病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

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第12章 春合宿は南へと

第98話 伯爵昇爵内内定

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「さて、さっきはあまり明るくない話題だったから、今度はもっと明るい話をしようじゃないか」

 何だろう。俺はホン・ド殿下の話の続きに耳を傾ける。

「後ろにいるシンハ君の家、クシマ・カーケ子爵が来年には伯爵に昇爵される話、もう耳に入っているかい」

 えっ、何だって!

「本当なの、シンハ?」

「俺も知らないぞ」

 シンハ君も初耳だったらしい。

「カーケ子爵ニシハ・クシーマ卿には内々に伝えている筈だけれどね。開墾を推進した結果耕作面積も増えたし、新産業で収入も大分増えたからさ。このまま行くと今年の終わりまでには全ての面で伯爵領の基準を満たすだろうという話だ。妥当な話だと思うよ」

 そうなのか。まずはめでたい。
 それにしても早すぎる気がしないでもない。水飴の件は夏以降だ。それから今まで半年も経っていない。化粧品工場でもそこまでの収入があるとは思えないのだ。

「元々火山噴火で駄目になった耕地の分、少しずつ他の場所の開拓を進めていたようだけれどね。新しい土地は低地で塩害もあって飼料用の大麦が中心だったらしい。それが付加価値を生む産物に化けた事で一気に財政状況が変化したそうだ。
 クシーマ卿は前線指揮官としては最強の人材だったがこんな才能があるとは思わなかった、そう母も言っていたよ」

 勿論殿下この人は水飴の件も、それが俺達から出た技術である事も知っているのだろう。
 でもそうか。開拓促進という地道かつ継続的な努力が水飴のおかげで一気に実った訳か。なにはともあれ、めでたい。

「アージナではシンハのおごりで一席やらないとな」

「やめてくれ。俺の小遣い額は変わっていないんだ」

「でもいい事だよね」

「そうそう」

 皆さん歓迎ムード。

「でも子爵と伯爵って、申し訳ないけれど何が違うんだろう」

「この国の場合は主に人口ですわ。大雑把に言うと領地があるのが男爵以上、領地の人口3千人以上が子爵、人口5万人以上が伯爵です。
 辺境伯は領地が他国と接していて、国土防衛の為軍の一時的指揮権を持っている貴族。侯爵は領土内に鉱山や重要産業のある重要拠点等があり、拠点防衛の為に軍の一時的指揮権を持ち、選王会議の出席及び投票権を持つ貴族。公爵は王族から枝分かれした家系で指定都市を治める貴族ですわ」

 さらっとアキナ先輩が説明してくれた。

「概ねそんなところだね。まあ例外もいくつかあるけれど大体は人口だ。
 元々カーケ子爵は約20年前のミセン山噴火までは伯爵だった。ウージナに近い事を活かした野菜の栽培と漁業、漁業加工品で豊かな領地だったんだ。
 ただ噴火で全てが変わった。中心だった街がまるごと無くなり畑も半分以上が耕作不能となった。
 あの時のクシーマ卿の災害対策指揮は伝説級に壮絶で見事だったと言われている。僕はまだ子供だったので実際は知らないのだけれどね。クシーマ卿の対策のおかげで一次被害が圧倒的に少なかったとも、二次被害も考えられる最小に抑えられたとも言われているんだ。ただ代償として豊かだったはずの伯爵家の財政はとんでもない事になった。農地もかなりの部分が駄目になって領民が減って、その結果、子爵に降爵してしまったのだけれどね。
 私より年長で今でも国政の第一線にいる皆様は、その時のクシーマ卿の壮絶なまでの指揮ぶりを見ている。だから昇爵の件も反対なしで決まるだろうという話だ」

 そんな事があったのか。
 俺が知っているクシーマ卿、つまりシンハの親父は穏やかな人だ。シンハの父だから当然頑丈だし体力も強烈な筈だがそういった処を一切見せない。
 割と大雑把で女性と文官系偉い人が苦手。あと若干人見知りすると本人が言っていた。

 貴族だけれど俺のような平民でも全く気にせず偉ぶったところが全くない。壮絶という単語からはほど遠いように見える。
 ただ確かにシンハ君の家には豊かさの残響のようなものが残っていた。家は広いし作りもなかなか豪華だ。使っていない部分は結構荒れているし、壊れていたりもするけれど。

「僕の家も元はジャアナにあったと聞いています。噴火で街ごと無くなったけれど、それでも何とかなったのはクシーマ卿のおかげだ。母はそう言っていましたね」

 これはシモンさんだ。ジャアナというのが噴火でなくなった街なのだろう。シモンさんとシンハ君が知り合いだったのもその辺のいきさつがあったのかもしれない。

「でもつまり、俺は生まれてから貧乏な面しか見ていなかった訳か」

 シンハ君の台詞に殿下は苦笑する。

「年齢的にはそうだろうな。でもまあそれも過去の事になりそうだね」

「でも小遣いの額は相変わらずほぼ0査定ですよ」

 これはどうも事実らしい。

「今はその分別に儲けているでしょ」

 ここでミド・リーから突っ込みが入った。

「まあそうだけれどさ」

 シンハ君自身もそれは認める。蚊取り線香の一部や魔法アンテナの分け前等、普通の中等部生の小遣いとは比べものにならない額が入っているのは間違いないのだ。
 その割には相変わらず昼飯も貧乏食だけれどな。生まれ育った金銭感覚はそうそう変わらないのだろう。
 この辺については俺も人の事を言えないけれど。
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