機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第4章 香緒里の魔法開発記

16 流石に教授はプロだった

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 運がいい事に田奈先生の在室札は表向き。
 だから俺は研究室のドアをノックした。

「すみません、魔法工学科の長津田と薊野です」

「開いてるぞ」

 入っていいという事なので、俺はまだ状況を完全に理解していない香緒里ちゃんを連れて入室する。

「どうした、また笑える物を作ったか」

 そういう教授席付近にも、色々怪しげな機械や道具が色々置かれている。
 田奈先生は教官で主任教授職にもついてはいるが、根本的にはもの作り屋だ。
 いくつも魔道具等のパテントを自ら持っていて、不労所得だけでも生活できると豪語している。
 その不労所得で色々工作機械等を買い込んでは奥様に怒られているそうだ。

「今回、後輩にとんでもない物を作らせてしまったので、ご報告にまいりました」

「またお前が変な手伝いでもしたんじゃないのか」

 俺の色々問題はあるけれど完成度の高い品々を受け取って、採点してきた先生だ。
 その分俺に対して余分な知見も持っている。

「今回はあくまで薊野さんの功績です。俺は魔法製品の依頼を薊野さんにして、受け取った物で実証装置を作っただけです」

 実証装置を先生の机の上に置き、コントローラーのコンセントを入れる。

「見ていただければ理解いただけるかと思います」

 俺はコントローラーを少しだけ動かす。
 実証装置が3割位長さを増した。

「成程、ちょっと鑑定するぞ」

 田奈先生は目を細めて実証装置を見る。

「モーター類は勿論電磁石等は使っていない。電圧はミリボルト単位、電流もミリアンペア単位か。微弱電流は駆動力というより物性を変化させる為に使用しているな。内側のバネは絶縁されているから外側のバネを変化させている。変化させているのはヤング率とか弾性係数。違うか」

 さすが先生。
 実証装置を1回動かしただけで見破った。

「駆動できる力は電力依存ではなくバネ依存。だから相当大きい力も微弱電流で制御可能。使った魔法も魔法付与による永続魔法。だから魔法使いでなくても使用できる。おそらく全世界で使用可能。応用範囲はかなり広い。とんでもない物を持ち込んだな」

 先生は俺が持ち込んだものの意味を、全て理解してくれたようだ。

「それで先生に折り入ってお願いが」

「パテントの先行出願、品物見本と先行見本品の製作依頼、それに伴う義足の課題の提出遅延許可だろう。違うか」

 流石田奈先生だ。

「話が早くて助かります」

「一応お前の担当教官やっているんだ。それくらい察せなくてどうする」

 田奈先生はにやりと笑う。

「課題は夏休み直前まで遅延を認めてやろう。先行見本品用のバネはこっちでメーカーに発注、取り寄せたバネに魔法をかけてもらう形にする。先行見本品の物理特性等はセンターに依頼を出そう。その分の手数料は引かれるが大したことはない」

 話が早い、早過ぎる。俺は慌ててメモを出す。

「先行見本品は1,000個程作る。魔法をかける薊野は心の準備をしておけよ。その後は魔法をかけるバネの現物を送付してもらい、魔法をかけて返送することにしよう。月あたり個数限定の予約制でだ。それなら学業の邪魔にならないし生活費以上は稼げるだろう」

 あっさりと田奈先生はこの件に対する対処をまとめた。
 さすがプロだ。
 何をどう、どれだけすべきか、あっという間に返答してきやがった。

「そんなに作るんですか」

 一方で香緒里ちゃんは、自分が作り出した物の価値にまだ気づいていないようだ。
 田奈先生もその事に気づいたのだろう。
 香緒里ちゃんに向かってゆっくりと教える。

「例えばこの部屋位の大きさのバネを作ってこの装置の巨大版を作ったとしよう。それでも装置を伸び縮みさせるのには大した電気はいならい。鉄の電気抵抗などしれたものだからな。電池1本もあれば数時間駆動させるのも難しくない。それは理解できるな」

 香緒里ちゃんは頷く。

「さて、その装置のバネの片方を固定して、もう片方をクランクに繋いで円運動を取り出す。電流を断続的にうまく流してやれば円運動がつくれるよな。ついでだから適当に歯車を噛ませて回転数を調節して発電機につないでやろう。そうすればどうなるか、もう想像はつくな」

 香緒里ちゃんは少し考えて答える。

「……電池1個の電力と付近の魔力から、電池を上回る電気を発電出来ます」

「その通り。魔法使いがいないと使えない筈の魔力が、一般人でも利用できるようになるんだ。量産すれば産業革命級の衝撃を与える可能性がある。それだけの代物だという事は自覚しろ」

 やっと香緒里ちゃんにも状況が理解できたらしい。

「それってひょっとしたら、相当凄いことなんじゃ」

 田奈先生はにやりと笑う。

「そこの悪い先輩には感謝しとけ。常にしょうもない物を作っては教授会を笑わせている悪い学生だが、見る目と工作能力は確かだ。ただそこの悪い先輩、この実証装置には少々言いたいことがある。分かるな」

「内側のバネの更に内側にシリンダを入れてバネが曲がらないようにする。両方のバネを絶縁する。そんなところですか」

 田奈先生はフンと鼻息で笑う。

「どうせ出来たもの可能性に目がくらんで、勢いだけで実証装置まで作ってしまったんだろう。違うか」

「その通りです」

 言われたとおりだ。一言も無い。

「ただその可能性にすぐ気づいたセンスは褒めてやる。この件はまかせろ。あとパテントの名義は薊野でいいな」

「お願いします」

「長津田先輩は?」

 俺と香緒里ちゃんが同時に別の返答をする。
 田奈先生は笑って香緒里ちゃんに話しかけた。

「確かに有用性を見つけたのは長津田だろうし、この実証装置を作ったのも長津田だろう。それにこの物質を生み出したのも長津田がきっかけかもしれん。しかしこの物質を魔法で作り出したのは薊野だし、今後作っていくのも薊野だ。だからパテントの名義は薊野名義だ。それにな」

 田奈先生は俺の方を見る。

「お前はこれを作ったのが薊野だと認めるんだろ」

「当然です」

 先生は笑って頷く。

「こいつはこんな奴だ。物を作るという意識とそれに関する誇りが人一倍強い。だからこの物質のパテントをこいつにも渡す事は侮辱になる。だから薊野の単独名義にしておけ。どうしてもこいつに金を払いたいなら、飯でもおごってやるかヒモにでもして飼ってやれ。どうせ製作環境さえあればこいつは文句は言わない」

 何か色々言われているが、概ね当たっているので文句は言わない。

「わかりました。ではそれでお願いします」

「任せろ!」

 俺達はもう一度礼をして、そして研究室を去る。
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