機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第28章 心なき身にもあはれは知られけり~秋・俺の学生会で最後の学園祭~

143 君は全部知っている

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 エリカさんと風遊美さんは、少し相談。
 そして風遊美さんが、俺に尋ねた。

「修さんごめんなさい。わかるように丁寧な種明かしをしていただけますか」

 さあ、勝負だ。

「ええ。クリスマスの夜、俺と風遊美さんと香緒里ちゃんで夜に軽く宴会をしましたよね」

 何か言いかけた香緒里ちゃんを手で制す。

「ええ、憶えています」

 エリカさんとの会話が途中で挟まる。
 どうやら同時通訳しているようだ。
 こっちにとっても好都合なので、そのままにする。

「香緒里ちゃんと合流する少し前、風遊美さんは言いましたね。こんな幸せでいいのかって」

 再びエリカさんと短く会話した後、風遊美さんは頷く。

「確かにそんな事を言ったような気がします。でも、それで」

「その時の事をよく思い出してください。その時風遊美さんはこう言いましたね。でも時々思うって。目が覚めたら全部夢で、私も風遊美じゃなくてテオドーラのままでって」

 風遊美さんがふっと顔をしかめる。
 とっさに支えたエリカさんが俺の方を睨む。

 でもまだだ。まだ俺は動揺してはいけない。
 鬼のように冷静でなければならない。この先が仕上げなのだから。

 2人に見えないように香緒里ちゃんを手で制しつつ続ける。

「あの時の文脈からして、テオドーラというのは逃げていた時代の名前だと思いました。でもさっきの話では特区時代の名前だという。だとすると可能性はひとつしかありません。どっちの名前もテオドーラ。勿論それは偶然じゃない。きっとそれはエリカさん達の愛情なんです。いつか最初の名前も思い出せるようにという愛情と、生まれた時に貰った名前を大事にしてほしいという愛情の」

 俺自身の感情がヒートしそうになるのを、何とか抑える。
 俺はあくまで冷静に話さなければならない。

「そして風遊美さんは無意識のうちにその名前を出しました。こんなに幸せでいいかなと言いながら、ふっと無意識のうちにその名前を出した。
 だから俺は思います。風遊美さんはきっと忘れていない。名前と同じように家族のこともきっと全部覚えているんです。そしてきっとその記憶は痛みを必要としなくなった時、本当に幸せだと疑わなくなった時にきっと出てきてくれるんです。
 焦る事も無ければ悲しむこともない。風遊美さんが幸せになれば、思い出せるんです。ふと名前が出てきた時のように」

 さあ、俺のカードは全部出した。
 勝負は成功か失敗か。

 香緒里ちゃんへの制止指令は解除した。風遊美さんの反応はどうだ。

 風遊美さんはエリカさんと話し始める。ちょっと長い。
 たぶん今のやり取りを説明しているのだろう。
 そして。

「修さんは怖いですよね」

 風遊美さんは、少し涙ぐみながらも笑う。

「目の時もそうですけれど、本人が隠し通していることや気づいてさえいない事に、あっさり気づいてしまうから」

「基本的には鈍いんですよ。よくそう言われますし」

 良かった、少なくとも失敗はしなかったようだ。

「でもそんな怖い修さんの言っている事ですから、きっと正しいんでしょうね。だったら私はもっと幸せになるように努力すればいいんですね。全てを思い出すために」

 良かった……
 そう思うとともにどっとくる疲れ。

 元々俺は、弁舌達者な方ではないのだ。
 そういう普段使わない部分を使うと、当然副作用が出てくる訳で……

「という訳で、ここで俺に7分程時間を下さい」

 そう言って俺は立ち上がる。

「どうしたの、修兄」

「ちょっと出てくる。すぐ戻る」

 そう言って俺は、有無を言わさず歩きだす。
 皆が行動を起こす前に部屋を出て、扉を閉める。

 まだ逃げるわけではない。
 ちょっと出て戻ってくるだけだ。
 階段降りて外出て工房に入り、俺のロッカーから目当ての物を取り出して学生会室に戻るまで大体7分。
 もっともらしく学生会室の扉をノックする。

「長津田です」

「もう……」

 香緒里ちゃんのそれは、許可と判断して扉を開ける。
 入った勢いのまま、風遊美さんとエリカさんの前へ。
 工房から持ってきた2本の魔法杖を2人の前に置く。

 生命のテュルソス最終バージョン、外科用と内科用の量産先行試作品だ。
 2本ともこのままでは性能が高すぎて、一般相手に市販出来ない。
 だから市販に回したのは、この杖をデチューンしたもの。
 でも相手がわかっているなら譲渡してもいいだろう。

「風遊美さん翻訳して下さい。『あなたの大事な風遊美さんを散々振り回したお詫びとして、粗品ではありますがお詫びの品をお持ちしました。どちらか気に入った方をご査収ください。以上』」

「えっ」

 そう言いつつも翻訳を始める風遊美さんを確認。
 次は香緒里ちゃんだ。

「香緒里ちゃんごめん。ちょっと要件があるから出かける。次のシフトには戻るし何なら無線連絡入れて。じゃあよろしく」

 そして今度こそ、俺は問答無用で脱走する。
 そろそろ副作用が始まりそうだから。

 でも真っ直ぐ第1工作室に逃げるのも芸がない。
 なのでちょっと寄り道をしていく。
 そして俺が寄り道できる場所もそれほど多くない訳で……

 本日2度目の創造製作研究会の売店だ。
 そしてお目当ての人間は直ぐに見つかった。
 例によってキッチン側で休憩している。

「どうした長津田。微妙に景気悪そうな顔しているな」

 江田先輩だ。

「こっちは景気良さそうですね」

「まあな。半分以上は玉川が出来るようになったしな」

「玉川先輩ももう卒業ですけどね」

「それでちょっと困っているんだ。次は誰を鍛えようか」

 あたりの空気が凍ったような気がするが、俺には関係ない。

「去年の豆大福のお礼です。問答無用で受け取って下さい」

 まともに喋れるうちに、例のボールペン型魔法の杖を渡す。

「えっ……おい、こんな物いいのか」

 流石検定魔法持ち。すぐ気づいたようだ。

「問答無用。当方オーバーヒート中で説明にリソースさけません」

 不意に江田先輩はにやりと笑った。

「長津田、お前またやり過ぎたな」

「やりきった、ですよ」
 そう応えつつ俺は思う。

 相変わらず俺が何も言わなくても、俺の状態を把握しやがる。
 これだから江田先輩には、1年の時から頭が上がらないのだ。

「お前のやりきったはやり過ぎたと同義語だろ。全く」

 そう言って江田先輩は、横の戸棚から小さい紙包みを取って俺に渡す。

「お前のやりきったとやり過ぎたは同義語だからな。悪いが俺はお前のその辺を、お前以上によく知っている。
 だから今はこれでも食って独りで少し頭を冷やしてこい。甘いものでも食べて冷静になれ。多分やり過ぎた以上の成果に気づく筈だ。その成果を誇ってもいい気分になれたら、戻ってまた後輩の面倒を見てやれや。
 大丈夫、何回でも言うがお前のやり過ぎたとやりきったは同義語だ。だから冷静になれば弊害の数倍以上の成果があった事に気づける筈だ。それは俺が保証してやる」

 じゃあまあ、今回も言葉に甘えさせてもらおう。

「ではこれ、頂いていきます」

「おう、さっさと出て行け」

 俺は創造製作研究会の売店を離れ、今度こそ第1工作室に向けて歩きだした。
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