機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第20章 世を思ふゆえに物思ふ身は

98 豆大福は涙味

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 今日の予定はもう大したものは無い筈。
 なのでいつもの工房には向かわない。
 校舎の裏側の実習教室棟横に、俺は潜航艇を停める。

 このあたりは学園祭では使っていないので、人通りはほぼ無い。
 喋るのもちょっと辛い状況なので、SNSで学生会役付き4人連絡。

『疲れたので引きこもります。真に必要な場合は出てきますので放置推奨』

 そして俺は人気の無い実習教室棟へ。
 一番手前の部屋を久しぶりに使う合鍵で開ける。

 此処は第1工作室、1年以上ご無沙汰していた昔の俺の本拠地だ。
 いろいろな意味で懐かしい。
 扉の鍵を閉め、俺は昔の定位置だった作業台前の席へ。

 座ると同時に押し寄せてくる自己嫌悪。
 怒りに任せた勢いと調子よさと詭弁に対する猛烈な嫌悪感。

 ああもう駄目だ、死にたい。
 このまま消えたい。
 これから会う人の目が怖い。

 出さないようにした隠してきた実際この学校へ来てから出なかった俺の嫌な性格。
 久しぶりに大勢の前テレビ収録付でやらかしてしまった。
 どうしようもうやだかんべんしてきえたいきえさりたいしにたい……

 どれくらいそうしていただろうか。
 ふと俺は、音に気づいた。
 扉の方からガチャリという、おそらくは鍵を入れて回す音。

 誰だろう。学園祭で使用しないこの部屋に立ち入ろうとする奴は。
 隠れようかと思う心。もうどうでもいいやという心。
 相反し多分、俺の反応は遅れる。

 その間に扉が開いた。

「私よ」

 この声は知っているし聞き覚えもある。
 由香里姉だ。間違いない。

 何故魔法工学科しか使わないこの部屋の鍵を、由香里姉が持っていたのだろう。
 そして何故、この場所に俺がいるという事に気づいたんだろう。

 由香里姉は俺の横に座ると、持っていた何かをテーブルの上に置く。
 何を置いたのか、俺は突っ伏したまま顔を上げていないので見えない。
 ただ、何か甘い匂いがするような気がする。

「この場所は香緒里に聞いたわ。鍵も香緒里が持っていた」

 由香里姉の、静かな調子の声が響いている。

「今日は私の方が適任かなって言って、この部屋の事を教えてくれて、鍵も渡してくれた。学生会室を出ようとした時、卒業した筈の創造製作研究会の前部長が紙袋を持って学生会室の前に来た。今頃修の奴は落ち込んでいるだろうから、こいつでも食べてちょっとは落ち着けと言ってくれって、この紙袋を託された」

 俺は少し顔を上げて、机の上を見た。
 由香里姉が紙袋から出して並べてくれているのは、江田先輩謹製の豆大福。

「だからこれから言うのは、私からというより、学生会室に修を探しに来た全員からの伝言よ。 香緒里や江田先輩だけじゃない。翠や朱里や風遊美や奈津季や香緒里やジェニーや可愛い1年生3人や、研究会の先輩君や実行委員男子や多分同じクラスの子だと思う男子生徒2人の」

 学生会の全員に、江田先輩。
 学祭実行委員というのはきっと池尻君で、クラスメイトとは等々力君と上野毛君か。
 それっと事実上、俺の関係者ほぼ全員に近いんじゃないだろうか。
 創造製作研究会の現部員と先生方を除いた。

「みんな修を知っている人は気づいてたんだと思う。どれだけ修が嫌な思いをしてあの会場にいて、どれだけ無理をしてああやって強面な態度を取り続けたか。自分が怒っているというより、むしろ刀を作った香緒里と詩織ちゃんのためよね」

 いや、きっとそれは違う。

「あれが俺の本性ですよ。逃げても隠しても必ず出てくる嫌な嫌な奴こそが」

「あの状態の修、私が最後に見たのはもう10年位前かしらね。確か香緒里が4年の時、魔女の癖にお高く止まっているって虐められかけた時」

 古傷がパックリと出血した。
 何せ由香里姉、俺の昔の事はほとんど知っている。
 今更隠し様がない。

「でもそれが修の本性だとしても、それでも私を含めて少なくとも今言った全員は、修の言葉も行動も全部肯定してくれると思うわ。あの時の私だって香緒里だってそう思っているし、今の事だってそう。だからこそ心配で皆わざわざ学生会室に顔を出したんだし、ジェニーにわざわざ修の居場所を探してもらおうとしたんだし」

 そんな事があったのか。
 俺は一方的にSNSで連絡してここへ引きこもったから、知らなかった。

「でもジェニーにも、今の状態の修の居場所はわからなかったわ。だいぶ精神的にまいっていて通常の思考と違う状態だからわからない、って言っていた。この場所がわかったのは香緒里と、あとこの大福を持ってきてくれた先輩の2人だけだったわね」

 ジェニーすら追えない位に思考が乱れていた訳か、俺は。
 確かにそうかもしれない。それくらいに参っていた、さっきまで。

 そして香緒里ちゃんと江田先輩には、俺の居場所がばれていたと。
 まあ俺がこの学校で逃げられるとしたら、学生会室以外にはここしかない。
 だからあの2人なら、気づいて当然かもしれない。

「だから私は修に、皆と私からの伝言を伝えるわ。『修が自分の言葉や行動をどう思っていようと、私達は修がやったことを全部肯定する。修が取った言動は正しいと私達は思っているし、修自身がどう思おうと修のことを信じているし信頼している。だからちょっと疲れた分ゆっくり休んで、そしてまた変わらぬ顔で出てきなさい』以上よ」

 由香里姉は立ち上がる。
 足音が俺の横から離れていった。
 扉が開き、そして閉まる音。
 鍵をかける音。

 全ての音が去った後で、俺は目の前の豆大福を手に取る。
 豆大福は、何故か少ししょっぱい味がした。
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