病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

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第15章 新学期を迎えて

第120話 新人会員への関門

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 風魔法用の装置はその日のうちに完成した。元々電気魔法用である程度の見当がついていたからわりと簡単。コイルの容量もコンデンサの容量も電気魔法用とそこまで違わなかったし。
 まあチートなシモンさんの工作魔法があってのことだけれど。

 あとは明日以降、計算で治療魔法用、熱魔法用、工作魔法用等の容量を求めて再び試作。これらを回路に組み込み、最後に全ての出力に適したアンテナを作れば完成だ。つまりまだまだ道は遠い。


 そもそもこれら全部に対応できるようなアンテナなんて俺は憶えていないし。ログペリあたりならいいのだろうけれど、アレの長さを計算する方法なんて俺は憶えていない。結構面倒な数式だったような気もするし。
 でもまあ今の段階ではまず、一通りの魔法のコイルとコンデンサ容量を調べる事を優先しよう。

 鏡関係の片付けが終わった所で撤収。また明日という訳だ。
 取りあえず例の電撃専用魔法杖の事は外では話題にしないでおく。アキナ先輩があれだけ反応するのは珍しい。つまりそれだけ危険なものという訳だ。俺達には今ひとつ実感は無いのだけれど。

 さて、いつも通り3人で帰る途中。

「そう言えば1年でうちの研究会のことを調べている奴がいるらしいんだ」

 シンハ君が意外な話題を口にした。

「何だそれ」

「ヨーコ先輩に聞いたんだが学園事務局から通知があったそうだ。昨年学園祭で最優秀賞をとったグループ研究実践についての情報開示請求が来ているとさ。

 なお請求事由は『課外サークル選択の参考のため』だと」そろそろ課外サークル活動を決める時期だものなと俺は思う。

「ヨーコ先輩が気になってまわりに聞いてみたところ、剣術研究会にもそれらしい奴が来たらしい。ヨーコ先輩や俺が放課後に何処にいるかとか、色々聞かれたと言っていた。そう言えばちょい前に俺について色々聞かれたと言っている奴がいてさ、この件かと俺も気づいた訳だ」

「つまりヨーコ先輩とシンハが会員だという事を知っている訳か」

「情報開示には全員の名前は出ていないが、学園祭の表彰式に出た人の名前は記載があったらしいんだ。つまり俺とヨーコ先輩は存在がバレているらしい」

 なるほど。

「調べているのが誰かはわからないのか」

「1年生としか開示してくれなかったそうだ。ただどうも複数らしい。俺の事を聞いたのは女子だったと言っていたし、ヨーコ先輩について聞いたのは男子だったらしいんだ」

 最低2人か、それとも変身魔法持ちか。

「去年の学園祭の件があるしね。学校の公認課外活動一覧に出ていなくても、うちに来たいという新入生がいておかしくないよね」

「でもどうする。公に受け付ける訳にはいかないだろ」

 俺は頷く。何せうちの活動、機密事項が多すぎる。

「一応自分の実力でうちの研究会までたどり着けたら。そう先輩達は言っていたけれどさ。それって研究室の前で待っているとかそんな感じなのか? まさか壁抜け魔法とかで研究室内に入り込めばOKって訳じゃないだろ」

「そうね。実際は活動拠点の研究室前までたどり着いて私達に声をかけたら、でいいと思うわ。勿論その後国王庁の審査があるけれど」

 それが妥当かなと俺も思う。

 そもそもあの場所、研究院の研究棟には関係者以外は入ることが出来ない。
 関係者以外が入るには、
  ① 学校側に理由を記載した通行許可証を申請する。
  ② 学校側は理由を妥当であると判断した場合、許可証を発行する。
  ③ 許可証を受け取ってゲートを通過する。
という手順が必要だ。

 なお研究院の研究棟は移動魔法防御の魔法陣が展開されている。だから移動魔法で侵入する事は出来ない。管理魔法も常時複数が展開されているので、窓や通風口等から侵入することも不可能だ。

 ただ勿論全く不可能かと言えばそんな事は無い。例えば実験支援施設の使用という理由で許可を取る方法がある。
 研究院には学校内共通利用の実験支援施設がある。第3研究棟102号室、つまりこの部屋の隣だ。そこを使う事に説得力がある生徒なら、指導教官の名前で許可を出して貰えるだろう。例えばかつて初等部時代に研究で賞を取った生徒等だ。

 他にも考えられる方法がある。
 4月の最終週には研究院で魔法学会が開かれる。そこへ出席するとなれば当然許可証も出るわけだ。
 学会そのものは第1研究棟の大教室で行われるが、通行許可証そのものはどの研究棟も共通。だから学会員として登録していれば許可証も出る。
 例えばミド・リーは初等部時代から魔法学会生物魔法分科会の会員。そういう立場なら入ることも可能なわけだ。

 他にも方法はいくつか存在する。問題はそれを調べて実行する程の能力や行動力があるかだ。
 
 ◇◇◇

 翌日。

「今日は研究棟のゲートに入るまで気配がなんとなくあったよ」

「私も感じた。追跡というよりゲート付近で張っていたという感じだったけれど」

 シモンさんとミド・リーはそんな気配を感じたようだ。俺は一切そういうのは気づかなかったけれど。
 シンハ君なら気づくかもしれない。しかし奴はトレーニングに行くから別行動だ。

「誰かがここを調べているのは確かなようですわ。入会が目的なのかそれ以外の目的もあるのかはわかりませんですけれど」

「それで方針はどうなんですか」

「以前言った通りですわ。更に具体的に言うと、ここの場所を突き止めて、そこの扉をノックすること。ノックした時点でこちらの入会審査はOKという事にしましょう。勿論国王庁の審査は別途必要ですけれど。
『この研究会は会員を募集していないので、入会についての取次ぎは学校側でしておりません。直接活動場所へ出向いて交渉して下さい』。
 そう情報開示請求の回答にも書かれているそうですわ」

 つまり学校側がここの場所をつきとめて直接行け、そう教えている訳か。
 
「ただ国王庁の審査はもう始まっているようですわ」

 えっ。

「もう相手が誰かわかっているんですか?」

「国王庁の方は提出書類等からもう割り出している模様です。私達には伝えていないだけですわ」

「そう言えば情報開示請求なんて出したんだよね」

「その辺も学校側や私達に対するアピールのつもりかもしれないですね」

 なるほど。当然向こうの側も自分たちが調べているという事に俺達が気づくだろう事は予測しているだろう。ナカさんが言うアピールというのもある程度考えているのかもしれない。

「取りあえずいつご挨拶にいらっしゃってもいいように、ある程度ここも片付けておきましょうか」

 確かに今は結構酷い状態だ。
 元々この研究室は小さい工場並みの広さがある。
 でもそこに、
  ○ 蒸気ボート
  ○ 蒸気自動車
  ○ 熱気球(天井から吊してある)
  ○ ボイラー
  ○ 汎用蒸気機関
  ○ 大型浴槽(壁で囲ってある)
  ○ シモンさん専用大型機械練成スペース
  ○ 鏡作成工房スペース
    (元・俺用試薬作成スペース)
なんてのが場所をとっている。
 つまりもう目一杯という状態だ。
 
「でもこれを片付けるのは無理だろ。風呂くらいじゃないか」

「それを片付けるなんてとんでもないですわ」

 女性陣がうんうんと頷いている。

「それに色々機密が多すぎますよね」

 蒸気機関関係は全部アウト。魔法杖も全部アウト。熱気球と鏡、風呂くらいだろう。見せても問題無いものは。

「新人さんがいらした際はすぐ会議室にご案内して、色々見えないようにしましょう。秘密を要するものはまとめて整理した後、逆鑑定魔法と隠ぺい魔法をかけておいて。いずれにせよもう少し片づけたほうがいいでしょうね」

「そうですわね。整理しておけば今後の説明する時も楽になりますわ」

「同意」

「そうだな」

 その辺が落としどころだろう。俺も頷く。
 そんな訳で今日は研究や作成を一時中断。研究室の整理整頓にとりかかろうとした時だ。

「どうせなら上に空いている空間を使えるように床を張らない? そうすればより広くこの場所を使えるよ」

 シモンさんがそんな提案をした。確かにここの研究室は小型帆船も整備できるくらい天井高が高い。普通の講義棟の2階分+天井裏の高さがある。

「暗くならないか」

「その辺は設計次第だと思うよ。窓ガラスも高い部分は一部あの透明なものにすれば明るくなるんじゃないかな。どうしても灯りが欲しいときは灯火魔法なり電気照明なり使えばいいしね」

 なるほどな。その辺はさすがシモンさんだと思う。

「どうせならあの大型浴槽を上に持っていかない? 窓際に設置して窓を透明なガラスに変えれば外を見ながらゆっくりお風呂に浸かれるよね」

 ミド・リーがとんでもない提案を口にした。おいちょっと待て!

「水は重いから上にするのは強度的に大変だろ」

 とりあえず理屈で反対しておく。

「舟を吊り下げるためのフレームがあるよね。あれをもう少し強化して支えてやればそんなに難しく無いと思うよ。お湯を上に持っていくのは蒸気機関を使えばいいし、上なら排水した後乾かすのも楽だしね」

 おいシモンさん、だからちょっと待てって。

「楽しそう」

「面白そうですわ」

「場所も広く使えますね」

 フールイ先輩とアキナ先輩、ナカさんまで賛意を示している。つまり俺にはもう止める事は出来ない。

「ならちょっとどんな風に造るか図面を描いてみるよ。ヨーコ先輩やシンハが帰ってきたら皆でおやつを食べながら駄目出ししてもらってさ」

 つまりは展望風呂案、決定という事か。なんだかなあ。煩悩の種をこれ以上増やしたくはないのだけれど。
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