機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第17章 ゴールデンウィークは雨模様

76 汎用性と独創性

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「うーん、私も勉強しなきゃいけないですね」

 香緒里ちゃんが、今年の優秀作を見て呟く。

「薊野のスクーターは一番実用的だぞ。使っている魔法が特殊だから、量産がきかないけどな」

 確かにスクーターは一番使っている感じがする。
 他と違って、明らかに床が擦れている感じだ。

「成程、勉強になるです。汎用性ですか」

「旗台のはあれでいいと思うぞ。実用無視のロマン仕様だろう。ああいう方向性も必要だ。実際、結構売れている。パーツの加工は困難だが、使っている魔法部品そのものは一般的だしな。まあ購入したのはドイツやアメリカの特区のナード共ばかりだが。近々あれを使ってリアルロボット大戦をやろうと、ドイツのアホゲルが言っている。運が良ければテレビ局にも売れるかもしれん」

 アホゲルとは田奈先生の知り合いで、ドイツの特区のお偉いさんらしい。
 良く名前が出てくるのだが、本名や肩書等は俺も知らない。

「設計図の状態で売ったんですか」

「一応パテントも取ってな。特殊な機体なんで結構ふっかけたから、来月あたりにはいい小遣い銭が入ってくるぞ」

「え、もっと儲かるのですか」

 キラーン! という感じで、詩織ちゃんの目が輝いた。

「もっともっとな。まあ薊野には負けるけどな。あれはもう一生ものだ」

 これは例のバネの件だろう。

「売れる商品にするには、部品の段階での汎用性と製品の独創性だな、やっぱり。という訳だ。最近ヒットを出していない先輩君」

 俺に小言が振ってきた。

「まあ、地味に稼いでいるからいいですよ」

「この前の草刈り機は、実用性は確かなんだがやや凝りすぎだ。もっと白物家電を見習ってシンプルにした方がいいぞ。まあ便利だから、結局もう1台生産したんだっけか」

 確かにあの草刈り機、不整地走行能力とか色々機能をつけすぎた。
 閣下、機構が複雑かつ大型になりすぎた。

 だからメインの導入は、もっと簡単な機構の別の学生が設計した機械が選ばれた。
 俺の設計した奴は、機能や安全性を買われて不整地や崖沿い、あと人が良く通る場所等に限定して使用されている。
 まあ買い上げプラス1台追加で、そこそこ懐は潤ってはいるのだけれど。

 俺は気を取り直して他の展示品を見る。
 飛行機械も色々なコンセプトがある。
 基本的にはヘリコプターやオートジャイロ等、既存の原理を使った物が多い。
 だが時々、例のパワードスーツと同様ぶっ飛んだものもある。

「この椅子も飛ぶ機械ですか」

「それは高空に浮かんで地上の人間を見ながら『見よ、人がアリのようだ。ガハハハ』と笑うのがコンセプトという空飛ぶ椅子だ。その時に掲げるワイングラスもちゃんと置ける。背中から出ている反転同軸プロペラで浮上して椅子下のダクテッドファンでバランスを取るという構造だ。だが、実際バランスを取るのが難しくてな。私も3回落ちた。もう乗る気は無いが、コンセプトが馬鹿馬鹿しくて面白いのでつい置いてしまった」

 何だか変な趣味の奴だ。
 他にも。

「この椅子もさっきの同類ですか」

「これは緊急脱出が出来る椅子で、ボタンを押すと背もたれと座面ごと空中40mまで上昇して、パラシュートで降りてくる仕組みだ。最大の欠点は空が見える場所で使わないと、天井にぶつかってお陀仏になるところだな。まあ空を飛べるということで合格点はつけた」

 何やら玉石混交な感じだが、確かに面白かったし参考になった。
 礼を言って田奈邸を辞して部屋へ帰ると、もう昼食の時間。

 今日の昼食は、奈津希さんとジェニーのコラボ。
 ジャパニーズ天ぷら蕎麦、だそうだ。
 実際見た目にも美味しそうな、太めで色濃いめの田舎蕎麦がザルに盛られている。
 天ぷらはエビとかき揚げだ。

「うん、美味しい。さっぱりしているし、今日みたいな湿気た日にはちょうどいい」

「天ぷらもさっくり揚がっていて、いい感じです」

 確かに美味しい。

「蕎麦は今日は三七で打った。まあいい粉が二八で打つには足りなかったせいだけど、悪くないだろ」

 悪くないどころか凄く美味しい。
 何でも出来るな、奈津希さんは。

「本当はそろそろ新鮮な魚でも獲りたいんだけれど、この天気じゃな」

 船で出かけたい天気ではない。
 風はそれほどでもないが、雨が鬱陶しい。

「そう言えば魚って、ある程度決まったところを泳ぐですよね」

 不意に妙な事を詩織ちゃんが言った。

「まあ、そうと言えばそうだけど」

「もし2m✕2mの網を3箇所張ったとして、何分位待てば大きくて美味しい魚がかかるですかねえ」

「難しいんじゃないかな。餌でもあれば、ある程度寄せることができるだろうけれど」

「美味しい巨大魚さんの餌って何ですか」

「基本的には生きた小魚かな。カンパチあたりは動きのある餌しか食べないって言うし。釣りだと小魚に似せた疑似餌を動かして誘うけれど」

「そうなのですか」

 詩織ちゃんは。何か考え込んでいる感じだ。

 その後詩織ちゃんに何を考えているのか聞いてみたが、空返事ばかり。
 内容のある話は何一つ聞けなかった。
 俺以外は特に、誰も気にしていないようだったけれど。

 ◇◇◇
 
 食事の後。
 ジェニーとソフィーちゃんは、サイト更新作業でジェニーの部屋へとこもった。
 由香里姉は自分の部屋で何やら勉強中。
 鈴懸台先輩と月見野先輩は、客間で勉強かお昼寝か。
 風遊美さんと奈津希さんと香緒里ちゃんは、液晶テレビで対戦ゲーム。

 そして詩織ちゃんは、俺の部屋のすぐ外のデッキ部分で何やら考え込んでいた。
 デッキの上は一応屋根をかけているので、濡れる心配は無い。

 しかし1人で、そこで何やら考え込まれると、どうしても気になる。
 おかげで片付けようと思っていた、課題のプログラムの最適化に手がつかない。

「うーん、ルート5端点失敗クローズ。ぶつぶつ」

 時々意味の分からない言葉をつぶやきつつ、詩織ちゃんは何やら考え込んだまま。
 もう食事後30分以上そのままだ。
 せめて言葉が通じれば、相談なり何なりのってやるんだが。
 と、不意に。

「ゲット! ルート12」

 詩織ちゃんは急にそう叫ぶ。
 次の瞬間、露天風呂のぬる湯が大きく沸いた。
 気がつくと、でっかい魚がぬる湯の浴槽でばちゃばちゃやっている。

「魔法で漁業、成功なのです。でも効率最悪なのです。疲れたんで寝るのです」

 詩織ちゃんはそう言うと立ち上がり、何も説明しないまま俺のベッドに倒れ込む。
 俺は浴槽で跳ねる巨大魚と、俺のベッドで寝入った詩織ちゃんを交互に眺めて。

 何とかしてくれそうな奈津希さんに助けを求めた。
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