機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第19章 好きという単語の定義域 ~夏に思った考えた~

91 夏休みの顛末

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 どの学校にもあるとは思うが、魔技高専にも夏休み作品展というものがある。
 名前こそ小中学校のものと同じだが、出展されているものが段違いだ。

 昨年は俺と同じクラスの上野毛君が、『完全自律人造人形 ダミー・オスカー』を発表して学内中の注目を集めた。
 5歳児程度の人工知能を搭載し会話が可能。
 身体は小学6年生程度の外見の美少女を男装させた状態。
 シリコンラバーを始め多種素材を活用し真に人間と見間違える程の外観と手触り。
 両手両足首表情目全部自律稼働。
 まあ歩いたりは出来ないけれど。

 ただこの作品の問題点はそこにはない。
 そこまで完全に人間に似せた自動人形の正体が、実はダッチワイフだという所だ。

 胸は勿論性器も年齢相応にして完璧な作り込み。
 行為をすればちゃんとそれに対する反応もする。
 人工知能が好意を持つように行動すればちゃんと反応も変わるし新たなサービスもしてくれるという問題の逸品だ。
 学内中の顰蹙と失笑と尊敬を集め、教授会にも採点不能と匙を投げられたあの逸品は、きっと後世まで高専の伝説として残ることだろう。

 今年は学生会の面子からも3品、出展させてもらうことにした。
 一つは俺の潜航艇。
 一つは香緒里ちゃん作の『実戦的日本刀習作 村正』。
 最後の一つは、詩織ちゃん作の『模作 童子切安綱』。
 香緒里ちゃんの村正の出来に対抗心を抱いた詩織ちゃんの意地がこもった一品だ。

 ただ、他からの評価はあまり関係ない。
 俺は久しぶりに作りたいものを作った。
 個人的にはそれだけで充分満足だ。

 ◇◇◇

 そして今、俺の前には山積みの書類。学生会の2学期初頭恒例行事、学園祭の申請書類の処理だ。
 監査担当の俺が担当する書類は、当然一番多い。

 そして会計担当の香緒里ちゃんはいない。
 詩織ちゃんとともに工房にこもっている。

 全ての原因は夏休み作品展だった。
 俺の潜航艇はそこそこ好評で、設計図もちょっといい額で売れた。
 最近は重力反転の付加魔法付魔法部品も販売しているし、それを利用した場合の設計図も付けておいたので、そこそこ量産も可能だろう。

 ただ話題になったのは日本刀の方だ。
 既に有志による品評会や投票会、そして試し切り会も実施予定らしい。学生会は関与していないけれど。

 ただ現実に刀の注文が殺到している。2人合計で既に40本を超えているらしい。
 なので2人は今日から刀鍛冶に専念中。
 仕方なく俺が香緒里ちゃん管轄の会計審査も引き受けている状態だ。

「修、本当にその書類の山は大丈夫か。何ならルイスに手伝わせるけれど」

 ルイス君は今は、風遊美さんの横ではんこ押し作業をやっている。

「大丈夫ですよ。昨年に引き続きですから慣れた作業ですしね。それよりあの刀、そんなに話題になっているんですか」

 魔法工学科3年ではそれ程の話題でも無かったのだが。

「攻撃魔法科はもうあの刀の話ばっかりさ。当日の朝ダッシュで注文予約かけたのが10人近くいたかな。近接戦の駒沢教官なんて『皆さんはあの日本刀をご覧になりましたか。私は朝一番で両方共注文を入れました。人気殺到でもう受付締め切りになっているようですね。あはははは』なんて笑っていやがった」

「一年の方で予約出来たのは1人だけだ。ただ審査魔法持ちに言わせると、実戦でも問題なく使えるし強度も斬れ味も美術館にある名刀以上だそうだ。そんなの何気なく販売するなんて、流石日本の誇る魔技高専だな」

 ふふん、って顔をする奈津希先輩。

「言っておくがこれだけ色々攻撃魔法用武器が出てきたのはここ3年のことだぜ。それまでは磨いてニスかけただけの木の杖とか鍛造しただけの短剣とかばかりだったんだ。誰かさんが伝説シリーズとか作る前はな」

 あ、昔の黒歴史が出てきそうだ。

「聖剣クラウ・ソラスと魔杖ヴァナルガンドですね。あれは画期的でした。強度もさることながら魔力導線付で、それまでの杖に較べて魔法が恐ろしい程乗りやすくなって。私も必要な時はケーリュケイオンの杖を使いますが、あれも月見野先輩用に同じ作者が作ったカドゥケウスのコピーですしね」

 昔の俺の命名センスをぶん殴ってやりたい。

「まああの作者も、今では後輩に抜かれて隠居状態ですから」

「だから後輩分も含めて、ここで審査書類をチェックしていると」

 奈津希さんの言葉にええっ、て顔をしたルイス君が俺の方を見る。
 どうやら本当に知らなかったらしい。

「EUの魔法特区にも、こんなに使いやすい魔法用具が安価に多種多様に注文できるところはありません。ルイス君もご存知ですよね」

 ルイス君は頷く。

「アンティコスティにもこんなに無いです」

 これはソフィーちゃん。アンティコスティとはアメリカ・カナダ合同の魔法特区だ。

「それは製作者がこの魔法特区に限り、パテント代無しで作成と販売を許可しているからです。それでも日本刀と同じ作りの剣や刀は本人と後輩2人しか事実上作っていませんし作れません」

「刃物についてはどう考えてもあの2人のほうが上手いけれどな」

「それも修が製法を開発して、あの2人に教えたからだろ」

「あの2人の努力と才能ですよ」

 奈津希さんにはそう返すけれど、俺も悪い気はしない。
 3年前に俺が蒔いた種は結構育っていたようだ。

 今の俺も頑張らなきゃな。当時の俺に負けないように。 
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