機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第4章 香緒里の魔法開発記

17 俺の課題は終わったけれど

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 俺は何とか、課題の義足を作り終える事に成功した。
 駆動用のバネの選定にちょっとかかった他は、特に問題は無かった。

 歩けるし小走り程度なら走れる。
 例の重力制御も入れたので、飛行こそ出来ないが垂直跳びで2m以上のジャンプも出来る。
 逆に重量を増して急ブレーキをかけることも可能だ。

 俺としてもほぼ満足が行く出来だったし、評価点も高かった。
 しかし使っている技術に問題があるという評価もされてしまったので、量産等の話は残念ながら無かった。
 それでもウン十万円でお買上げはしてもらったので、俺は一応満足だ。

 あと驚いたのはあの義足使用者の想定はが、実在の人間だったらしい事。
 お買上げ後、俺の作った義足をそのまま使っているようだ。

 それが発覚したのは数日後に本人から感謝の手紙が来たから。
 どうも凄く喜んでいるらしい。
 残念ながら英語で書かれていたので、微妙なニュアンスはわからなかったが。
 俺は英語が得意ではないから。

 さて、問題は香緒里ちゃんの方だ。

 例のバネの反響は、なかなかに強烈だったらしい。
 午後半日をかけて作った1,000個の先行見本品は、物理特性等の調査用10本を除いてほぼ瞬殺で売り切れたようだ。
 そして鳴り響く連絡の電話。パンクするEメール。

 学生がパテントを持ち学校で登録したものは、学校が連絡先になっている。
 だから連絡等の一次対応は学校の事務局だ。
 お陰で助かったが、香緒里ちゃん個人のメールや連絡先が記載されていれば酷い事になっていただろう。

 それでも製作者に個人的に連絡を取ろうとしたり、あわよくば香緒里ちゃんの身柄そのものを押さえようとする連中も出て来る始末だ。

 中でも何処とは言えないが某国の、ほぼ国営防衛企業のディレクターを名乗る人物は酷かった。
 既に記載済みの香緒里ちゃんの名前が入った偽造の承諾書を持って、引き抜きというか誘拐を実施しようとしたのだ。

 護衛に由香里姉ら学生会館部3人がいたので誘拐は失敗。
 自称ディレクター含む実行犯6人は足を凍らされて歩けなくされた上、月見野先輩の魔法で気絶させられて、警察署分駐所へと運ばれていった。

 この島には留置場がない。
 留置以上の扱いの犯罪者は、基本的に飛行機で本土へ搬送。
 扱いも大体が警視庁本部で担当するらしい。
 彼らも今頃は警視庁本部の留置場へと移送されている事だろう。

 そんな事件もあったおかげで。
 香緒里ちゃんは授業以外の時間は、学生会室か工房に引きこもっている。
 それ以外の場所に行くときは、由香里姉か鈴懸台先輩が必ず護衛についているという状態。
 そして俺専用工房だった場所も、今では香緒里ちゃんの作業待ちのバネ類が幅を利かせている状態になっていて……

 良いことと言えば、確実に貯まっていく香緒里ちゃんの通帳の記載金額。
 それと用心の為、毎週金曜日夜恒例の露天風呂が中止になったことくらいだ。

「この騒ぎはいつまで続くのでしょうか」

 香緒里ちゃんの表情は暗い。

「うーん、香緒里と同じ魔法が使える第2の人物が出ればね。そうすれば少しは収まると思うけれども」

「物に魔法付与が出来る魔法使いって少ないらしいからなあ」

「でも他に同じ魔法を使える人が出ても、魔法と使い方でパテント取っていますからね。収入が途絶えることはないですわ」

「……もうお金いいです。のんびりしたいです」

 贅沢な台詞だが本心だ。それはこの場の皆が知っている。
 しかしその希望が叶えられる日はまだ見えない。

 結論は出ている。
 諦めること。ほとぼりがさめるのを待つこと。

 バネの見本を販売してから2週間が経過した。
 それでも毎日1時間位、香緒里ちゃんはバネに魔法をかけている。

 注文数は極力絞っている。
 でも上級官庁からの恫喝じみたお願いやら、学会の要請やら、色々と断れない筋の依頼が結構あるのだ。

 勿論断れない筋と言っても、依頼を受けるからには代金をきっちり請求する。
 お陰で香緒里ちゃんが急遽作った銀行口座の残高が、とんでもないことになっているらしい。

「もし一生分くらいのお金が溜まったら、南の島でも買ってこのメンバーで一生遊び暮らしたいです。何もかも忘れたいです」

「でもそうしたらきっと島の近辺に不審船がやってきて、香緒里を狙う組織と戦う刺激的な毎日が始まるんだよ、きっと」

「せっかく修兄囲って優雅に暮らそうと思ったのにだいなしです」

「なぬ!」

 香緒里ちゃんの不用意な言葉に由香里姉が食いついた。

「その物件は私が先に予約済みのつもりなんだけど!」

「でも田奈先生も公認したのです。この魔法は修兄のお陰で出来たのだから、ヒモとして囲っておけと言ったのです。修兄も同意してくれると言ったのです」

「修、本当?」

 由香里姉がジト目で俺を見る。

「あれは言葉のアヤというやつで……それにニュアンスも変わっている気が……」

 部屋の気温が一気に下がった。
 気のせいではない。由香里姉付近にダイヤモンドダストが浮かんでいる。
 氷の女王はお怒りだ。

「んもう! 言いよってくる男が変なのばかりだからここに逃げてきたのに、ここでも言いよってくるのは駄目なのと変なのばかりだし。攻撃魔法使いなんて自衛隊か外人部隊か研究者くらいしか職が無いから、食いっぱぐれのなさそうな幼馴染育てていたのに妹に食われかけているし……もう!」

 霜のドレスを纏った女王が立ち上がる。

「よろしいならば戦争クリークよ!」

「助太刀するよっ」

 光を放つ聖剣クラウ・ソラスを構えた鈴懸台先輩が香緒里ちゃんの前に出て、由香里姉に立ちふさがる。

「ミドリまで私の敵になるのね。いいわよ。地獄で後悔しなさい」

 そして始まる魔法大戦は洒落にならないヤバさだ。
 何というか、本当にここは日本国内なのだろうか。

 慌てて逃げ場を探すと、部屋の隅の方で月見野先輩がちょいちょいと招いているのが見えた。
 俺も香緒里ちゃんも急いでそこへ退避する。

「そこの本棚から手前は防護魔法がかけてあります。ですからご心配なく」

 月見野先輩の言葉で俺達は一息ついた。

「あ、でも窓ガラスや備品は」

「当然対策済みです。ですからご安心なさって。書類も原本は大体私の机の中に退避させていますから」

 成程、でもそこまでしているという事は。

「ひょっとしてこんな事態、前にも起きているのですか?」

 香緒里ちゃんが俺の質問を代弁してくれた。
 月見野先輩は頷く。

「昨年は週に1度はこうなっていましたかしら。今年度は色々ガス抜きの行事も出来ましたので、ほとんど発生していませんでした。ですがガス抜き行事が中止になったので、いずれ近いうちにこうなることは予想されておりました」

 ガス抜き行事とは、と俺は考えてすぐ気づく。
 ああ、金曜夜恒例の露天風呂か。

「ユカリが爆発しなくても、じきにミドリが挑発仕掛けると思っておりましたからね。ある意味ちょうどいい機会だったと私は思いますわ」

「でも良いんですか、これを止めないで?」

 既に机の上にあった筆記用具等は、溶かされて燃やされているか凍らされ砕かれているかで、跡形もない。

「ある程度発散したのを確認いたしましたら、私のとびっきりの麻痺魔法でお止めいたしますわ。あの2人なら少々威力が強い魔法でも問題ないですしね」

 月見野先輩が浮かべた笑顔を見て、俺は理解した。
 この人も前で戦っている怪獣の同類なのだと。

 ◇◇◇

 それから約10分後。双方疲れて魔法が途絶えた隙に月見野先輩の麻痺魔法が炸裂。
 床に倒れて痙攣している2人を無視して月見野先輩は部屋の奥に向かい、窓を全開にする。

「これで換気をすれば掃除完了ですわよ」

 確かに塵も何もかも蒸発するか燃焼するかして、二酸化炭素になっている。

「さあ、これで今日の学生会幹部会議は終了ですわ。香緒里さんは私が寮の部屋までお送りいたします」

「いいんですか、これを置いたままで」

 俺の視線の先にはボロボロの服でひくひく痙攣している物体2つ。

「その2人なら置いておいても大丈夫ですわ。替えの服もロッカーにありますし、1時間もすれば動ける状態にはなりますわ。新開発した強力な麻痺呪文を使わせてもらいましたので、もしかしたらもう少しかかるかもしれないですけれども。最近は強力な魔法を開発しても人間に試す機会が少なくて、ちょっと苛ついていましたので良い機会でした」

 おいおい月見野先輩、最後は本音丸出しだ。

「それともこの2人をこの機会に味見なさいます。今なら抵抗すること無く味見できますわよ」

 何という事を言うのだ月見野先輩。

「あの怪獣大戦争を見てその気になれるほど、俺は豪快じゃないですよ」

「残念ですね。見た目にはなかなかそそられそうな感じに思えますけれども」

 そう言われて俺は気づく。
 ボロボロで穴というか衣服の体を成していない衣服。
 でも体は魔法耐性のお陰で傷ひとつない。
 それが怪しく誘うように痙攣している。

「うっ、ああん~」

 そう意識していると呻き声まで色っぽい。
 駄目だ、これを意識したら負けだ、18禁突入だ……

「今日は引き上げましょう」

「それが賢明ですわね」

 月見野先輩も頷く。

 俺達は学生会室を出て扉を閉め、ドアに鍵をかけた。
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