機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第17章 ゴールデンウィークは雨模様

77 異常な魔法とその成果

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 浴槽内の魚は、奈津希さんが冷凍魔法で締めて、中の風呂場に運びこんでくれた。

「カンパチ、随分大物じゃないか」

 俺の魔法で測定した結果、全長110cm体重22kg。
 風遊美さんによると、シガテラ毒の心配は無いとのこと。

 大きすぎて台所では捌けず、奈津希さんは風呂場で解体作業を始める。
 既に部屋にこもっていた組も昼寝組も、部屋から出てきて見物している。

「一体どうやってこんなのを手に入れたんですか」

 香緒里ちゃんにそう聞かれても、俺にはわからない、
 張本人は俺のベッドで寝ているし。

「詩織さんが寮へ帰る時に使っている魔法と、同種の方法だと思います。おそらく海から露天風呂まで、空間をつなげて魚を飛ばしたのだと思いますが、それ以上は私にも想像がつきません」

 空間系魔法に一番詳しい風遊美さんでさえ、お手上げ状態だ。

「ただどんな方法を使ったにしろ、相当な魔力を使ったのではないかと思いますわ。詩織さんは元々の魔力が大きいですので、夕方には回復して目覚めるかと」

 月見野先輩によれば、寝入っているのは単に魔力を大量に消費したせいらしい。
 何も俺のベッドで寝ることはないだろうと思うのだが。

「取り敢えず夕食は豪華にするぞ。何をやっても美味い魚だからな。刮目して待て」

「いつも料理すみません」

「良いってことよ」

 奈津希さんはノリノリ状態のようだ。

「あと修。どうせ鉄板とか工作材料は、この部屋にもストックしてあるんだろ。鍋を作ってくれ、鍋。直径34cm高さ25cm以上。蓋ありで、焦げ付き防止は必要ない。鍋の厚さは、持てる範囲で厚めに。あと鍋に合わせた落し蓋もつけてくれ」

「随分簡単に言ってくれますね」

 結構面倒というか、魔力を必要とする作業だ。

「どうせ材料はあるんだろうし、出来るんだろ」

「まあその通りですけれど」

 俺はそう返事して自室へ。
 机の裏に隠していた、1mm厚のステンレス板を苦労して引き出す。
 前に露天風呂改装に使った余りの素材だ。
 ちょいと重いが、ちょうどいい材料が他にない。

 工作機械などこの部屋には無いので、全部俺の魔法で作る。
 適当な円形に切って叩いて、底のアールは打ち出しで。

 ぐるっと縦側に板を曲げ、適当なところで切断。
 溶接ならぬ魔力接合をかけて、縁処理して取っ手をつければ鍋本体は完成。

 そのまま同じ鉄板で、蓋と落し蓋を作成。
 鉄板がぶ厚過ぎて無茶苦茶重い鍋になったが、注文通りなのは確かだ。

「鈴懸台先輩、これを台所までお願いします」

 俺は見える範囲で一番筋力がある人に、運搬を頼んだ。
 つまりはまあ、それだけ重い鍋が出来たという事だ。

 俺自身はその場で目を閉じて横になる。
 疲れた。
 魔力の残量がほとんど無い。

「おう、それにしても、使うと筋肉つきそうな鍋だな」

「厚めの鉄板使ったんで。お陰で俺も魔力切れ寸前です」
 俺の魔力は、魔法を使えない一般人と大差ない程度。
 重量物相手に本気で魔法を使うと、すぐ魔力切れになる。

「翠先輩、ありがとうございます。修、注文通りご苦労。飯出来るまで寝てよし」

 奈津希さんからOKが出た。
 では失礼して、と思った時に俺の左手を誰かが握る。
 ふっと俺の中のだるさが飛んだ。

「香緒里ちゃん、ありがとう」

 誰のおかげかは、目を開けなくてもわかる。
 香緒里ちゃんがちょっとだけ、魔力を俺に与えてくれたのだ。

 普通は魔力のやりとりなんて事は出来ない。
 俺と香緒里ちゃんの間でだけ可能な、ごくごく珍しい魔法。
 多分幼児期に、2人の記憶や思考その他が混ざり合って一緒になってしまった結果だと思う。
 実際の真相は不明だけれども。

 だるさが心地いい疲れになったところで、今度こそ俺は眠りに陥った。

 ◇◇◇

「色々な空間の曲がったところをうまく繋げて、海の中から露天風呂まで仮想のパイプを作るです。その時、中の物体が思った方向に動くよう、重力を利用して加速する部分を、最初の方に作るのがポイントなのです。
 あとはパイプの海側の出口に、私が作れる程度の空間の歪みを置いておくのです。小魚が通ると歪みで逃げられなくなって、パイプの前で右往左往してくれるです。小魚に誘われて大型で美味しそうな魚が来たら、タイミングを見てパイプの入口を開いて、中へ落とし込むです。でも1箇所だと魚が捕まらないので、さっきは15箇所作って待っていたです」

 詩織ちゃんの声が何かを説明しているようだ。
 俺は目を開けて、回りを見回す。

 既に夕食の準備が出来ていた。
 というか、俺が目を醒ますのを待っていたと言う感じだ。

「すみません。遅くなって」

「いや、ちょうどかな。これがいい感じに完成した」

 奈津希さんが巨大な塊が乗った皿を持ってくる。
 なんと、巨大カンパチの頭をまるごと煮たものだ。

「一回やってみたくてな。甘辛い味付けて作ってみた」

 他にも刺身各部位や胡麻和え、海鮮サラダと照り焼きにあら汁が並んでいる。
 相変わらず凄く美味そうだ。

 いただきますの声とともに、まずは刺身が消えていく。
 新鮮な分歯ごたえがあって、脂ものっていて凄く美味しい。
 次はまだ誰も行っていない、かぶと煮に挑戦。
 まずは下の頬肉の部分を取って、ご飯に載せる。

 凄く美味い。
 飯が進む。

 俺がかぶと煮を美味そうに食べているのを見たのだろう。
 四方から箸が伸びて、かぶと煮がどんどん解体されていく。

 俺はその隙に、今度は刺身の胡麻和えをキープして、ご飯にかけてかっ込む。
 うーんたまらん。

「奈津希さんはこういうレシピ、どうやって憶えたんですか」

「半分以上はネットさ。美味しそうな料理を見たらレシピを調べて、作れるように憶えておくんだ。日本の煮物なら味付けは大体共通だし、酢の物や和物も基本の味というのはある。それを覚えていればある程度応用は効くしさ」

 何気に細かい努力の賜物のような。
 と思ってふと気づく。

 そう言えば奈津希さんは攻撃魔法科だけど、魔力は決して大きくない。
 本来、攻撃魔法科こそ魔力が一番求められる学科だ。
 魔力が大きければ、その分一撃の威力は増す。
 単位時間あたりに使える魔法の総力も有利だ。

 でも奈津希さんの魔力は、ジェニーがBと表現したように、決して高い方ではない。
 でも攻撃魔法科4年の筆頭。使える魔法の威力も最強クラス。
 学園最強級の攻撃魔法を複数操る、弱点属性無し最強のオールラウンダー。
 魔力の平凡さとかけ離れた評価。

「おい修どうした。箸が進んでいないけれど、まだ魔力不足か」

 奈津希さんの声。
 考えている間、箸が止まっていたようだ。

 俺は取り合えず、美味い料理を食べる事を優先することにした。
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