ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
52 / 322
第18章 再会の季節

第147話 再会(1)

しおりを挟む
 知らない人相手には振り向くのも怖い。だから偵察魔法で確認する。

 私達と同じくらいの女の子だ。1人ではなくおそらく3人組。リディというのはリディナの愛称だろうか。
 うち1人が急速接近する。怖い。魔物なら土を出して壁にするが相手は人。だからとっさにすっと離れてしまう。

 その急接近した1人、小柄な少女がリディナに抱き着いた。

「ああやっぱりリディだリディ。この感触と匂いは間違いなくリディ。でも少し大きくなったかな胸が」

 何なんだこの事態は。私だけでなくセレスも目が点になっている。
 更にもう1人はうるうる目。
 
「リディ、いつラツィオに帰って来たの!」

 こっちはこっちでリディナに泣きついてきた。
 なお最初に抱き着いた方はそのまま。

「リディだリディだ!」

「もう心配していたんだから!」

 リディナは困ったような申し訳なさそうな表情。

 何となく状況は掴めた。おそらくこの3人はリディナの中等学校時代の友人なのだろう。

 しかしこの状態では事態が進展しない。誰かが整理なりなんなりしてくれないと。

 しかし私達3人の中で本来はその役割をするリディナは御覧の通りの状態。私は勿論そんなの無理で、セレスも訳がわからない状態。

 自然と私とセレスの視線は残ったもう1人を向いてしまう。
 彼女もリディナと同じような困ったような申し訳なさそうな表情のまま口を開いた。

「申し訳ありません。私達3人はリディナさんの中等学校での友人です。久しぶりなものでして、つい取り乱してしまったようです。
 イーリア、サアラ、落ち着いてくださいな。公道ですよここは」

「だってリディが」

「落ち着け!」

 声そのものはそれほど大きくない。しかし何か異様な迫力がある。さっきの台詞と同一人物と思えない。
 ぴたっと2人の動きと台詞が止まった。私まで一瞬だが固化。一言だけで恐怖耐性(3)オーバー寸前だ。

「あ、すみませんでした。私とした事がはしたない」

「怖いよねミリィは」

 最初に抱き着いていた女の子の台詞にぎらりと目を光らせる3人目の女の子。

「誰のせいだ」

 今度は少し迫力を抑えてくれたようだ。何とか耐えられた。少し震えてしまったけれど。
 どうやら最初に抱きついた小柄な女の子がイーリア、泣きついた子がサアラ、一見大人しそうで異様な迫力も出せる子がミリィのようだ。勿論ちゃんとした名前では無く愛称だろうけれど。

 リディナが苦笑を浮かべる。

「変わらないね、3人とも」

「学校はかなり変わりました。今は休校状態です。貴族の皆さんは大変動があったようで皆さん国元なり屋敷なりに戻っていらっしゃいます。
 寮に残っているのはそれ以外、平民の皆さんだけですわ」

 ミリィさんがそう説明する。何故学校が変わったのだろう。そう思ってすぐ気づく。そう言えば学校はエールダリア教会の管轄だった。

「皆さんには大変申し訳ありませんが、少しお時間いいでしょうか。久しぶりですので少しリディナさんとお話をしたいのです。この1年で少なからず積もる話もありますので」

 私は思わず頷いてしまう。この子ミリィさんは怖い。嫌な怖さではない気もするが怖いものは怖い。敵に回してはいけない。そう感覚が告げている。
 
 リディナが苦笑したまま続ける。

「ごめんフミノ、セレス。この先の公園でちょっと話をしたいんだけれどいい?」

「学校に帰ってくるんじゃないの?」

「おまいは少し黙れ」

 イーリアさんに飛ぶミリィさんの台詞。大丈夫。今のも耐えられた。

 ◇◇◇

 彼女達も同じ店でテイクアウトを買って、そして少し歩く。
 川沿いに程よく緑と散歩道を配した公園があった。

 ベンチではなく段になっている石組みに並んで腰かける。広いので間隔をとれるし背後は木々で人が通らないので私でも問題ない。

 今は買って来たピタパンのサンドイッチを食べながらリディナと3人がおしゃべり中。
 私とセレスは黙ってそれを端から聞いている形だ。

「それで学校の方はどう? 休校状態って聞いたけれど」

「もう酷いものよ。エールダリア教会の一件で教員もごそっといなくなって、教材として使われていた教会の本も不適切だってんで回収してそのままだし。
 一応研究所や役所から新しい教員候補は来たようなんだけれどね。今は教育内容や教材について検討中だって」

「剣技と護身術の授業だけは騎士団受け持ちでやっています。それが週に2回、2時間ずつ。あとは自習という名目の自由時間ですね」

「貴族の皆さんが大変そうかな。いい気味だという奴も多いけれど。教会の政治力でやっていたようなのは勿論、遥か昔の功績だけでやっていたようなのは軒並み減封や降爵みたい。侯爵級も含めて領地再配置が来年まで続きそうだって」

「教会が消えて国王派一強になりましたからね。この機会に大掃除をなさるつもりなのでしょう」

「うちの実家とか商人連中は概ね歓迎方向だけれどね。エルダリの連中は邪魔しかしなかったけれど、これで少しはまともになるだろうって」

 ミリィさんとサアラさんが交互に説明する。エールダリア教会の悪影響、予想以上に酷かったようだ。

「そう言えばリディ、今は冒険者だって言っていたよね。剣も得意だったしやっぱり剣士系?」

 サアラさんのそんな台詞が耳に入った。おっとリディナは剣も使えたのか。ここまで旅をしていたのに今まで知らなかった。

「剣は使っていないよ。重いし高いから。今は魔法使い。攻撃魔法は風属性しか使えないけれどね」

「ええっ!」

 イーリアさんの突然の大声に私、また固まる。いや悪い子では無いとは思うのだけれどこういうのは苦手だ。

「そう驚かない。誰でも魔法が使えるってのは知っているよね」

「そりゃ知っているよ。それがエールダリア教会を追い出した元だもん。でも一般に向けた魔法教育なんて何処でもやってないよ、まだ」

「あの件以前でも私達は魔法の授業受けられなかったしね。魔力が無いという事で」

「国の方も冒険者ギルドに情報の開示や講師派遣等をお願いしているようなのです。ですけれどギルドの方も人手が足りず、また体制も追いついていないようでして。中等学校で全員に対する魔法教育が行われるのはまだまだ先になりそうな情勢です」

 なるほど。国立の中等学校でそれなら一般への魔法教育なんてのもまだまだ先か。

 開拓団の村に大事典の翻訳を置いてきて正解だった。あのままではかなり後にならないとあの村まで魔法教育が届かないだろう。

 そう思った時だった。

「ねえリディ。良ければでいいけれど、どうすれば魔法を使えるか教えてくれない? 勿論駄目ならいいけれど。最小限でも教えて貰えたらあとは図書館で調べるなりなんなりするから」

 おっとサアラさん、そう来たか。
 リディナの友達なら教えてもいいだろう。そう判断したので大事典の翻訳を出してリディナに渡す。

「使うなら」

「いいの、フミノ」

「リディナの友達なら」

「ねえ何、それ?」

 さあ、後はリディナに任せよう。
 ただ魔法を教えるとなると少し時間がかかるかな。なら最低限の買い出しくらいやっておくか。

 リディナがいなくてもセレスがいれば買い物は問題ないだろう。セレスなら街の人に自然に場所を尋ねるなんて事も出来るし。

 この場所だけ忘れないようにしよう。そう思って、そしてついでにおまけを思いつく。
 どうせ勉強するなら紙に書いたりメモしたりなんて事も出来た方がいいよなと。

 それにまだ雨期だ。今は大丈夫だが雨が降りだす可能性もある。
 なら屋根付きの場所を提供した方がいいだろう。公園の横に公共の馬車止めスペースがある。此処を活用しよう。

「馬車止めにゴーレム車とバーボン君、紙とペンも出しておく。翻訳が濡れると悲しいから使って」

「いいの、フミノ」

「問題ない。こっちはセレスと買い物をしてくる。いい、セレス?」

「勿論です」

「ありがとう」

 さて、それでは魔法金属の買い出しをしよう。
 入手した量によってバーボン君を強化するか、それとも新たにライ君を作るかを考える事にする。  
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。