機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第12章 冬の嵐

58 帰還

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「修兄は私が怖くないですか」

「何で?」

「こんな人殺し魔法を使えて、常に襲撃に巻き込まれる危険性があって、その癖いろんな事を隠して修兄につきまとっているんです、私は。
 今の修兄には由香里姉もいるしジェニーだっているし風遊美さんだっているんです。奈津希さんも絶対、修兄に好意を持っています。修兄には私がいなくても大丈夫なんです。だからこのあたりで、修兄を私から開放してあげます」

 香緒里ちゃんの言葉が平坦で無表情になる。
 まるで台本を棒読みで読んでいるようだ。

「嫌だよ、って言ったら」

「でも修兄はこのまま戻るべきなんです」

 香緒里ちゃんは平坦な口調で続ける。

「ここに修兄がいる事自体危険だってわかっていますよね」

「由香里姉もそう匂わせていたし、風遊美さんにははっきり危険だと言われたな」

「一緒に夢を見ている状態とは違うんです。今の状態は修兄の思考が私の脳に同居して、私の思考と直接やり取りしている状態なんです。このまま接続が切れたら今の修兄の思考は私から出られなくなります。修兄の身体も思考する自我が出ていったまま昏睡状態になります」

 それ位では今の俺には脅しにならない。

「でも香緒里ちゃんが目覚めなかったら、きっと一生後悔しっぱなしだろうな。機会ある毎に思い出しては後悔する。それを続けるならこのままここにいた方がましかな。
 ここにいて、香緒里ちゃんと昔のようにどこまでが自分かわからない状態になって、そのうち全部が夢だったように感じるようになる。香緒里ちゃんをここに置いていくよりは個人的には苦痛は少ないかな」

 どういう状態だかは何となく想像がつく。
 今の状態と安全性も方法も違うが、昔それに近い状態には何度もなったから。

「由香里姉さんには、きっと恨まれますね。それもいいかなと一瞬思っちゃったですけれど」

 ちょっと声に感情が出てきた。

「でも私、一瞬本当にそうしようかと思うくらい酷い女なんです。そうすれば修兄を私だけで独占できますから。本気でそう思う位酷いんです。だから修兄は1人で帰ったほうがいいです。強制的に送り返すことも出来ます」

「そうしたらまたここに来るまでさ。何度でも。俺なら今回みたいに来れるんだろ、きっと」

 その事には確信があった。
 だから自信を持ってそう宣言する。

「困ったです。由香里姉は阻止出来たのに、修兄は阻止できないみたいです」

「だから香緒里ちゃんに追い出されても何度でもやってくる。何処に隠れてもきっと探し出すから。それにこの場所、そもそも俺から隠れるつもりがあったのかな」

「仕方ないんです。私の隠れられる場所ってここ以外は全部修兄と一緒にいたことがある場所なんです。学校で嫌な事があった時も母に理不尽に怒られた時も由香里姉と喧嘩した時だって。いつだって修兄に全部ぶつけて話を聞いてもらって、慰めてもらったり一緒に謝ってもらったりしたんです。その修兄に酷い事をしてしまったんです。だから私はもう何処にも行けないんです」

 大分感情が出てきた感じだ。
 もう少しのような気がする。

「だから俺は酷い事をされたとは全然思っていないんだけどな」

「本当にそう思っていますか」

「本当さ。何度も言うけれど」

 香緒里ちゃんはちょっとだけ笑みを見せる。

「懐かしいです。何か昔もこうやって修兄に慰めて貰ったのを憶えています」

「お互い様さ。俺も香緒里ちゃんがいるから耐えられた時期もあったし」

 そう言って、不意にしょうもない事を思い出す。

「思い出した。早く一緒に戻らないと、俺は酷いことをされる可能性がある」

「何をされるのですか」

 香緒里ちゃんが不審そうな顔をした。

「時間が経って風呂に入れないで臭うような状態になったら、率先して脱がして身体を拭くぞって奈津希さんに言われているんだ。それも下半身重点にやってやるって」

「それは困ったですね。修兄のお世話は私が独占したいのですけれど」

 香緒里ちゃんの口調が、大分いつもに近づいたと感じる。

「それはそれで問題のある台詞だと思うぞ」

「お世話は幼馴染の特権と昔から決まっているのです」

 香緒里ちゃんそう言って、そして笑ってくれた。
 泣き笑いという感じだけれども。

「しょうがないです。一緒に戻ってあげる事にします」

 その笑顔が辺りを包んでいく白い光の中に薄れていき、そして……

 ◇◇◇

 目覚めると例の病院の個室。

 まわりに学生会新旧幹部一同が勢揃いしている。

「おかえり」

「ただいま」

 俺は由香里姉の挨拶に返答する。
 とたんに辺りが賑やかになった。

「よお、お目覚めの気分は?」

「意識ちゃんとあるよね」

「魔法で確認した結果では全て異常はありませんわ」

 色々な言葉が飛び交う中。
 ふと気づく。 隣に香緒里ちゃんがいない。

「香緒里ちゃんは」

「昼前に起きて精密検査を受けているわ。そろそろ解放されると思うけれど」

 由香里姉が答えてくれた。良かった。

 不意に腹が減ったような気がする。

「参考までに今、何時くらい」

「午後3時。1日後のね」

 思ったより時間が経っていたようだ。

「警察と自衛隊の現場検証があったり事情聴取を受けたり、教授会の方でも事情聴取をうけたりして大変だったのよ。ちなみに今日は襲撃の影響で休校」

「由香里さんには後で礼を言っとけよ」

 これは奈津希さん。

「そんな状況でも結局昨日泊まり込んでずっと様子みていたんだから」

「妹と幼馴染の弟分が揃って倒れているんですもの。しょうがないじゃない」

 由香里姉はそういってそっぽを向く。
 昔からよくやる照れ隠しの時の表情だ。

「いずれにせよ、これで一段落ですかね」

「修君はこの後精密検査ですわ」

 風遊美さんがさらっと嫌な事実を告げた。

「脳の方も腕の件も両方で、退院は明日になるでしょうね」

「ただこれ以上襲われる心配はしなくていいようだ。証拠物件も多いし脱出した襲撃者の逃亡ルートは米軍と合同で完全追跡して証拠化して世界に公開済み。日本の政治にしては随分と迅速で思い切った行動だと思うけどな。
 既に世界中から某国非難の決議案がいくつも出ている。まあ外交上でどうにか出来なくとも、世界中から不興をかったし当分は動けないだろう。他にも色々障害は出てくるだろうし」

 奈津希さんによる情勢の解説。

 ふと廊下から足音が聞こえた。だんだん近づいてくる。
 そして足音の主は、扉から姿を見せた。

 彼女は起き上がっている俺を見つけ、小さな声だけどはっきりと俺に挨拶した。

「ありがとう。おかえりなさい」

 ◇◇◇

 そして俺が目覚めてから、ちょうど一週間後の放課後の俺の工房。
 実態は香緒里ちゃんのバネ工場と化しているけれど。

 今は休憩時間で、俺はパソコンで適当にWebの掲示板を見ている。
 そこでちょっと気になるニュースを見つけた。

 某国の軍においてごく最近立て続けに事故が発生しているというニュースだ。
 主だったものだけでも
 ・ 最新鋭防空駆逐艦と新造空母が接触し双方座礁
 ・ 飛行場の格納庫が突如崩壊し最新鋭戦闘機20機以上が被害。
 ・ 最新鋭戦車が突如出来た地割れ等にはまり10台単位で損傷
等々。

 不思議と死者や重傷者は出ていないらしい。
 まああの国の発表はあてにならないけれど。

 そう言えば襲撃の件で大変お怒りだった田奈先生が、研究室で某国の軍事関連が記載されたWebページを見ながら、『どれにしようかな……』とか言っていたという噂をごくごく最近聞いたような気がする。
 関係は無いよな、多分きっと。

 他にも某国の中央軍事委員会の半数が入れ替わったとか軍総参謀部の人事が大幅に動いたというニュースもあったがこれも俺達に関係ない話だ、おそらくは。
 あの事件以降はごくごく平和。
 俺の手も腕も全く問題ない。

「さあて、そろそろ再開するれすよ」

 ジェニーがそう言って梱包をときはじめた。

「今日はどれ位やるの」

「来月頭に期末試験があるから、そのあたり分までやっておきたいです」

 俺は試験勉強はしない派だが、それを強要する気は無い。
 しかし。

「今日中であと50個は、厳しくないか」

「魔力的には問題ないです」

 薊野姉妹は双方とも俺と基礎魔力の量が段違いだった。
 それを改めて実感。

 梱包作業をしながら香緒里ちゃんの方を見る。
 バネを1個1個並べながら手を添えて魔力を付加している。

 香緒里ちゃんの自我から戻って来た後も。
 香緒里ちゃんと俺との関係は全く変わらない。
 周りの扱いも何も変わっていない。

 この工房のシャッターは新たに学校の経費で修理された。
 学校側としても着実に利益を生んでいるバネ工場に理解を示してくれたようだ。
 まあ田奈先生が強烈にプッシュしてくれたおかげもあるけれど。

 ついでにシャッターと倉庫壁に耐爆破・耐衝撃用の魔法も付与してある。
 まあ戦車砲とかには流石に耐えられないとは思うけれど。

「修兄、作業遅いです」

 香緒里ちゃんから文句が出る。
 いつの間にか梱包待ちのバネが溜まっていた。

 いかんいかん。
 俺は色々考えるのをやめ、梱包作業に集中する。
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