機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

95 学園祭が始まった

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 次の日の夕方便の書類を見て、俺は筑紫野先生が相当に頭に来ていたことを思い知った。
 ただの日本刀比較会だったイベントが思い切り直されている。
 単なる比較と試し切りだけではなく、工学的分析や日本刀の歴史的解説まで含んだ大イベントになっていた。

 試し切りには居合道の達人として有名な某氏を招聘。
 解説者に別の流派の一流の刀鍛冶。
 更に一般の有名大学の歴史学教授に、工学部教授まで招いている。

 しかもテレビ中継付。
 自称日本刀の第一人者にして一流刀工氏を、社会的に抹殺する気満々だ。

 しかもスタッフに心理操作系魔法使い青山魔技大准教授まで入っている。
 彼女は筑紫野先生の悪友というか同居人パートナーだ。

 もし誰かがでっち上げ等しようものなら、彼女のとんでもなく恐ろしい魔法が炸裂する事だろう。
 徹底して隙のない追い詰めようだ。

「筑紫野先生も大人気ないな。普通ここまでやるかい」

 今日の留守番は奈津希さんだ。
 にやにやしながら俺の渡した出展変更届を読んでいる。

「老害は人の邪魔をしないで、年金で静かに生きていればいいんですよ」

「修にもそこまで言わせるとは、よっぽどの奴なんだな」

「俺は馬鹿は嫌いですから」

 奈津季さんは笑いだした。
 何が受けているのか俺にはわからない。

「いや悪い。修が毒を吐くのって始めて見たから、つい可笑しくてな」

「魔法特区は色んな意味で選ばれた人間ばかりですからね。どうしようもない馬鹿はほとんどいません」

「まあそうだな。敵であろうと馬鹿ではない」

 何かまだ受けている。

「確かに修はこの島向きだな。20年後には学生会担当の教官をやって同じ事をするんだぜ、きっと」

「そしてマンションの屋上を露天風呂と機械のコレクションで一杯にするんですか」

「挙句の果てに養子とったりな」

 何処ぞのむさいオヤジの顔が思い浮かぶ。
 とりあえずこの件は置いておこう。
 どうせ教授会提出案件の却下なんて出来ないし。

「他にはもういい加減、変な案件は無いですね。あとはジェニーかソフィーが戻ってきたらメール関係のチェックかな」

「こっちもそろそろ初期の騒動は終わりだな。あとは開催寸前からの仕事ってところだ。あ、そう言えば江田先輩が祭り期間、島に戻ってくるって聞いているか」

 それは初耳だ。

「江田先輩って今、何をしているんですか」

 創造制作研究会前部長で無類の甘いもの好き。
 進学せず島を出たのだが、彼の情報が奈津希さんから入るとは意外だった。

「あの人も両親が魔法研究者でこの島育ちの1人でさ、昔からの知り合いなんだ。今は東京の有名洋菓子店で修行中らしいけれど、学園祭の期間だけこの島に戻ってくるって。後輩に甘味の極意を叩き込むつもりらしいぞ」

「あの人の味覚と技は誰も真似できませんよ」

 魔技高専を出て菓子職人とは何だかな、とは感じるけれど。
 でも確かに天職かもしれないと、知る人皆が思うだろうし俺も思う。

「僕も同感だな。実は前に和菓子の工程一通り、小豆を煮るのから求肥の整形まで3日間かけて教えてもらったんだ。似たような物は作れるようになったけれど、あの域までは到底無理だ」

 何か奈津季さんって、本当に色々やっているな。
 でも料理が上手い奈津季さんでも完全に真似は出来ないレベルなのか。
 市ケ尾新部長以下の面々が倒れなければいいけれど。

 ◇◇◇

 そんなこんなで、あっという間に学園祭初日がやってきた。
 今年は曜日の関係で、一週間近く学園祭の開催が早いせいもあるかもしれないが。

 今年は例年より何故か来訪者が多い。
 いつもは使わない教員宿舎や高専の寮まで、宿として使っている状態だ。
 まあそんな所に泊まっているのは他魔法特区の交流者等、半ば身内関係。
 だからあまり問題は無いのだけれど。

 ツアーで来ている豪華客船は、今年はもう3隻。
 かなり広い岸壁もいっぱいいっぱい状態。
 それでも足りずに父島から臨時連絡船も出ている状態らしい。

 飛行機も通常2往復が4往復に増便している。
 うちの学園祭も初日からとんでもない入り様だ。
 となると忙しくなるのが裏方の宿命で。

「実行委、原宿から学生会ジェニーさん宛。教室棟1-C前で迷子を発見。保護者の探知できますかどうぞ」

「学生会、ジェニー了解。母親は南階段2階踊り場付近。実行委水天班長の直近れす。身長低め髪黒色ショート、服装は水色ポロシャツにジーパンれすどうぞ」

「水天、傍受了解。該当者確認しました」

「実行委、押上から学生会執行部宛。B3区画テニス愛好会テントが調子悪いそうです。対処いかがしますかどうぞ」

「学生会、長津田了解。補修不能なら実行委の予備テントで対応お願いします。本日中に補修なり査定を行います」

「実行委、押上了解」

 まあ、ばたばたした状態だ。

 今は俺が学生会本部無線番。
 ルイス君は居合大会から改名した、滅多斬り大会の最終予選に出場中。
 ジェニーとソフィーちゃんは、取材をしながら迷子落とし物担当を兼任。
 他は視察やパトロールと称して学園祭を謳歌中だ。

「修兄お疲れ様です」

 香緒里ちゃんが戻ってきた。
 手に何か袋を持っている。

「まだまだゆっくり回ってくればいいのに」

「8日間ありますしね。これ江田先輩から差し入れ。人数分ないから今のうち」

 出してきたのは、ふんわりした感じの半生の焼き菓子。

「今いるお店で焼いたタルト・フロマージュだって」

 ふんわりしたいい香りがする焼き菓子を、俺と香緒里ちゃんは1個ずつ取る。

「あ、凄く分かりやすく美味しい」

「本当です」

 チーズ部分はチーズの味が濃厚で、ちょっと香ばしさも出ていて勿論美味しい。
 下のちょっと硬くてサクサクした土台も美味しい。

「江田先輩、和菓子だけじゃないんだな」

「心ゆくまで修行したらこの島に帰って和洋菓子店を開くつもりですって。今の修行先は有名だけれど小さなお店で、色々な事をやらしてもらって勉強になるって言ってました。研究会のお店も順調みたいですよ。
 ただ玉川先輩が研究会の厨房で放心状態でしたけれど。あと市ケ尾部長が滅多斬り大会用の藁苞製造機のメンテにかかりきりになっていて、不在でしたね」

 市ケ尾部長、さては逃げたな。
 でも特訓を受けているのが玉川先輩というのは正解だと思う。

 玉川先輩はまだ4年で来年もあるし、通称『器用貧乏』とも呼ばれる程器用だ。
 持っている魔法も材料調整とか物質加工等で江田先輩に近い。
 だからこそ江田先輩に狙われて、厳しい甘味特訓を受けさせられたのだろう。
 次世代の創造制作研の店を担う甘味職人として。

「まあ玉川先輩は壊れるのも早いけど復活も早いから心配いらないだろ。器用だし」

「そうですね」

 学生会に入らなければ俺が特訓を受けていたかもしれないし。
 事実1年の時は結構教え込まれたのだが、まあそれはそれで。
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