ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
53 / 322
第18章 再会の季節

第148話 結構大きい登録特典

しおりを挟む
 魔法金属を購入するのは手間取った。
 鍛冶組合そのものはセレスがあっさり探してくれた。しかし簡単には売ってくれなかったのだ。

「魔法金属を買いたいのですけれど」

 セレスがそう告げたところ、最初に受け付けてくれたお姉さんが少し考えるようなそぶりを見せる。
 そして。

「わかりました。少々お待ちください」

 そう言っていきなり奥に引っ込んでしまった。
 かわりに出てきたのは20代後半程度に見える女性。知っている人だとカレンさんと同じくらい。
 だからまあ、私でも一応大丈夫。

 彼女はこちらに軽く頭を下げた後、口を開く。

「申し訳ありません。魔法銀ミスリル魔法銅オリハルコン魔法鉄ヒヒイロカネは国管理物資なので購入者の身元と使用用途の確認が必要となっています。
 申し訳ありませんが身分証になるものを提示して、使用目的を教えて頂けないでしょうか」

 セレスがどうしようという目でこっちを見る。

 以前の私なら此処で撤退するところだ。しかし今は恐怖耐性(3)。更に服も髪型もセレス監修による武装済み。
 だからこれくらいでは引き下がらない。

「目的はゴーレムの新造。身分証はこれ」

 冒険者証を提示する。

「拝見させていただきます……すみません。冒険者の方ですね。申し訳ありませんが代理購入の際にはゴーレムを作られる方の委任状が必要になっております」

 うん、まだ耐えられる。これが厳ついおっさんだったらアウトだったかもしれないけれど。
 だから次の抵抗だ。

「代理ではない。作るのは私自身」

「それでしたらゴーレム製造者登録、もしくはご自身がゴーレムを作られるという何か証明になるものの提示をお願いしていいでしょうか」

 製造者登録なんてものがあるのか。知らなかった。知らないから当然そんな登録なんてしていない。
 どうしよう。そう思った時、ふと思いついた。

「私が作ったゴーレムそのものでもいい?」

「ええ。それでも問題ありません」

 バーボン君はリディナのところ。しかしシェリーちゃんはアイテムボックスに入っている。

 シェリーちゃんを出し、起動する。

「私が自作したゴーレムです」

 シェリーちゃんにこう言わせて頭を下げさせた。

「ええ。少し確認させていただきますが宜しいでしょうか」

「では起動解除する」

 シェリーちゃんは完全に私の自作だ。だから調べられても問題ない。

 受付のお姉さんから何かしらの魔力が動いている。どうやら私の知らない魔法で調べている模様。

 およそ30数えるくらいでお姉さんからの魔力が止まった。そして彼女は私の方を見る。

「失礼いたしました。確かにフミノさんの独自製作によるゴーレムである事が確認できました」

「すみません。その独自製作の確認とはどうやったのでしょうか」

 この質問はセレスだ。

「確認事項は2点です。起動源に残る魔力の形と、ゴーレム各部の構造です。

 起動源の魔力はフミノさんの魔力の形と一致しました。故にこのゴーレムを素体からゴーレムにしたのはフミノさんに間違いありません。

 素体の構造もほぼ独自仕様と思われます。特に関節部分は今までに見た事がない構造です。
 魔力受容体及び魔力配線の形式はラモッティ伯爵家工房の鉱山採掘用022型に類似しています。これは同型の整備経験があるのか、もしくは参考にしたのでしょう。
 全体としては今までに確認のない新形式のゴーレムであると判断出来ます。

 以上からこのゴーレムはフミノさんの完全独自製作によるものと判断いたしました」

 なるほど。受け付けを交代した意味と理由を理解した。
 このお姉さんはプロだ。魔力の形を視る事が出来て、かつ最低でも監視魔法を使えるだけではない。おそらく主要なゴーレムの構造も全て頭の中に入れている。

 鉱山採掘用何とかというのはバーボン君の事だろう。確かにその辺の構造は参考にした。
 一方で関節部分は確かに私独自だ。ローラーベアリングだの玉軸受けだの独自機構を結構使っている。
 その辺を見事に見破られてしまった訳だ。

「ところでこれだけのゴーレムを独自製作できるのなら、製造者登録をされたらいかがでしょうか。製作技術は証明していただけましたし、今此処で登録する事が可能ですけれど」

「登録するとどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか」

 これもセレスが聞いてくれた。うん、もうここからはセレスに任せてしまおう。私は疲れた。

「登録はゴーレム製造と販売を業務として行う際に必要となります。年間売上が正金貨10枚500万円を超える場合、及び商業ギルドでゴーレム販売を取次ぎする際には登録証が必要です。
 
 また登録証を提示すると国指定の鍛冶組合及び取引所で購入代金が割引されます。金属類は概ね2割引きで購入が可能です。

 更に魔法金属が購入できない地方であっても、登録証があれば商業ギルド経由で取り寄せる事が可能です。取り寄せの金額が若干かかりますが、魔法金属そのものが非常に高価ですので問題はあまりないでしょう。

 更に登録と同時に商業ギルドの正会員としても登録されます。ゴーレム以外でも商売等を行う際、かなり便利になりますよ」

 おお、つまり何処に行っても注文して待てば魔法金属を購入できる訳か。2割引きというのも魅力だな。

「それで費用や義務等はあるのでしょうか」

 セレス、ちゃんとデメリットも聞いてくれた。特典に釣られそうになっている私よりよっぽどしっかりしている。

「費用は初回登録時に小金貨1枚10万円程かかります。年会費等はありません。登録すれば一生有効です。
 登録費は一見高く感じますが、魔法金属は高価なので概ね初回購入時の割引だけで元がとれます。

 ただし最低で年1回、居所を報告する義務があります。これは商業ギルドに出頭していただけばすぐに行います。
 なお商業ギルドに対しての費用は一切かかりません。正会員であってもです。

 もともとゴーレム製造者登録制度は、ゴーレム製作という貴重な魔法と技術を持つ者を国や商業ギルドが把握する為にはじめた制度です。ですから登録して貰う為にメリットが多くなっております」

 なるほど。理屈は理解できる。ただ私達は定住せず旅を続けている。この場合はどうなのだろうか。

「私達は拠点を定めないタイプの冒険者なのですが、それでも宜しいのでしょうか」

 私が注意するまでもなくセレスが聞いてくれた。
 お姉さんはあっさり頷く。

「ええ、問題ありません。定住する義務はありませんから。義務はあくまで年1回の居所報告だけです。ですがその場合は3ヶ月に1度程度でいいので、商業ギルドに出頭して頂けると助かります」

 それくらいなら出来るだろう。

「登録した事で名前が知られ、ゴーレムを製作する為に依頼という名目で半ば強制的に拘束されたりする事はないでしょうか」

 おっと、そういう懸念もあるのか。
 セレス、良く気づいたな。

「ご存じのようにゴーレム製造の最大手はラモッティ伯爵家です。ですので伯爵家が自らも守るために法整備に尽力しています。結果、『戦争等、国家の非常事態において、国王が必要と認めた時』以外の場合は、貴族であろうとゴーレムを製造するよう命令したり、強制措置をとったり出来ません。ですので問題は無いかと思われます」

 なるほど。なら大丈夫だろう。

「それでは参考までに魔法金属の値段と、どれくらい安くなるかを教えて頂けますでしょうか」

 そういえばそこが肝心だった。流石セレス。私は頭が回らなかった。

「正規の金額は魔法銀ミスリル100軽600g正金貨5枚250万円魔法銅オリハルコンは同じく100軽600g正金貨1枚50万円魔法鉄ヒヒイロカネは同じく100軽600g正金貨10枚500万円となります。
 なお登録された場合はここから2割引きとなります」

 魔法金属、無茶苦茶高価だ。しかし買える金額ではある。そしてこの金額だと2割引きはかなり大きい。

 どうしよう。セレスが私の方を見る。うん、ここは登録してしまおう。2割引きと取り寄せ可能というのがメリットとして大きい。
 だから私はセレスに頷く。

「わかりました。それでは登録をお願いします」

「ありがとうございます。それではこの登録用紙に記載をお願いいたします」

 あとの手続きは冒険者ギルドと大差ない。

 登録と引き換えに魔法銀ミスリル100軽600g魔法銅オリハルコン300軽1,800g、更に鉄や黄銅、銅も割引価格で購入。

 この量ならライ君の新造+バーボン君の強化が可能だろう。
 足取りももうウッキウキだ。

「かなり安くなりましたけれど、魔法金属って高いんですね」

「でも他の金属も2割引きで買えた、これは結構大きい」

 なんてセレスと話しながら組合事務所を後にした。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。