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第28章 心なき身にもあはれは知られけり~秋・俺の学生会で最後の学園祭~
142 あなたの名前は
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この時間おすすめという豆大福を20個買って、学生会室へ急ぐ。
人混みが無い場所になってからは、駆け足で。
学生会室の前でちょっと息を整えて、それからノックを3回。
「長津田です」
「どうぞ」
香緒里ちゃんの声。
俺は扉を開け、そして一瞬閉めかける。
風遊美さんが泣いているのが見えたから。
でも入るべきでないなのら、香緒里ちゃんがどうぞと言う訳はない。
なので思い切って入って、後ろ手で静かに扉を閉める。
こそっとソフィーに豆大福の袋を渡し、お茶菓子出しを頼む。
そして俺はこそこそと大回りして、香緒里ちゃんのいる無線指令台の方へ。
状況はあえて聞かない。
少なくとも風遊美さんの涙が、悲しみとか負の方向のものではないと感じたから。
ただ、場所を運営本部からここに移しておいて正解だったな、と思う位で。
幸いここの当番は香緒里ちゃんの後は俺。
次の番の詩織ちゃんが来るのは1時過ぎだ。
今は10時ちょっと前なのでまだ時間はある。
幸い無線もちょうど入らない。
なので今は風遊美さんが、泣いているままに任せる。
◇◇◇
暫くして、風遊美さんとエリカさんの会話が始まった。
ソフィーと話していた言葉と違う感じだから、こっちはドイツ語かな。
勿論俺には意味はわからない。
なので聞き流しながら、香緒里ちゃんが入れてくれた紅茶とソフィーに配ってもらった豆大福を食べる。
うん、やっぱりホワイトデーに俺が作ったものと比べて、あんこの味が数段上だ。
残念だけど。
と、その時。
「皆さん、宜しいでしょうか」
風遊美さんの声。
俺達は風遊美さんの方を向く。
「遅れましたけれどここで紹介させてください。この人はエリカ・ローラ・カストナー、EU魔法特区の魔法医療科専攻の大学院生です」
名前に微妙に聞き覚えがあるな、と思ってふと気づく。
ついさっき聞いた風遊美さんのEU時代の名前と、ミドルネーム以降が同じだ。
とすると。
「エリカは5歳の頃、行き倒れていた私を見つけて助けてくれた人です。当時、ヨーロッパでは魔法に対する偏見から『魔女狩りの再来』とも呼ばれた魔法使いに対するテロが多発していました。私の家族も、恐らくはその被害者です。ただ発見された時にはボロボロの私一人だけだったそうですし、それ以前の記憶は思い出せないままです。だから私の家族については何もわからないのですけれど」
このあたりの内容は、俺は聞き覚えがある。
「私はカストナー家に引き取られ、EUの特区内での学校に通うことになりました。安全のため学校近くの寄宿舎に住むことになったのですが、同じ寮にいたエリカに何から何までお世話になった事は今でも憶えています。時々の休暇はエリカの実家にお世話になったりもしました。
ただ私は当時酷いPTSDの症状がありました。EUの特区は日本と違い地続きです。だからよくテロの爆弾騒ぎ等があったりしました。その為か私の症状が好転することはありませんでした。でもあの頃、パニック状態になっている私をエリカがずっと抱きしめてくれていた感触は今でも憶えています。
結局、環境の全く異なる日本の特区に行ったほうがいいのではないかという話が出た際も、エリカのお父さんの知り合いに紹介状を書いてもらい、わざわざその方に迎えに来てもらって……本当はエリカの事も大好きだったし凄くエリカの家にお世話になったのに……」
声が涙声になり、途切れる。
エリカさんを含む俺達は、風遊美さんの言葉を待つ。
「だから私は日本に来てからも、実はずっと心残りがありました。エリカとエリカの家に一方的にお世話になったまま出ていった事が、ずっと心に引っかかっていました。だからここでエリカに会えて……やっと。やっと最後の心残りがなくなりかけた気分です」
風遊美さんはそこで大きく息をつく。
ふと、俺はある事を思い出した。
風遊美さんの今までの話と過去の話、そして今の話で、ほんの少しだけの疑問点に気づいてしまったのだ。
そしてこれは多分、危険な話題。きっと口にしないほうが正解だ。
ただ……
「修さん、何か言いたそうな顔をしていますね」
風遊美さん本人に気づかれてしまった。
そう、風遊美さんは勘がいい。
どうしよう。少しの時間だけれど物凄く色んな事を考えて、そして俺は決意する。
「まず香緒里ちゃん、もし危険な状態になったら容赦なく本来の魔法を使って。責任は取れないけれど俺が全部持つ」
香緒里ちゃんは何も理由を聞かずに小さく頷く。
そして。
「風遊美さんにお願いがあります」
「何でしょうか」
「これから俺が言う事を翻訳して、エリカさんに聞いてください。いいですか」
「ええ、大丈夫です」
本当に大丈夫だろうか。正直俺自身、賭けだと思っている。
でもここまで出てしまった以上、多分後に引かない方がいい。
だから言う。
「風遊美さんの名前、風遊美さんが思い出せないという以前の名前を、エリカさんは知っていますね、イエス・ノーだけで答えてください」
風遊美さんの顔がさっと強張る。
「何故それを修さんが……」
「あくまで、イエス・ノーで答えてもらってください」
ここからは俺の賭けだ。
ただ風遊美さんが持っている、香緒里ちゃん制作の幸運のペンダントが、何故か俺を励ましてくれているような気がする。
だから俺はあえて暴走する。
風遊美さんはエリカさんに、俺のわからない言葉で問いかける。
彼女は少し困ったような顔をして少し考え、でも確かにある返事をする。
ドイツ語がわからなくても、その返事が何を意味しているかくらいは俺にもわかる。
「では次の俺の言葉を直訳してください。『だからあなたは、私をテオドーラと呼ぶのですね』」
さっとエリカさんの表情が変わった。
翻訳しなくても意味が伝わったらしい。
強張って、困惑して、落ち着いた表情に戻って。
そして風遊美さんに何か語りかける。
「何故それがわかったのですか、と聞いています」
「冬休みに風遊美さん自身から聞いたんです」
ここからが仕上げだ。
失敗は許されない。
人混みが無い場所になってからは、駆け足で。
学生会室の前でちょっと息を整えて、それからノックを3回。
「長津田です」
「どうぞ」
香緒里ちゃんの声。
俺は扉を開け、そして一瞬閉めかける。
風遊美さんが泣いているのが見えたから。
でも入るべきでないなのら、香緒里ちゃんがどうぞと言う訳はない。
なので思い切って入って、後ろ手で静かに扉を閉める。
こそっとソフィーに豆大福の袋を渡し、お茶菓子出しを頼む。
そして俺はこそこそと大回りして、香緒里ちゃんのいる無線指令台の方へ。
状況はあえて聞かない。
少なくとも風遊美さんの涙が、悲しみとか負の方向のものではないと感じたから。
ただ、場所を運営本部からここに移しておいて正解だったな、と思う位で。
幸いここの当番は香緒里ちゃんの後は俺。
次の番の詩織ちゃんが来るのは1時過ぎだ。
今は10時ちょっと前なのでまだ時間はある。
幸い無線もちょうど入らない。
なので今は風遊美さんが、泣いているままに任せる。
◇◇◇
暫くして、風遊美さんとエリカさんの会話が始まった。
ソフィーと話していた言葉と違う感じだから、こっちはドイツ語かな。
勿論俺には意味はわからない。
なので聞き流しながら、香緒里ちゃんが入れてくれた紅茶とソフィーに配ってもらった豆大福を食べる。
うん、やっぱりホワイトデーに俺が作ったものと比べて、あんこの味が数段上だ。
残念だけど。
と、その時。
「皆さん、宜しいでしょうか」
風遊美さんの声。
俺達は風遊美さんの方を向く。
「遅れましたけれどここで紹介させてください。この人はエリカ・ローラ・カストナー、EU魔法特区の魔法医療科専攻の大学院生です」
名前に微妙に聞き覚えがあるな、と思ってふと気づく。
ついさっき聞いた風遊美さんのEU時代の名前と、ミドルネーム以降が同じだ。
とすると。
「エリカは5歳の頃、行き倒れていた私を見つけて助けてくれた人です。当時、ヨーロッパでは魔法に対する偏見から『魔女狩りの再来』とも呼ばれた魔法使いに対するテロが多発していました。私の家族も、恐らくはその被害者です。ただ発見された時にはボロボロの私一人だけだったそうですし、それ以前の記憶は思い出せないままです。だから私の家族については何もわからないのですけれど」
このあたりの内容は、俺は聞き覚えがある。
「私はカストナー家に引き取られ、EUの特区内での学校に通うことになりました。安全のため学校近くの寄宿舎に住むことになったのですが、同じ寮にいたエリカに何から何までお世話になった事は今でも憶えています。時々の休暇はエリカの実家にお世話になったりもしました。
ただ私は当時酷いPTSDの症状がありました。EUの特区は日本と違い地続きです。だからよくテロの爆弾騒ぎ等があったりしました。その為か私の症状が好転することはありませんでした。でもあの頃、パニック状態になっている私をエリカがずっと抱きしめてくれていた感触は今でも憶えています。
結局、環境の全く異なる日本の特区に行ったほうがいいのではないかという話が出た際も、エリカのお父さんの知り合いに紹介状を書いてもらい、わざわざその方に迎えに来てもらって……本当はエリカの事も大好きだったし凄くエリカの家にお世話になったのに……」
声が涙声になり、途切れる。
エリカさんを含む俺達は、風遊美さんの言葉を待つ。
「だから私は日本に来てからも、実はずっと心残りがありました。エリカとエリカの家に一方的にお世話になったまま出ていった事が、ずっと心に引っかかっていました。だからここでエリカに会えて……やっと。やっと最後の心残りがなくなりかけた気分です」
風遊美さんはそこで大きく息をつく。
ふと、俺はある事を思い出した。
風遊美さんの今までの話と過去の話、そして今の話で、ほんの少しだけの疑問点に気づいてしまったのだ。
そしてこれは多分、危険な話題。きっと口にしないほうが正解だ。
ただ……
「修さん、何か言いたそうな顔をしていますね」
風遊美さん本人に気づかれてしまった。
そう、風遊美さんは勘がいい。
どうしよう。少しの時間だけれど物凄く色んな事を考えて、そして俺は決意する。
「まず香緒里ちゃん、もし危険な状態になったら容赦なく本来の魔法を使って。責任は取れないけれど俺が全部持つ」
香緒里ちゃんは何も理由を聞かずに小さく頷く。
そして。
「風遊美さんにお願いがあります」
「何でしょうか」
「これから俺が言う事を翻訳して、エリカさんに聞いてください。いいですか」
「ええ、大丈夫です」
本当に大丈夫だろうか。正直俺自身、賭けだと思っている。
でもここまで出てしまった以上、多分後に引かない方がいい。
だから言う。
「風遊美さんの名前、風遊美さんが思い出せないという以前の名前を、エリカさんは知っていますね、イエス・ノーだけで答えてください」
風遊美さんの顔がさっと強張る。
「何故それを修さんが……」
「あくまで、イエス・ノーで答えてもらってください」
ここからは俺の賭けだ。
ただ風遊美さんが持っている、香緒里ちゃん制作の幸運のペンダントが、何故か俺を励ましてくれているような気がする。
だから俺はあえて暴走する。
風遊美さんはエリカさんに、俺のわからない言葉で問いかける。
彼女は少し困ったような顔をして少し考え、でも確かにある返事をする。
ドイツ語がわからなくても、その返事が何を意味しているかくらいは俺にもわかる。
「では次の俺の言葉を直訳してください。『だからあなたは、私をテオドーラと呼ぶのですね』」
さっとエリカさんの表情が変わった。
翻訳しなくても意味が伝わったらしい。
強張って、困惑して、落ち着いた表情に戻って。
そして風遊美さんに何か語りかける。
「何故それがわかったのですか、と聞いています」
「冬休みに風遊美さん自身から聞いたんです」
ここからが仕上げだ。
失敗は許されない。
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