機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第30章 冬はつとめて(2) ~修4年冬編・後半~

151 プログレス計画・起動

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 俺の部屋に座敷童子が出没するようになった。

 俺のパソコンの研究用ファイルや、部屋に置いてある試作品等を勝手に漁っていく。
 その正体は勿論詩織ちゃんだ。
 そしてその理由もわかっている。

「修先輩、魔法杖の魔力増幅機構について教えてほしいのです!」

 1月2日、午後3時45分。
 帰省から戻ったばかりの俺は、いきなり詩織ちゃんにそうお願いされた。

「何で。杖でも作るのか」

 詩織ちゃんの魔力は島内でも最強級。
 しかも自分用に改造した魔力増幅アミュレットも所持している。
 悪用厳禁ということで学園祭時に取り上げたのだが、結局休み前に返してやったのだ。
 相変わらず本土に時々出かけているようだが、まあそれ位は大目に見てやろう。

「理由は秘密なのです。でも最強に近い増幅機構がどうしても欲しいのです」

 まあ勉強するのはいい事だ。
 それにこの分野、学問としてまとまっていないので、調べるのは結構大変。
 俺も網羅するのに半年以上かかった。
 だからまあ、協力はしてやろう。

「なら俺の資料は全部貸してやる。試作品もこの部屋にあるのは自由に持っていっていい。でも質問はどうしても分からない処限定な。その条件でどうだ」

「ありがとうなのです。では早速めぼしいものを分析させて頂くのです」

 詩織ちゃんは審査魔法は無いが、外から見えない部分等も高次元的に見て確認する事が出来る。
 しかも視覚の分解能が常人の数倍らしい。
 どういう視力をしているのかはよくわからない。
 何せ5.0まである視力検査表でも、読めない場所は無いらしいから。

「あと俺のパソコンも俺が使っていない時は自由に使っていい。このパソコンでクラウドディスクを開けば、俺がまとめた関連論文等の資料庫がある。俺の論文の下書き等も入っているから適当に見て、必要ならコピーしてくれ」

「協力、ありがとうなのでございます」

 微妙な敬礼で返される。
 そして詩織ちゃんは早速、最強杖試作品の招き猫ストラップを持って消えた。

 
 実は今、俺は詩織ちゃんの作業と同じ方向性にある作業にとりかかろうとしている。
 今までの理論を超える魔力増幅理論の構築と、その実証物たる最強の杖。

 確かに奈津希さんに渡したものは現在技術の最先端に近い、最強の魔法操作支援具だ。
 だが所詮、集大成でしかない。
 類似品こそ江田先輩に渡したものしか無いが、あくまで既存理論の整理と統合の産物。

 だが既存論文をほぼ網羅し集大成の最強杖を作った現在の俺には、うっすらとだが新たな方向性と理論が見え始めている。
 今までの理論の、更にその先にあるもの。
 仮に名前を『進化プログレス』とでも名付けようか。

 まずは今見えかけている理論の整理。
 そして実証用の試作品の制作だ。
 俺は思考メモ用のテキストエディタと、試作品設計用のCADを画面に表示する。

 さあ、始めよう。

 ◇◇◇

 まずは実証用と比較用の杖の制作だ。
 比較用とは今までの理論を総動員したもの。
 要は奈津季さん用のボールペンを、杖として再設計した代物だ。

 まずはこちらから取り掛かるべきだろう。
 内容も方針も見えているし、作成中に新たな気づきもあるはずだ。

 なお、このマンションに本日滞在しているのは俺の他に3人。
 風遊美さん、奈津季さん、詩織ちゃんの3人だ。

 この3人は帰省しない組。
 俺のいない間は3人で適当に、この部屋で過ごしていたらしい。

 ちなみに今年の授業は7日スタート。
 ほとんどの面子は5日午後の飛行機で戻ってくる予定だ。
 そして。

「そろそろ皆が帰って来た時の御馳走の調達をしようぜ」

 奈津季さんが夕食時に、そう提案。
 要は明日釣りに行こうぜ、というお誘いだ。

「いいですね。そろそろ冷凍食品以外も食べたいですし」

「一発、大きいのを狙うですよ」

 2人とも乗り気。

「でも、今回は魚群探知機はいませんよ」

「代わりに潜水艇があるじゃないか」

 お、そう来たか。

「でも冬の海なんて寒いですよ」

「ここは南国だぜ。冬だって海水温は20℃ある」

 それって潜るには結構冷たい気が……

「それに水中と水上では電波は通じにくいですよ。長波帯のトランシーバなんて代物は無いですし」

「そうか。なら残念だが下手な鉄砲方式で行くか。

 つまりレーダー無しか。

「数撃ちゃ当たるですよ、きっと」

 景気いい事を詩織ちゃんは言うけれど……

 ◇◇◇
 
「釣れねえ」

 ジェニーの有り難みを、俺達は思い切り認識する事になった。

 開始から2時間。いつもと場所はほぼ同じ。
 使っている仕掛けも下ろしている深さもほぼ同じ。

 でも、釣れない。悲しいくらいに竿が動かない。
 竿も1本増え4人共に構えているのに全然釣れない。

「諦めて小さい仕掛けで小物を狙いましょうか」

「でも14人の大所帯だろ。小さいのだと圧倒的に量が足りない」

 14人で、かつ皆よく食べるしな。

「なら仕方ないです。そろそろ必殺技を出すのです」

 詩織ちゃんがそう言って、リールを巻き始める。
 完全にリールを巻いて、自分の仕掛けも全て片付けてしまった。

 その代わりに取り出したのは、見覚えあるアイテム2つ。
 例の詩織ちゃん改造済みアミュレットと招き猫型最強杖試作品だ。
 学園祭で田奈先生オヤジがやっていたのと同じように両手で2つの魔道具を握って、一気に魔力を増大させる。

「おいおいこれって」

 それほど魔力感知が得意でない俺でもわかる位凶悪な魔力だ。
 風遊美さんがさささっと自分の釣り道具を片付ける。
 俺や奈津希さんもそれに倣う。

 そして。

 ドン、という大きな音とともに、船が揺れた。
 現れたのは巨大な魚。豪快に跳ねている。
 奈津季さんが冷却魔法で強引にとどめを刺し、船倉に巨体を押し込んだ。

「毒は無いですね」

「カンパチだね」

「重さ12kgです」

 医療魔法担当、調理担当、そして審査魔法持ちの俺の感想は以上になる。
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