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第9章 狩って吊して皮剥いで ~冬休み合宿編・上~
第77話 猪魔獣下処理中
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坂の下まで5往復はかなり大変だし疲れた。その上最後に残した猪魔獣、冗談みたいに大きかった。
鑑定魔法で確認したらなんと100重超。荷車のエアタイヤが過負荷気味で、実際3回ほどパンクしてシモンさんの魔法のお世話になった位。そのたびに荷車が坂で転がらないよう全員で必死に押さえつけた。
そして猪魔獣を始末した後改めて山の方を見ると……
「これはまずいかもな。お父様に怒られるかもしれない」
山の斜面に明らかな違和感があった。斜面がえぐれており、下に割れた岩と折れた木が転がっている。あの試作品の一発でやってしまったようだ。
「仕方ないですわ。もしこの件について何か言ってきたら正直に事実を話すまでです。以前の魔法杖の実績もありますので何とかなると思いますわ」
「でもこの状態だと魔石使用の新機構、なかなか実用にはならないですね」
「このままでも軍なら実用になりますわ。魔力の無い兵でもこれだけの威力を扱えるという事ですから」
まあ確かにそうかもしれない。超強力な風魔法発射機としてなら一応使えるだろう。1回毎に魔石1個を消費してしまうけれど。
さて、何とか5体とも船着き場に運んで、内臓を取る。既に5体目を運んできたときには4体目までの内臓は処理済みだった。
そして見物人が結構いたりする。人一倍小さいフールイ先輩が巨大猪魔獣を捌いているのだ。確かに見物になるよな。
「シンハ君、その4体は水漬け」
「わかった」
確かにフールイ先輩ではこれらの巨体を動かすのは無理。身体強化モードのシンハ君でも1人では力が足りず、同じく身体強化モードのヨーコ先輩が手伝う事になる。
何とか4体を水中へと沈め、足を縛った縄を船着き場のボラードに縛り付けた頃には、最後の巨大猪魔獣の内臓抜きも終わっていた。
その頃になると回りの野次馬には暇な船頭だけでなく砦の兵士まで混ざっている。そのうち1人、いかにも偉そうだと雰囲気で感じる壮年の男がヨーコ先輩に声をかけた。
「あの、ヨーコ様。この猪魔獣はひょっとしてさっきの地響きで……」
ヨーコ先輩は苦い顔をしつつ答える。
「カミヤ・ギー殿か。済まない。先程はこちらの試作魔道具が失敗して、山の一部を傷つけてしまった」
ヨーコ先輩の知り合いのようだ。まあここは領地内で来た事があるなら知っている者がいてもおかしくない。おそらくはこの砦の責任者か何かだろう。
「いえ、それはいいのです。それよりこの巨大な猪魔獣、やはりヨーコ様ご一行が倒されたのですか」
「ああ。5頭出てきた時はどうなるかと思った」
「それで皆様にお怪我等はありませんでしたか」
「ああ。これでも私と同等以上の強者揃いだからな」
そんな事は無い、と言えないのが怖い。
ヨーコ先輩は剣の天才で攻撃魔法の風魔法持ち。しかし魔法の威力ならアキナ先輩やフールイ先輩も同等以上。そしてミド・リーは生物系魔法をほぼ極めきっている。
シンハ君も学年で1~2位を争う剣の腕を持ち、更に槍、投槍、弓も同等に使う。シモンさんは限りなくチートな工作系魔法使いで弓も使えるし魔物処理も出来る。
強いて言えば俺とナカさんが戦闘向きでないけれど、ナカさんはあれで清拭魔法とか計算魔法とか便利魔法を色々持っているからなあ。
「そうですか。実はこの村に魔物討伐が来なくなった理由のひとつが、その大猪魔獣なのです。今まで討伐隊にかなりの被害を出しています。昨年も討伐に当たった兵3名が軽傷、1名が重傷を負いました。突進で跳ね飛ばされたり土魔法で土砂崩れに遭ったり。無事退治されて助かりました」
「そんな大物だったのか」
「ヨーコ様方はどうやって退治されたのでしょうか。常に魔力を展開しているので、普通の攻撃魔法ではなかなか倒せないと討伐隊の方で意見が出ていたのですが」
全員の視線がアキナ先輩に注がれる。
「きっと魔獣も調子が悪いときがあったのでしょう」
『あの魔法杖のおかげですわね』
声と伝達魔法が同時に聞こえる。おそらく伝達魔法の方は俺達にだけ聞かせているのだろう。
口ではそんなしらばっくれた台詞を吐いている。あの魔法杖は部外秘だから仕方ない。
「そうですか。いずれにせよ本当にありがとうございました。この件についてはカミフ様にもお伝えしてお礼を申し上げさせていただきます」
「いや、それは結構だ。我々は単に魔物討伐に来て当然の事をしたまでだ」
「かしこまりました。それでは大変失礼致しました」
カミヤ・ギー殿と呼ばれた壮年の男は丁寧に頭を下げ、砦の中へ戻っていった。
『カミヤは父の部下でヌクシナ町の代官だ。でもまさか本人が出てくるとは思わなかった』
『でも今は特に問題は無いと思いますわ』
『だと思うけれどな。折角合宿旅行に来ているのにこっちの知り合いに会うとどうも気分がな』
「内部を洗い終わった。水漬けお願いする」
フールイ先輩の台詞で伝達魔法でのやりとりは終わる。
「さて、これは皆でやるか。重すぎて私とシンハ君だけではちょっと不安だしな」
「私は内臓を使えるよう処理する」
「なら残り全員でロープを持つ事にしよう」
そんな訳で内臓を血抜きしたり腸をひっくり返して洗ったりしているフールイ先輩以外の7人でロープを持ち、そろそろと巨大猪魔獣を水中へと沈める。入れる瞬間が一番重かったが、水中に入れてしまえば浮力もあって少し楽だ。
足を縛り付けているロープの反対側をしっかりボラードに固定した。これで猪魔獣本体についての作業は完了、残りは明日となる。
「ミタキ君、豚の内臓の料理は出来る?」
フールイ先輩に尋ねられた。
「一応。ここまでやってあれば、あとは小麦粉で洗って、焼くなり和えるなり煮物にするなり色々出来るかな」
「なら小さいのを1匹分取っておく。あとは売る。魔石は全部取ってある」
「このデロデロしたの、食べられるのか?」
シンハ君は半信半疑という感じだ。
「焼き肉では普通に肉より美味しいという人もいる位だ。胃袋は茹でて刺身にすると美味しいし、部位によっては煮込んでもいい。食感が普通の肉と違って色々楽しいぞ」
そう言っている俺もそれほど食べた経験があるわけではない。前世は何せ病院食がメイン。他のものを食べられるのはごく希に家に帰れた時くらいだ。
だからこそこういった変わった料理には執着があったりする。
「持って帰って冷蔵庫に入れたら、野菜や果物を買って夕食の仕込みをしよう。メインは焼き肉だけれど他にも色々食べ方がある」
「期待していいのかな」
「勿論!」
思わずそう断言してしまった。
鑑定魔法で確認したらなんと100重超。荷車のエアタイヤが過負荷気味で、実際3回ほどパンクしてシモンさんの魔法のお世話になった位。そのたびに荷車が坂で転がらないよう全員で必死に押さえつけた。
そして猪魔獣を始末した後改めて山の方を見ると……
「これはまずいかもな。お父様に怒られるかもしれない」
山の斜面に明らかな違和感があった。斜面がえぐれており、下に割れた岩と折れた木が転がっている。あの試作品の一発でやってしまったようだ。
「仕方ないですわ。もしこの件について何か言ってきたら正直に事実を話すまでです。以前の魔法杖の実績もありますので何とかなると思いますわ」
「でもこの状態だと魔石使用の新機構、なかなか実用にはならないですね」
「このままでも軍なら実用になりますわ。魔力の無い兵でもこれだけの威力を扱えるという事ですから」
まあ確かにそうかもしれない。超強力な風魔法発射機としてなら一応使えるだろう。1回毎に魔石1個を消費してしまうけれど。
さて、何とか5体とも船着き場に運んで、内臓を取る。既に5体目を運んできたときには4体目までの内臓は処理済みだった。
そして見物人が結構いたりする。人一倍小さいフールイ先輩が巨大猪魔獣を捌いているのだ。確かに見物になるよな。
「シンハ君、その4体は水漬け」
「わかった」
確かにフールイ先輩ではこれらの巨体を動かすのは無理。身体強化モードのシンハ君でも1人では力が足りず、同じく身体強化モードのヨーコ先輩が手伝う事になる。
何とか4体を水中へと沈め、足を縛った縄を船着き場のボラードに縛り付けた頃には、最後の巨大猪魔獣の内臓抜きも終わっていた。
その頃になると回りの野次馬には暇な船頭だけでなく砦の兵士まで混ざっている。そのうち1人、いかにも偉そうだと雰囲気で感じる壮年の男がヨーコ先輩に声をかけた。
「あの、ヨーコ様。この猪魔獣はひょっとしてさっきの地響きで……」
ヨーコ先輩は苦い顔をしつつ答える。
「カミヤ・ギー殿か。済まない。先程はこちらの試作魔道具が失敗して、山の一部を傷つけてしまった」
ヨーコ先輩の知り合いのようだ。まあここは領地内で来た事があるなら知っている者がいてもおかしくない。おそらくはこの砦の責任者か何かだろう。
「いえ、それはいいのです。それよりこの巨大な猪魔獣、やはりヨーコ様ご一行が倒されたのですか」
「ああ。5頭出てきた時はどうなるかと思った」
「それで皆様にお怪我等はありませんでしたか」
「ああ。これでも私と同等以上の強者揃いだからな」
そんな事は無い、と言えないのが怖い。
ヨーコ先輩は剣の天才で攻撃魔法の風魔法持ち。しかし魔法の威力ならアキナ先輩やフールイ先輩も同等以上。そしてミド・リーは生物系魔法をほぼ極めきっている。
シンハ君も学年で1~2位を争う剣の腕を持ち、更に槍、投槍、弓も同等に使う。シモンさんは限りなくチートな工作系魔法使いで弓も使えるし魔物処理も出来る。
強いて言えば俺とナカさんが戦闘向きでないけれど、ナカさんはあれで清拭魔法とか計算魔法とか便利魔法を色々持っているからなあ。
「そうですか。実はこの村に魔物討伐が来なくなった理由のひとつが、その大猪魔獣なのです。今まで討伐隊にかなりの被害を出しています。昨年も討伐に当たった兵3名が軽傷、1名が重傷を負いました。突進で跳ね飛ばされたり土魔法で土砂崩れに遭ったり。無事退治されて助かりました」
「そんな大物だったのか」
「ヨーコ様方はどうやって退治されたのでしょうか。常に魔力を展開しているので、普通の攻撃魔法ではなかなか倒せないと討伐隊の方で意見が出ていたのですが」
全員の視線がアキナ先輩に注がれる。
「きっと魔獣も調子が悪いときがあったのでしょう」
『あの魔法杖のおかげですわね』
声と伝達魔法が同時に聞こえる。おそらく伝達魔法の方は俺達にだけ聞かせているのだろう。
口ではそんなしらばっくれた台詞を吐いている。あの魔法杖は部外秘だから仕方ない。
「そうですか。いずれにせよ本当にありがとうございました。この件についてはカミフ様にもお伝えしてお礼を申し上げさせていただきます」
「いや、それは結構だ。我々は単に魔物討伐に来て当然の事をしたまでだ」
「かしこまりました。それでは大変失礼致しました」
カミヤ・ギー殿と呼ばれた壮年の男は丁寧に頭を下げ、砦の中へ戻っていった。
『カミヤは父の部下でヌクシナ町の代官だ。でもまさか本人が出てくるとは思わなかった』
『でも今は特に問題は無いと思いますわ』
『だと思うけれどな。折角合宿旅行に来ているのにこっちの知り合いに会うとどうも気分がな』
「内部を洗い終わった。水漬けお願いする」
フールイ先輩の台詞で伝達魔法でのやりとりは終わる。
「さて、これは皆でやるか。重すぎて私とシンハ君だけではちょっと不安だしな」
「私は内臓を使えるよう処理する」
「なら残り全員でロープを持つ事にしよう」
そんな訳で内臓を血抜きしたり腸をひっくり返して洗ったりしているフールイ先輩以外の7人でロープを持ち、そろそろと巨大猪魔獣を水中へと沈める。入れる瞬間が一番重かったが、水中に入れてしまえば浮力もあって少し楽だ。
足を縛り付けているロープの反対側をしっかりボラードに固定した。これで猪魔獣本体についての作業は完了、残りは明日となる。
「ミタキ君、豚の内臓の料理は出来る?」
フールイ先輩に尋ねられた。
「一応。ここまでやってあれば、あとは小麦粉で洗って、焼くなり和えるなり煮物にするなり色々出来るかな」
「なら小さいのを1匹分取っておく。あとは売る。魔石は全部取ってある」
「このデロデロしたの、食べられるのか?」
シンハ君は半信半疑という感じだ。
「焼き肉では普通に肉より美味しいという人もいる位だ。胃袋は茹でて刺身にすると美味しいし、部位によっては煮込んでもいい。食感が普通の肉と違って色々楽しいぞ」
そう言っている俺もそれほど食べた経験があるわけではない。前世は何せ病院食がメイン。他のものを食べられるのはごく希に家に帰れた時くらいだ。
だからこそこういった変わった料理には執着があったりする。
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