機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

文字の大きさ
98 / 202
第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

97 予見できた結果とその後始末

しおりを挟む
 端の2本が倒れた。
 ただ居合家は笑みを浮かべている。

 カメラが近寄って結果を確認。7本全てが見事に切れていた。
 居合家は刀を収めてマイクを持つ。

「これ以上の試し切りは必要ない。何と呼ばれようとこの刀は本物だ」

 俺は彼に軽く頭を下げる。
 彼の技に、最大限の敬意を込めて。

 そして今度は自称刀工氏の刀の試し切りに入る。
 まずは竹なし1畳巻からだ。
 先程と同じようにあっさりと畳表は2つになる。

 だが、居合家の顔は浮かない。
 彼はマイクを取る。

「失礼、この刀だがこれ以上の試し切りは私はしたくない」

 例の刀工が喚くのが一段落するまで、居合家は辛抱強く待つ。

「何故消極的になるかと言うと、この刀は切った瞬間の響きに濁りがあるように感じるからだ。何度も使うかあまり固いものを切ると、刃体が折れる危険性がある。 それでも宜しければ竹入り1畳巻きで先程と同じように試させて頂く。それでよろしいか」

 再び刀工が喚くのを、了承と取ったのだろう。

「それでは試し切りをさせていただく。ただカメラは先程の刀を使った時と同じ配置で、そして人は出来るだけ離れていて欲しい」

 その意味がわかったのだろう。見物人がわっと距離を取る。

 喚き散らしている刀工を無視し、居合家が構える。
 大きな構えからの強烈な斬撃。

 金属質の響きを残して倒れる畳表。
 折れた刀と地面で回転した刃先。

「私の腕とこの刀では、残念ながらここまでだ」

 それだけ言って他は一切弁解せす、彼は自分の席に戻る。
 そして喚いている刀工氏を無視したまま、ビデオ解析が始まった。

「まずは両方の刀の畳表1畳巻きの時のモーションを半透明に重ねてみましたが、見事ですね。全く揺らぎ無く同一の速さで同一の動きをしています」

「ならば問題は7本切りの方ですね」

 こちらも半透明に重ねて、動きを検証する。

「こちらの刃が1本めの中央を過ぎた時点ですね、ここで既に畳表の動きと刃先の動きの違いが出ています。手元から畳表手前の刀は同一位置ですから、ここで刀本体に異常が生じたと考えられます」

「それでは別方向のカメラでも検証してみましょう」

 どうせどう検証しても同じだ。
 俺には刀が折れた原因がわかっている。
 当然解説をしている住吉教授も、わかっているだろう。

 紙とか藁とかわかりやすいものの斬れ味を良くするためだろう。
 刃先に使う硬くて折れやすい鋼を多く使い過ぎている。
 確かに研いだ時の見た目も良く簡単な物は良く切れるようになる。
 しかしその分折れやすい。

 しかも素延べと火造りの時の温度調整に失敗している。
 それぞれの鋼の接合面の一部に、泡状になった部分が内部に出来てしまっているのだ。
 叩いて磨いて表面上は誤魔化してあるけれど。

 実はこのあたり、工学部住吉教授が事前に解説しかけていたのだ。
 当の刀工氏は喚いていて聞いていなかったようだが。

 なお例の刀工氏は、会場から姿を消している。
 流石に見苦しいと、来賓として招いた日本刀関連の協会のお偉方から一喝どころでない説教があったのだ。

 という訳で、そろそろ色んな意味で頃合いだ。
 最後にという形で俺にマイクが回ってきた。
 さあ、片付けよう。

「さて、本日色々試して頂いたのですが、これは決して従来の日本刀とこの魔法特区で作った日本刀の優劣という問題ではありません。何処で作っても質の良い物はあるし、そうでない物もある。それ以上でもそれ以下でもありません。加えて伝統的な日本刀の製法は、ここで使っているような魔法技術も科学技術も使用せず、それでいてここの刀と同等以上の強度なり実用性なりを持っている。それは周知の通りであります。ここの刀も日本刀の伝統的な製法なりその結果として残っている名刀なりを持てる技術を総動員して分析し解析して作り上げたものです。まずは伝統的な日本刀あっての物だという事をどうぞ理解していただきたい」

 この辺は持ちつ持たれつよいう奴だ。
 此処から追い出された馬鹿にはわからないだろうが、この世界にはそれなりの礼儀と作法がある。
 あと有害な老害がいなくなったから、これも話してしまおう。

「そして最後に。お恥ずかしい話ですが、確かに工房の責任者は私で製法を開発したのも私。ですが本日お目にかけた刀は私の作品ではありません。工房には2人の後輩がおりましてどちらも私より腕がいい。なので刀に関しては後輩に任せきりになっております。下手な先輩より上手な後輩が作った方がよっぽどいいものに仕上がりますし使っていて安心できますから。という訳で伝統的な日本刀の技術に対する最大限のリスペクトと先輩としての恥ずかしい事実をもって、私の話は終わりにしたいと思います」

 我ながら良く口が回るなと思う。
 でもまだスイッチが入った状態なので仕方ない。
 会場に軽く一礼して、俺は自分の椅子に戻る。
 最後に来賓の誰かからありがたい言葉を頂いて、拍手とともにイベントは終了。

 そして俺のスイッチが切れた。
 途端に強烈な自己嫌悪が襲ってくる。
 最後の力を振り絞って簡易潜航艇に駆け乗り、一気に上昇して現場を離脱。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...