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第32章 学生会は卒業したけれど
170 聟島温泉営業中?
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夜8時。マンションに帰ると、想像以上に部屋が温泉旅館化していた。
まず入ると、玄関とLDKの境に紺染めの暖簾が下がっている。
そして折りたたみテーブルが卓球台モードになっていて、浴衣姿の女子が卓球している。
更に部屋の反対側では、カラオケ大会になっていて……
全員浴衣に羽織姿。
ご丁寧にも棚に、さるぼぼとかいかにもという民芸品が並んでいる。
スリッパまで、いつの間にか和風のイグサ仕様になっているし。
ここは確か、俺の日常の住まいだよな。
俺は今朝、同じこの部屋を出たんだよなと再確認したくなる。
ただ部屋内にいる面子は、間違いなくいつもの面子だ。
若干2名知らない女子がいるけれど、想定の範囲内。
「あ、修兄、おかえりなさい」
そう言う香緒里ちゃんも浴衣姿だ。
「どうしたんだ、これ」
「理奈が注文したのが今日届いたんです。全員分プラスアルファあります。修兄のも」
うん、服装系でこういうおいたをやるのは、間違いなく理奈ちゃんだよな。
「で、このスリッパと暖簾は」
「これも一緒に注文したそうです。あと露天風呂も少し改装中です」
うーん、そのうち聟島温泉とでも看板出そうか。
そう思いながら部屋に入ろうとして、知らない顔2人がこっちを見ているのに気づいた。
とりあえず挨拶しておこう。
「どうも初めまして。前学生会長で魔法工学科5年生の長津田です。ここのの南西角の部屋に住んでいるので、今後結構顔を出すと思います。どうぞよろしく」
「あ、私は補助魔法科1年の日吉と言います」
「私は同じく補助魔法科の綱島と申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ宜しく。色々変わったのが多いけど、大目に見てやってくれ」
「変なのとは何ですか、変なのとは」
おなじみの声が聞こえた。
「お前だ。変なのの代表取締役監査担当」
「変なのの前代表兼番頭に言われたくないのです」
「魔法だけでフランスまで行くような常識外に言われる筋合いはない」
「それを可能にしたのは、どこの変態なのですか」
台詞ほど口調は激しくない。
まあいつものご挨拶という奴だ。
室内をざっと見回して、いない人間を確かめる。
由香里姉達は今頃大学の新歓だろうから、他にいないのは……
「ルイスやロビーは帰ったのか」
風遊美さん以下の女子連は全員揃っている。
「露天風呂が男性時間帯なので、今ゆっくりしています」
お、ついに男性女性で時間をわけたか。
これは大きな進歩だ。
「お、じゃあ俺も入ってこようかな」
「夕ご飯は大丈夫ですか」
「今日は研究室の新歓で食べてきた。ありがとう」
香緒里ちゃんに礼を言って、温泉卓球中の風遊美さんとジェニー、カラオケ中のソフィーと愛希と理奈に軽く礼をして自分の部屋に入る。
しっかりと俺の机上にある浴衣を一応手にとって、そして服を脱いで露天風呂へ。
露天風呂をひと目見た瞬間、ついこう言ってしまった。
「何だこれは」
少なくとも今朝までは今まで通りだった露天風呂が、かなり様相を変えている。
樽湯の背後と左右には造花らしい笹垣が並び、コンクリだった筈の足元は玉砂利を固定したものになっている。
所々に自然石っぽく見える、おそらくは模造石が置かれ、更に飛行機械スペースとの境も竹垣になっている。
要は完全に、日本風の露天風呂っぽく仮装されている訳で……
珍しくいつもの樽湯でなくぬる湯の方にいる、ルイスに聞いてみる。
「これ、いつの間に改装したんだ」
「今日の4限以降を潰して、風遊美さん監修の元、詩織とロビーでやったそうだ」
「材料は全部揃っていたデス。だから簡単だったデス」
確かにこれは、風遊美さんとか香緒里ちゃんの好み系だ。
詩織ちゃんなら、ダビデ像くらい作りかねないから。
そして湯質まで変わっている。
「ろ過装置にも手を入れたデス。一部の温泉の元は濾過されすに循環しているデス。洗い場の関係もあるのでメイン浴槽と樽湯だけデス」
「何かもう、完全に温泉旅館のノリだな」
冗談ではなく、聟島温泉旅館になる日は近そうだ。
でもまあ、男女混浴ではなくなったしいいとするか。
よし、今までは女性陣が多くて試せなかった、サウナと歩行湯を試しに行くぞ!
ヤケか悪ノリかは自分でもよくわからないが、そんな感じで始めてこの屋上露天風呂を満喫させてもらった。
◇◇◇
ヤケになったついでに、風呂上がりに浴衣を羽織る。
何気になかなか着心地がいい。
イグサ製スリッパでペタペタと部屋を出る。
「どうだったのですか、露天風呂改装は?」
詩織ちゃんの質問に正直に答える。
「残念ながらいい出来だ。それは認める」
「本当は歩行湯の中心にダビデ像を作ろうとしたのですが、皆に全力で反対されたのです」
「それは確かに、反対する方が正しいだろ」
「あとマッサージチェアを作れば、温泉旅館化計画は一応の完成なのです」
いや、これ以上やらなくていいから。
既にもうやりすぎだ。
「更に温泉旅館の名前を決めて、ジェニーさんにマスコットキャラと手ぬぐいを作って貰えば完璧なのです」
「いやそれはもういいから」
でもマッサージチェアがあれば、確かに気持ちいかもな、なんて考えてしまい、慌てて頭の中から雑念を払う。
と、今度はカラオケで1曲歌い終えた風遊美さんがこっちにやって来た。
「どうでした、露天風呂の改装」
「雰囲気は大分出ていましたけれど、材料とかはどうしたんですか」
「浴衣と羽織は、理奈さんがお店を知っていました。露天風呂の資材は、実は詩織さんが知っているというお店に2人で買いに行ったんです。昨日港に荷物が着いたそうで、今日の3限終了後に詩織さんに受け取ってもらいました」
どこの店かは、だいたい想像がつく。
「詩織、またジョ●フル本田に行ったな」
「月曜にこっそり、風遊美先輩と千葉ニュータウンデートをしたのですよ」
やっぱり……
ふと一瞬、微妙な疑念が頭をよぎった。
「まさかと思うますけど風遊美さん、詩織ちゃんの杖を使って、こっそり東京お出かけなんてしていないですよね」
風遊美さんが露骨にうろたえる。
「そ、そんな事、する訳は……ちょっとだけです。2回程……」
やっぱり。
「詩織ちゃん、まさかと思うけれど、その杖で色々やる事を認めさせるため、プリン保管庫の時みたいに皆を本土で買ってきたパンや食べ物で買収していないよね」
あからさまに全員がそっぽを向いた。
それこそ風遊美さん香緒里ちゃんジェニーから、愛希ちゃん理奈ちゃんロビーまで。
それどころか新1年生2人も既に買収済みの気配が……
様子を見る限り、堅物のルイス以外は全員買収済みのようだ。
おいおいおいおい。
俺は一度自分の部屋に戻る。
洋服ダンスの左奥に、俺の資材の予備がある程度入っている。
これは学校だけでなく、自宅で色々思いついた時の工作用だ。
必要だと思われる材料は、一通り揃えてある。
使うのは共通の材料のほか、空間魔法、寒冷魔法、医療魔法用の魔石と紅水晶。
よし、材料は全部ある。
俺はカバンからヘリテージ1号を取り出し、複製魔法を発動する。
ほぼ3分間で、予定通りのものが完成。
軽く魔力を通して確かめる。
うん、1号よりも2号よりも微妙に出来がいいな。
複製魔法に慣れたせいかもしれない。
という訳で、作成したばかりのヘリテージ3号を持ってリビングに戻って、ちょっと反省している風遊美さんに3号を渡す。
「2人で1本使うよりは、この方が安全でしょう。でも無理はしないでくださいよ」
「え、でもこれ、いいのですか」
そう言っている風遊美さんの横。
「ブーブー」
ブーイングしている奴がいる。
「煩い、だまらっしゃい!」
「ブー、ブー、修先輩は私に厳しいけど、風遊美先輩には甘いのです。これは差別です差別反対なのです。謝罪と賠償を要求するのです」
「あまり好き勝手言うと、杖を取り上げるぞ」
「あれは約束済みなので、次の新型が出るまで私のなのです。なのでとりあえず賠償を要求するのです」
そう言って出したのは、3枚のレシートと1枚の領収書。
レシートの項目を見ると、どうも今回の温泉旅館化に使用したものらしい。
領収書の方は浴衣と羽織の代金のようだ。
「わかったわかった。これは払ってやる」
そう言いながら、俺は何故レシートが3枚に分かれているか気づいた。
「これ、レシートがそれぞれ10万円以上にならないようにしているのは、確信犯だな」
「10万円以下にしておけば、消耗品などとして全額損金経理処理が出来るのです。だからレシートは10万円にいかないように分けて会計しておけ。そう親父に教えられたのです」
何だその、悪すぎる英才教育は。
「とんでもない親父だな。でもまあ正解だ」
俺はレシートと領収書を持って自分の部屋に戻り、洋服ダンス右奥にある金庫を開けて現金と封筒を用意する。
そろそろ手持ちが少なくなった。
近いうちに銀行で下ろしてくる必要があるな。
詩織行きと理奈行きの袋を作って、それぞれちょうどの金額を入れる。
そして部屋に戻る。
「おいよ、代金精算」
詩織ちゃんは金額を確認して、片方を理奈ちゃんに渡す。
「よーし、夏の活動資金ゲット!」
おいおい。
「俺は浴衣代を返しただけだけどな」
理奈ちゃんはにやりと笑う。
この子の笑い方は、相変わらず悪そうだ。
「この業者は私の懇意の業者なので、少しだけバックが有るのです」
「あー、癒着だ!悪徳商人だ!」
愛希ちゃんが指を指して非難。
しかし理奈ちゃんは、平然としている。
「この業者さんに廃業されては、私のコス入手先が減るので困るのですわ。皆さんもどうですか。コミケ前の繁忙期を除けば、テキスタイル物は何でも1品から作ってくれて、安いし早いですよ。さしあたっては聟島温泉のペナントでも……」
「こら、こんな処で営業するな」
理奈ちゃんはルイスに軽いチョップを食らう。
そのついでに彼女はばさっとわざとらしく倒れて顔を抑えた。
「目、目がああっ!」
「あのー、いつもこんな感じなのでしょうか」
1年生の綱島さんが、香緒里ちゃんに尋ねる。
「ここまで酷いのはめったに無いです。でもまあ、近い状況は……たまには……」
いや、と俺は思う。
いつもでは無いけれど、結構あるぞ。
しかも年々酷くなっている、絶対に。
まず入ると、玄関とLDKの境に紺染めの暖簾が下がっている。
そして折りたたみテーブルが卓球台モードになっていて、浴衣姿の女子が卓球している。
更に部屋の反対側では、カラオケ大会になっていて……
全員浴衣に羽織姿。
ご丁寧にも棚に、さるぼぼとかいかにもという民芸品が並んでいる。
スリッパまで、いつの間にか和風のイグサ仕様になっているし。
ここは確か、俺の日常の住まいだよな。
俺は今朝、同じこの部屋を出たんだよなと再確認したくなる。
ただ部屋内にいる面子は、間違いなくいつもの面子だ。
若干2名知らない女子がいるけれど、想定の範囲内。
「あ、修兄、おかえりなさい」
そう言う香緒里ちゃんも浴衣姿だ。
「どうしたんだ、これ」
「理奈が注文したのが今日届いたんです。全員分プラスアルファあります。修兄のも」
うん、服装系でこういうおいたをやるのは、間違いなく理奈ちゃんだよな。
「で、このスリッパと暖簾は」
「これも一緒に注文したそうです。あと露天風呂も少し改装中です」
うーん、そのうち聟島温泉とでも看板出そうか。
そう思いながら部屋に入ろうとして、知らない顔2人がこっちを見ているのに気づいた。
とりあえず挨拶しておこう。
「どうも初めまして。前学生会長で魔法工学科5年生の長津田です。ここのの南西角の部屋に住んでいるので、今後結構顔を出すと思います。どうぞよろしく」
「あ、私は補助魔法科1年の日吉と言います」
「私は同じく補助魔法科の綱島と申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ宜しく。色々変わったのが多いけど、大目に見てやってくれ」
「変なのとは何ですか、変なのとは」
おなじみの声が聞こえた。
「お前だ。変なのの代表取締役監査担当」
「変なのの前代表兼番頭に言われたくないのです」
「魔法だけでフランスまで行くような常識外に言われる筋合いはない」
「それを可能にしたのは、どこの変態なのですか」
台詞ほど口調は激しくない。
まあいつものご挨拶という奴だ。
室内をざっと見回して、いない人間を確かめる。
由香里姉達は今頃大学の新歓だろうから、他にいないのは……
「ルイスやロビーは帰ったのか」
風遊美さん以下の女子連は全員揃っている。
「露天風呂が男性時間帯なので、今ゆっくりしています」
お、ついに男性女性で時間をわけたか。
これは大きな進歩だ。
「お、じゃあ俺も入ってこようかな」
「夕ご飯は大丈夫ですか」
「今日は研究室の新歓で食べてきた。ありがとう」
香緒里ちゃんに礼を言って、温泉卓球中の風遊美さんとジェニー、カラオケ中のソフィーと愛希と理奈に軽く礼をして自分の部屋に入る。
しっかりと俺の机上にある浴衣を一応手にとって、そして服を脱いで露天風呂へ。
露天風呂をひと目見た瞬間、ついこう言ってしまった。
「何だこれは」
少なくとも今朝までは今まで通りだった露天風呂が、かなり様相を変えている。
樽湯の背後と左右には造花らしい笹垣が並び、コンクリだった筈の足元は玉砂利を固定したものになっている。
所々に自然石っぽく見える、おそらくは模造石が置かれ、更に飛行機械スペースとの境も竹垣になっている。
要は完全に、日本風の露天風呂っぽく仮装されている訳で……
珍しくいつもの樽湯でなくぬる湯の方にいる、ルイスに聞いてみる。
「これ、いつの間に改装したんだ」
「今日の4限以降を潰して、風遊美さん監修の元、詩織とロビーでやったそうだ」
「材料は全部揃っていたデス。だから簡単だったデス」
確かにこれは、風遊美さんとか香緒里ちゃんの好み系だ。
詩織ちゃんなら、ダビデ像くらい作りかねないから。
そして湯質まで変わっている。
「ろ過装置にも手を入れたデス。一部の温泉の元は濾過されすに循環しているデス。洗い場の関係もあるのでメイン浴槽と樽湯だけデス」
「何かもう、完全に温泉旅館のノリだな」
冗談ではなく、聟島温泉旅館になる日は近そうだ。
でもまあ、男女混浴ではなくなったしいいとするか。
よし、今までは女性陣が多くて試せなかった、サウナと歩行湯を試しに行くぞ!
ヤケか悪ノリかは自分でもよくわからないが、そんな感じで始めてこの屋上露天風呂を満喫させてもらった。
◇◇◇
ヤケになったついでに、風呂上がりに浴衣を羽織る。
何気になかなか着心地がいい。
イグサ製スリッパでペタペタと部屋を出る。
「どうだったのですか、露天風呂改装は?」
詩織ちゃんの質問に正直に答える。
「残念ながらいい出来だ。それは認める」
「本当は歩行湯の中心にダビデ像を作ろうとしたのですが、皆に全力で反対されたのです」
「それは確かに、反対する方が正しいだろ」
「あとマッサージチェアを作れば、温泉旅館化計画は一応の完成なのです」
いや、これ以上やらなくていいから。
既にもうやりすぎだ。
「更に温泉旅館の名前を決めて、ジェニーさんにマスコットキャラと手ぬぐいを作って貰えば完璧なのです」
「いやそれはもういいから」
でもマッサージチェアがあれば、確かに気持ちいかもな、なんて考えてしまい、慌てて頭の中から雑念を払う。
と、今度はカラオケで1曲歌い終えた風遊美さんがこっちにやって来た。
「どうでした、露天風呂の改装」
「雰囲気は大分出ていましたけれど、材料とかはどうしたんですか」
「浴衣と羽織は、理奈さんがお店を知っていました。露天風呂の資材は、実は詩織さんが知っているというお店に2人で買いに行ったんです。昨日港に荷物が着いたそうで、今日の3限終了後に詩織さんに受け取ってもらいました」
どこの店かは、だいたい想像がつく。
「詩織、またジョ●フル本田に行ったな」
「月曜にこっそり、風遊美先輩と千葉ニュータウンデートをしたのですよ」
やっぱり……
ふと一瞬、微妙な疑念が頭をよぎった。
「まさかと思うますけど風遊美さん、詩織ちゃんの杖を使って、こっそり東京お出かけなんてしていないですよね」
風遊美さんが露骨にうろたえる。
「そ、そんな事、する訳は……ちょっとだけです。2回程……」
やっぱり。
「詩織ちゃん、まさかと思うけれど、その杖で色々やる事を認めさせるため、プリン保管庫の時みたいに皆を本土で買ってきたパンや食べ物で買収していないよね」
あからさまに全員がそっぽを向いた。
それこそ風遊美さん香緒里ちゃんジェニーから、愛希ちゃん理奈ちゃんロビーまで。
それどころか新1年生2人も既に買収済みの気配が……
様子を見る限り、堅物のルイス以外は全員買収済みのようだ。
おいおいおいおい。
俺は一度自分の部屋に戻る。
洋服ダンスの左奥に、俺の資材の予備がある程度入っている。
これは学校だけでなく、自宅で色々思いついた時の工作用だ。
必要だと思われる材料は、一通り揃えてある。
使うのは共通の材料のほか、空間魔法、寒冷魔法、医療魔法用の魔石と紅水晶。
よし、材料は全部ある。
俺はカバンからヘリテージ1号を取り出し、複製魔法を発動する。
ほぼ3分間で、予定通りのものが完成。
軽く魔力を通して確かめる。
うん、1号よりも2号よりも微妙に出来がいいな。
複製魔法に慣れたせいかもしれない。
という訳で、作成したばかりのヘリテージ3号を持ってリビングに戻って、ちょっと反省している風遊美さんに3号を渡す。
「2人で1本使うよりは、この方が安全でしょう。でも無理はしないでくださいよ」
「え、でもこれ、いいのですか」
そう言っている風遊美さんの横。
「ブーブー」
ブーイングしている奴がいる。
「煩い、だまらっしゃい!」
「ブー、ブー、修先輩は私に厳しいけど、風遊美先輩には甘いのです。これは差別です差別反対なのです。謝罪と賠償を要求するのです」
「あまり好き勝手言うと、杖を取り上げるぞ」
「あれは約束済みなので、次の新型が出るまで私のなのです。なのでとりあえず賠償を要求するのです」
そう言って出したのは、3枚のレシートと1枚の領収書。
レシートの項目を見ると、どうも今回の温泉旅館化に使用したものらしい。
領収書の方は浴衣と羽織の代金のようだ。
「わかったわかった。これは払ってやる」
そう言いながら、俺は何故レシートが3枚に分かれているか気づいた。
「これ、レシートがそれぞれ10万円以上にならないようにしているのは、確信犯だな」
「10万円以下にしておけば、消耗品などとして全額損金経理処理が出来るのです。だからレシートは10万円にいかないように分けて会計しておけ。そう親父に教えられたのです」
何だその、悪すぎる英才教育は。
「とんでもない親父だな。でもまあ正解だ」
俺はレシートと領収書を持って自分の部屋に戻り、洋服ダンス右奥にある金庫を開けて現金と封筒を用意する。
そろそろ手持ちが少なくなった。
近いうちに銀行で下ろしてくる必要があるな。
詩織行きと理奈行きの袋を作って、それぞれちょうどの金額を入れる。
そして部屋に戻る。
「おいよ、代金精算」
詩織ちゃんは金額を確認して、片方を理奈ちゃんに渡す。
「よーし、夏の活動資金ゲット!」
おいおい。
「俺は浴衣代を返しただけだけどな」
理奈ちゃんはにやりと笑う。
この子の笑い方は、相変わらず悪そうだ。
「この業者は私の懇意の業者なので、少しだけバックが有るのです」
「あー、癒着だ!悪徳商人だ!」
愛希ちゃんが指を指して非難。
しかし理奈ちゃんは、平然としている。
「この業者さんに廃業されては、私のコス入手先が減るので困るのですわ。皆さんもどうですか。コミケ前の繁忙期を除けば、テキスタイル物は何でも1品から作ってくれて、安いし早いですよ。さしあたっては聟島温泉のペナントでも……」
「こら、こんな処で営業するな」
理奈ちゃんはルイスに軽いチョップを食らう。
そのついでに彼女はばさっとわざとらしく倒れて顔を抑えた。
「目、目がああっ!」
「あのー、いつもこんな感じなのでしょうか」
1年生の綱島さんが、香緒里ちゃんに尋ねる。
「ここまで酷いのはめったに無いです。でもまあ、近い状況は……たまには……」
いや、と俺は思う。
いつもでは無いけれど、結構あるぞ。
しかも年々酷くなっている、絶対に。
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