで美味しそうでいい。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

転生魔法伝記〜魔法を極めたいと思いますが、それを邪魔する者は排除しておきます〜

凛 伊緒
ファンタジー
不運な事故により、23歳で亡くなってしまった会社員の八笠 美明。 目覚めると見知らぬ人達が美明を取り囲んでいて… (まさか……転生…?!) 魔法や剣が存在する異世界へと転生してしまっていた美明。 魔法が使える事にわくわくしながらも、王女としての義務もあり── 王女として生まれ変わった美明―リアラ・フィールアが、前世の知識を活かして活躍する『転生ファンタジー』──

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

処理中です...