病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

文字の大きさ
153 / 266
第18章 めでたく夏合宿

第145話 未来予想図

しおりを挟む
 再びさっき食事を食べた場所に戻ってくる。
 食堂は既に片付けられていた。俺達がボートを改造している間に片付けが入ったらしい。
 まだ寝る時間には少し早いのでリビングと思える部屋でうだうだする。

「ここは本来何に使う場所なのでしょうか」

「王家が個人的な客をもてなす場合の建物さ。国や政府の招聘した公式な客用ではなく私的な客用の迎賓館という感じかな」

「先日はミヤジ・マー殿下が高等部時代の友人とここでどんちゃん騒ぎをしていましたね」

 いいのだろうか。そんな使い方をして。まあ俺達も使わせて貰っている身なのだけれど。

「それにしてもユキさんがこちらに合流するとは思わなかったな。確かにアキナさんと昔は仲が良かったと聞いていたけれど」

「その節はご迷惑をおかけしました」

「トモさんは残念がっていたけれどね。まあ確かに此処が一番面白いグループだし仕方ないかな。他にオマーチやハツカイ・チーの研究院で面白いグループがあるけれどね。僕が把握しているのはそんなところかな」

 つまり最低でも2つはうちと同じようなグループがある訳だ。そして殿下はユキ先輩とも知り合いだったと。トモさんというのが誰かはわからないけれど。

「ところで対策の方は順調でしょうか」

 ユキ先輩の言葉に殿下は顔をしかめる。

「状況は良くない。6月からスオーとブーンゴで小競り合いが続いている。危険なのは10年後だと予測していたがもっと早くなるだろう」

 以前も情勢が悪いという話をしていた。けれど10年後というのは……

「戦争ですか」

 あえてその言葉を出して聞いてみる。

「そうならなければいいんだけれどね。未来視達は確実に起こるだろうとみている」

 未来視というのは国公認の予知職だ。定員10名ほどの上級未来予知魔法持ちで、予知魔法で国の政策に助言を与える。

「アストラムにとっては何の利益も無いのだけれどね。上手くいっていない国というのは往々にして国外に活路を求めるものなんだ。リョービ帝国みたいに常に拡張していかなければ壊れる国なんてのもあるしね」

 リョービ帝国は東の新興国家だ。軍国主義的な国家で近隣の弱小国を併合しながら急速に版図を広げている。

「隠しても仕方ないから言うけれどね。およそ10年以内にスオーとリョービがイーヨと同盟を結び、ブーンゴとアストラムうちに仕掛けてくる。それが未来視達の予測さ。なら今のうちにリョービを潰せばいいかというとそうでもない。
 今なら確かにリョービを倒す事は出来る。でもかわりに東側諸国の民衆の恨みをかうことになってしまう。結果今のリョービよりもっとタチの悪い国が出てくるという予測さ。なにせ東側で一番国民の支持を得ているのがリョービだという状態だ。他の国々はもう制度疲労を起こして援助しても無駄な状態だしね。それにリョービに兵を向けるとスオーが攻めてくるだろうし。
 一応北のイワーミとは不可侵条約を結んでいる。でもあそこは正直なところ信用できる国ではないしね。ブーンゴは信用できると思うけれどアストラムと隣接している訳では無いし。一応同盟を結んではいるけれどね」

「戦争の結果までは予知されていないんですか」

「戦争開始後の未来はまだ不確定なんだそうだ。だから色々対策して少しでもアストラムうちの未来が明るくなるよう飛び回っているんだけれどね。なかなか上手くいかなくて此処で愚痴を言っている状態さ」

 うーん、聞かなければ良かったかもしれない。夢も希望も無い未来予想図だ。

「ただ未来視達が見ているのもあくまで現在で最も可能性が高い未来というだけでね。必ずしも予測がそのまま起こるという訳じゃない。それにこれでも30年前の予測よりは大分ましになっているんだ。当時の予測だと戦争でブーンゴとイワーミに占領されるという結果が見えていた。それが勝敗が見えないところまで押し戻せた。もう少し頑張れば更に未来予測が変わって戦争が起きなくなるかもしれない」

「何故予測が変わったんですか?」

「色々あるけれどね。一番大きかったのは生活魔法の普及と産業技術の進歩じゃないかと言われている。生活魔法が普及したおかげで都市人口が増えたし、産業とくに農業の技術進歩で生産力が上がったしね。単純計算で人口が2倍になってもやっていけるようになった訳だ。まあその辺は学校の授業で知っていると思うけれどね」

 連作障害の克服と効率的な農地改良による生産高の大幅な増加。農地改良等を可能にした国の長期農業援助制度。知的財産権保障制度をはじめとする法律改革。各産業の新規参入者の障害になっていたギルド制度の廃止。
 その辺はここに繋がる訳か。

「結局は国力をつける以外の方法論は無い訳なのですか」

「その通りさ。それ以外の方法だと色々国としてのバランスが崩れるしね」

 フルエさんの言葉に殿下は同意する。ならばだ。

「ここで開発した蒸気機関や魔法杖等を民間に公開するとどうなりますか」

「実はそれももう検討したんだ。というか考えられる方法論は敵国家重要人物の暗殺まで含めて常に色々検討しているのだけれどね」

 物騒な事を平然と言いつつ殿下が説明してくれる。

「蒸気機関や魔法杖については『今のところは公開するべきでは無い』とされているんだ。産業を発展させるには時間が無いし、かえって敵の戦力を増やす事にもなりかねないとね」
 
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...