機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

96 俺は馬鹿は嫌いだ

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 凄く悔しそうなルイス君がいる。
 滅多斬り大会本戦のトーナメント2回戦で、運悪く鈴懸台先輩と当たってしまったらしい。
 結果は惜敗。結構接戦だったらしいのだが。

「まあ翠先輩は剣技なら5年筆頭だからな。そう簡単には落とせなくて当然だ。まあ甘いものでも食って元気出せ」

 ちなみに甘いものとは、毎度おなじみ創造制作研のどら焼きだ。
 毎日何かしら買って、売上に貢献する事にしている。
 そんな事をしなくても、充分に繁盛しているのだが。

「もし奈津季先輩が翠先輩と戦うならどうしますか」

「機動戦になると思う。お互い位置の取り合いをして、最終的に有利な距離を取ったほうが勝ち。近接戦では僕もちょっと勝ち目は薄いかな」

「先輩はそう言うけれど、僕は近接戦も割と自信があったんです」

「向こうは高機動近接格闘戦専門だろ、ルイスは必要なら空中から風魔法で遠隔攻撃も出来るじゃないか。まあ翠さんは専科決まっているからあと2年は学校ここにいるし。まだまだチャンスはあるだろ。それより、そろそろ例の日本刀比較会始まるんじゃないか」

 時計を見る。午後1時を少しまわったあたり。
 例の行事は午後1時からだから、ちょうど始まったところだろう。

「見るなら行ってきていいですよ。俺は興味ないですから」

「そう言っているけど、刀匠の爺さん焚き付けた張本人の1人だろ」

「馬鹿を見るのも聞くのも嫌いなんです。イライラして消毒したくなるんです」

 この場合の消毒とは、北斗の拳の超有名な名無し雑魚キャラが火炎放射器をぶん回して言っている方の意味だ。
 ナウシカならばクシャナ様曰く「焼き払え!」っていう奴だな。
 と、無線が入った。

「学生会長津田監査宛て。教授会から要請です。学内C2会場へ至急お願いします。繰り返します」

 C2会場とは例の日本刀比較会の会場だ。
 正直ああいう場所は嫌いだ。
 俺は人前に出る事そのものが好きではない。

 それに、特に今回は行きたくない。
 俺の嫌いな俺が出てしまいそうで。
 既に最近この件ではちらちら表に出てしまっているが。

「奈津季さん、無線で『やだよ』とふいておいえ下さい」

 俺はそう言って立ち上がる。

「本当にそう言っていいのか」

「残念ですが行きますよ。嫌ですけどね。香緒里ちゃんや詩織ちゃんが被害にあったら可哀想ですから」

「学生会宮崎台からC2会場へ。監査殿がそっちに向かった。危険触れるなどうぞ」

 奈津希さんには完全に俺が不機嫌モードに突入している事がばれている。
 正直このモードの俺は自分自身好きじゃない。
 でも。

 正直歩くのもたるい。
 学生会室から一番近い出口から出て、すぐそこの工房に停めてある例の簡易潜水艇に乗り込む。
 乱暴に空中に浮上し、校舎挟んで反対側のC2会場へふっ飛ばした。

 会場の何処へ行けばいいかはすぐにわかった。

 顔見知りの実行委員が空中の俺に向けて手招きしている。
 事故らない程度に急降下して着地。カードキーを外しハッチを上に開いて降りる。

「あの刀匠の爺さんが工房の責任者を出せと煩いんです。香緒里さんが代わりに出ようかと言って風遊美さんに止められている状態です」

「ありがとう」

 俺は実行委員の池尻君に礼を言って、中央の方へ向かう。

「それでは、この学園でこの刀を作っている工房の責任者が到着したようです。一言お願いします」

 いきなりマイクを渡される展開だ。
 そして俺は滅多に入らないスイッチが入った状態になっている。
 勿論マイクのスイッチのではない。

「はじめまして。この刀を作った工房の学生側責任者で魔法による製造法を開発した長津田と申します。この学校の特性上、実用品としての刀の製造を心がけています。学校内の皆様はご存知と思いますが、私は学生会役員を兼ねておりますので、学園祭中はそれなりに多忙です。なのでここに来る予定は全くありませんでした。
 そもそも物作りをしている者としての成果は、上辺の言葉ではなく作り出したモノで語るべきだと思っています。なのにわざわざ呼び出して頂いたという事は、さぞや私の驚くようなモノが、モノとしての存在で語ってくれるという事でしょう。それを本日は楽しみにしたいと思っております」

 いかんいかん、丁寧だけど棘まみれな言葉が自動で出てしまう。
 俺は軽く礼をして、進行担当にマイクを返す。

 貴賓席の近く、先生方の横にわざとらしく空いているパイプ椅子がある。
 そこに座れと言う事だろう。
 俺はそこに着席して周りを観察する。

 どうやら中央に解説や試し切り等をする来賓を置き、向こう側に例の自称刀工派、こちら側に当高専側が位置しているようだ。
 そしてカメラ等の取材陣の場所と観客席。

 観客席の方に風遊美さんと香緒里ちゃん、詩織ちゃんの姿も見える。
 どうやら耄碌爺らの被害にはあわなかったようで何よりだ。

 これを企んだ元凶の1人に違いない筑紫野先生がにやにやしてこっちを見ている。
 いいだろう。今はあんたの思惑と挑発にのってやる。

 すぐに試し切りに入るかと思ったが違った。
 先に日本刀の歴史と、工学的な解説が入るらしい。
 本土の有名大学の歴史学の教授が、まずは日本刀の歴史を時代毎の特徴や有名人等の逸話を交えながら解説していく。
 流石筑紫野めだぬき先生が選んだだけあって、話も面白いしわかりやすい。
 ついつい俺も真面目に聞いてしまう。

 続いて工学部教授の方の番になる。今度は工学的立場からの日本刀の解説らしい。
 一般的な日本刀の構造から時代毎の変化、そして魔法機器で本日比較する日本の刀の内部構造を解析した結果まで解説している。

 俺が見る限り、詩織ちゃんの作った方の出来はかなりいい。
 3種の鋼を特性毎に上手く使い分け、かつ全てが完全に一体化している。

 対する自称刀工さんの方の出来は、お世辞にもいいとは言えない。
 例えば部材がきちんと接合していない部分が見られるとか。
 細かな泡状のスラッグすら、確認できる場所がある程だ。

 それがわかったのか単に気に触るだけなのか、自称刀工氏が文句を言い始めた。
 だんだん声量が上がってきて、ついにはマイクで勝手に喋り始めた。
 教授も解説を止め、困ったような顔をしている。

「……だからこのような物は日本刀と言える代物ではない。日本刀とは長年の修行を積んだ刀工の元で拵えてこそ日本刀と呼べるのだ。それ以外のものはまがい物。おい聞こえているかそこの生意気な若造」

 俺を呼んでくれたようだ。
 ちょうどいい。解説中の大学教授殿に手を上げて軽く頭を下げて、手回しよく進行担当が持ってきたマイクを握る。

「住吉教授、申し訳ありません。大変参考になる話に聞き入っていたところですが、残念なことに良貨が悪貨に駆逐されてしまったようです」

 会場に微妙な笑いが起こる。

「私の工房で造るのは実用品です。使えれば名前なんてどうでもいい。ですが私が開発した製造法も製品も、いわゆる名刀と呼ばれる日本刀の作りと機能に感銘を受けて、その作りと機能を模して造るのから始まったのは確かです」

 一応日本刀そのものについては、ここで持ち上げておく。

「ですので先生の話も、大変に興味を持って聞かせていただいたですが、このような事で途切れてしまって大変残念に思います。さて、ここはまず、そちらの方がそれ程自信をお持ちの自称日本刀と、こちらの工房で作りました刀を実際に試して頂き、その上で再び御高説を賜りたいと存じます。私はあくまで物作りの徒ですのでそれ以上の意見は申しません。作り出したモノこそが私の回答であり真実です」

 俺の台詞中も例の刀工氏は色々言っていたらしい。
 ただしどうやら、マイクを切られていたようだ。
 俺はもう一度軽く頭を下げ、進行担当にマイクを返す

「それでは実際に試し切りをして頂きましょう。試し切りをして頂くのは……」

 どうやらやっと実技に入るらしい。
 高速度カメラが正面と左右にセットされる。
 これは斬れ味の確認の他に、もう一つ意味がある。
 試し切りをする側が不正をしないようにという配慮だ。

 まずは詩織ちゃん作の刀の方。
 俺はすこしはらはらしつつも、努めてそれを表に出さないようにして観察する。

 刀の出来には自信がある。
 でも試し切りをする居合道の達人さんの方の腕を俺は知らない。

 だがその心配は杞憂のようだった。
 構え方だけでも本物というのは感じる。門外漢の俺であってもだ。

 軽く構えて、すっと前に出るとともに刀が袈裟懸けに振り下ろされる。
 あっさりと巻かれた畳表が切断された。

 完全に刀が切り終わって暫くしてから、斬られた上半分が動いて落ちる。
 見事な技だ。
 と、居合家がマイクを取った。

「このまま竹入り1畳巻き7本を試させてもらっても宜しいだろうか」

 竹入り1畳巻き1本が人の首とほぼ同等。
 俺が念のため試し切りについて調べた際にそう書かれていた。

 ならば竹入り1畳巻き7本、骨のある人の首7つ分か。
 結構難しそうだなと思いつつも、俺はそれを態度に見せずに渡されたマイクを握る。

「問題ありません。その刀は実用品です」

 俺の返事は、詩織ちゃんの刀への絶大なる自信と、居合家さんへの挑発だ。
 お互いのプライドのぶつけ合い。

 それをわかってくれたのだろう。
 初老の居合家さんは戦闘的な笑みをこっちに返しつつ一礼する。

 そして並べられた7本の竹入り1畳巻き。
 単に土台の上にのせただけ。
 だからちょっとでも余分な衝撃が伝わると畳表が倒れたり飛んだりしてしまう。
 だが、先程の腕ならおそらく。

 今度は居合家は大きく振りかぶる。
 戦闘というより純粋に試し切りの為だけの大きな構え。
 そして彼は一歩踏み出すとともに、刀を振り下ろした。
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