病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀

文字の大きさ
152 / 266
第18章 めでたく夏合宿

第144話 俺のせいじゃない!

しおりを挟む
「シモンさん。もう俺達の持っている技術全部教えていいと思うけれどどうかな。ここまで来たらもう時間の問題だしさ」

「そうだね。なら徹底的に行くよ」

 この時の俺は気づかなかった。シモンさんが言うところの徹底的という単語の意味するところを。

「できればメモか何かで技術者にわかるようにしてくれないかな。僕やシャク達は技術者じゃないから細かいところはわからないから」

 これは殿下からだ。

「わかりました」

 そう返事をしておく。しかしメモよりは、むしろ……

「こちらに何でもいいですが金属材料はありますか。説明より現物の方が技術者にはわかりやすいでしょう。ですから直接これをなおした方が早いと思います」

 これはシモンさんだ。どうも俺と同じことを考えていたようだ。

「あと一度車のところに戻って道具を用意してきていいですか」

「すまないな。ターカノ頼む」

「わかりました。直接移動しましょう」

 シモンさんとターカノさんの姿が消える。移動魔法を使ったようだ。いいのだろうかそんな魔法を気軽に使って。まあ今更なのだけれど。

「それでは簡単な説明だけ先にしておきます」

 間を持たせるために俺は説明を開始する。

「偉そうな言い方で申し訳ありません。全体像としてはよく出来ていると思います。原理としてはうちで使っている蒸気ボートとほぼ全く同じです。あとは細かいところを改良すれば数段強力になると思います。
 動力の発生していく順番で見ていくとまずはボイラー。ほんの少し改造するだけでより強力になります。まず出来るだけ一体構造にしておくこと。どうしても出来る接続部分は錫や鉛等柔らかい金属を挟み込みます。そうすれば蒸気の漏れが非常に少なくなって高圧が維持できます。あと弁部分も動く部分はリング状に鋼を入れて……」

 まずは蒸気圧を上げる方法。次にタービンの形を横型から縦型に変えて効率を上げる事。タービンの後に復水器をつけて水の節約を図ると同時に圧力差を大きくする事。
 そんな感じで色々と説明する。

「説明ありがとうね。それじゃ僕は直接改良するから引き続き説明お願い」

 戻ってきたシモンさんに更に説明を押しつけられてしまった。仕方ないから説明を続ける。

「次は回転する力を使って推進力にする部分です。まずこの両側に大きな水車をつける形式は回転部分のわずかな場所しか推進力に寄与しない。ですので全体を水中に入れたスクリューという推進器を使います。要は玩具の風車。あれを船の後ろ、下部分の水中につけると思って下さい。
 なおスクリューは大きければ大きいほどいいのですけれど、河川を航行する際には川底の深さという限界があります。またスクリューは完全に水中に無いと極端に効率が悪くなります。ですので河川用の船ではやや小さめに、外洋でしか使わなければ大きめがいいでしょう。あと回転数もタービンの回転速度のままでは速すぎるのでギアかベルト、チェーン等で減速させてやります」

 視界ではシモンさんが魔法アンテナを組み立てて改造を始めている。まずは容器の改造やシールの強化で蒸気の経路を高圧化対応している模様だ。

「イメージだと大きいこの水車の方が真っ直ぐ後ろに水を進めるから効率が良さそうだけれど」

 ミド・リーがいい質問をしてくれた。

「確かにイメージではそうなんです。それで俺が知っている世界ではこのタイプの船とスクリュータイプの船とで実際に綱引きさせました。結果はスクリュータイプの船の勝利。それ以降外輪船は姿を消していきました」

 イギリス海軍による有名な実験だ。なんて事はここで言っても無意味だから言わないけれど。


「ついでだからスクリューは二重にして反転させるよ」

 おいシモンさんそこまでやるか。それは完全に想定外だ。
 確かに効率的かもしれないがどう考えてもそれはシモンさんの趣味だろう。前後のフィンで工夫するとかそっちの方が正しいと思うぞ。
 そう俺は思うのだが製作者がそうしてしまうのだから仕方ない。なので一応今の台詞の説明はしておく。

「今シモンさんが言ったのはちょっと複雑な形式です。具体的にはスクリューを同じ軸の前と後ろに配置させて、それぞれ逆回転させるという仕組みです。スクリューがひとつですと回転方向とは逆にねじれの力がかかり、それが動力のロスになります。ここで逆回転のスクリューを前に追加してやると結果としてねじれの力がなくなり、動力のロスが減る事になります」

「あとギアチェンジでバックも出来るようにしたから」

「今言ったのはスクリューを逆回転させる装置をつけるという事です。こうすると船が後ろ向きに進みますので操船がやりやすくなります。ただ後退時は舵がききにくいので注意して下さい」

「あと軸受けの説明」

「回転している軸を受け止める際、平らな面ではどうしても摩擦の問題があります。それですので、こんな感じの構造にして球の回転で受け止める形にします。なおこの部分には水に溶けにくく固めの油脂を充填しておきます」

 図を書いて説明する。シモンさん、なかなか俺使いが荒い。おかげで説明が大変だ。
 しかしシモンさん、こっちを注意しながらでも改造を恐ろしい速度で進めている。既に俺達の蒸気ボートより性能は上だ。

 元々蒸気機関の効率が低い分、俺達のボートよりボイラーが大きかった。そこをシモンさんは俺達のボートに使っていない技術まで総動員して改造。結果最初の状態から比べて遥かに凶悪な性能に生まれ変わった訳だ。
 というかいいのかこんな怪物作って。この性能、ボートレースやるわけじゃないぞ!

 仕方ないので俺は注意事項を補足する。

「改造後の船は最低でも必ず鑑定魔法持ちと工作系魔法持ちの2組の技術者で構造と性能を確認してから試して下さい。今までのつもりで使うと間違いなく暴走します。出力的に数倍の代物に改造してしまっているので……」

「あと潤滑油の説明も」

「動かす前に、さっきの軸受け等に使っている油脂も必ず確認するよう言っておいて下さい。あれがないと部品の消耗が激しくなるばかりか所定の性能が発揮できません。製造は石灰石と脂で作っています。製造方法も鑑定魔法でわかるはずです」

 そんな感じで俺が説明したり図を描いたりする事約1時間。俺がすっかりくたびれた頃、ようやく改造が終了した。

「さっきよりむしろおとなしい感じなのだ」

 フルエさんの台詞は外見的には正しい。外輪が無くなって一見すっきりしている。
 しかし性能はもはや比べられるような状態じゃない。ボイラーもタービンも推進機関に至るまで何もかもが最大限に強化されている。全速を出すと船体が出力に耐えかねて壊れないだろうか。考えただけでも恐ろしい。

「間違いなく推進機関がオーバースペックなので、くれぐれも注意して下さい」

「でも試作だしこれくらいの方が見本としていいよね」

 いやシモンさんこれは間違いなくやり過ぎだ。現在の俺達の蒸気ボート以上にヤバい代物だから。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...