機械オタクと魔女五人~魔法特区・婿島にて

於田縫紀

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第36章 お役目のない学園祭

190 お役目のない学園祭に

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 俺や等々力や世田谷が研究室で唸っている間も、月日は過ぎていく。

 例えば学生会HPに連載中の『頭文字D』で、ルイスが黒魔女に初めて勝ったり、同じく『雨の初寝坂』では逆にルイスが黒魔女に喰われたり……
 ルイスと世田谷ばかりだけれど、来年の登場人物は大丈夫なのだろうか。

 それはともかく、学園祭の日がやって来た。
 久しぶりにお役目が無い学園祭なので、のんびり楽しもうと思う。

 そして今、俺は今は人のいない屋上でぼたもちを食べている。
 ちなみに餡は半殺しだ。

 何故屋上にいるかというと、人混みが苦手だから。お祭りそのものは嫌いではないのだけれど。
 祭はこれくらい離れて、賑わいを他人事のように見るに限る。
 花見だって『見わたせば柳桜をこきまぜて……』位の距離が一番綺麗だ。

 なお簡易潜水艇は祭りの期間中、学生会に貸し出した。
 いざという時に、何処にでも急行できる乗り物が欲しい、という要請に応えてだ。

 今年も怪しげなバトルを海上でやっていて、飛行漁船はそっちに貸している状態らしい。
 由香里姉の飛行キャンピングカーは、昨年同様、月見野先輩主宰の怪しげなリラクゼーションサロンに転用されているとの事だ。

 あのリラクゼーションサロン、何気に評判いいらしい。
 俺なら怖くて絶対近づかないけど。

 そんな感じで人目には寂しく、本人は実にまったりと祭りを楽しんでいた時だ。

「修兄、ここにいたんですね」

 よく知っている声がした。
 振り向くまでもない。

「どうしたの、香緒里ちゃん」

「学生会の休み番で、ちょっと一息いれようと思って」

 香緒里ちゃんは俺の隣にやってくる。

「祭りの方は順調?」

 そう言いつつ、俺はぼたもちを1個香緒里ちゃんに薦める。
 2個セットだったのだけれど、2個は俺には多すぎるし。

「ありがとう、頂きます。お祭りの方は順調ですね。今の処事故は無いようですし。テントが3張り壊れてロビーに補修してもらった位です」

「なら許容範囲か」

 例年はしゃぎ過ぎで物品を壊すのは、まあ学園祭のお約束だ。

「このぼたもち、創造製作研究会のですか」

「ああ、今年も味は落ちてないな。器用貧乏な先輩が常駐しているようだし」

 香緒里ちゃんも一時期創造製作研究会にいたので、玉川先輩を知っている。

「玉川先輩ですか、確か今は修兄と同じ研究室ですよね」

「研究活動そのものの接点は無いけどな。相変わらず幸薄そうだけれど、元気だよ」

「元気、って言っていいんですか、あの人」

「玉川先輩は顔色青くて疲れ切った状態がデフォルトなの」

 酷い事を言いながら、のんびりぼたもちを食べる。
 まあ玉川先輩は実際そういう人だ。
 身長178cm体重45kgとか血圧上78下43、体温は34℃台で普通の体温計では測定不能。
 既に研究室内では活動屍体リビングデットというあだ名が定着している。

 ところで香緒里ちゃんは、何故ここへ来たんだろう。
 最初の台詞から、俺を探していたんだろうという事は想像できる。
 でもなかなか本題に入らない。

 あえて、俺からは聞かない。
 実は色々予想はしているし、どうなるかも想定はしているし、準備も実はしてあるけれど。

「研究室と言えば、修兄はどうやって決めたんですか」

 これは本題の質問だろうか、それとも話の流れだろうか。
 何れにせよ、真面目に答える。

「元々魔道具作りを自分でも研究していたしさ。新しい研究室を発足させるって話も、新地先生から聞いていた。だからある意味、自然な成り行きだったんだと思う」

「実は3つ程、声をかけられている研究室はあるんです。でもちょっと悩んでいて」

「それはなかなか多いな。魔法基礎理論と魔法情報科学と、あと補助魔法系?」

 香緒里ちゃんは顔を上げ、改めて俺の方を見た。

「知っていたんですか」

「何やかんや言って狭い学内だし。香緒里ちゃんの件で俺に当たりつけてくる処もある位だ。そっちの研究室で強引に引っ張る気はないよな、って」

「修兄はどう思いますか」

 この辺りの答えは用意済みだ。
 この前の夕食時、由香里姉とこの話題になった時から考えてある。

「それは香緒里ちゃんが決める事かな。何処を選んでも出来る事はバックアップするし協力もするけれど、決めるのは香緒里ちゃん自身だろ」

 そこは譲らない。たとえ香緒里ちゃんであっても。

「私、今までは由香里姉か修兄の後を、ずっと追って来ただけなんですよね、実際」

 その台詞は想定内だ。しかし本当にそうだろうか。

「俺はそうは思っていない。外形的にだけ結果を見れば、そう見えるかもしれないけれど。例えばこの学校をあえて攻撃魔法科でなく魔法工学科で受験して入学するなんて、ただ後を追って来ただけなら絶対無理だ。公立の最難関校以上の難易度はあるしさ、これでも。
 由香里姉や俺の後を追うだけなら、香緒里ちゃんなら攻撃魔法か補助魔法でもっと簡単に合格できたはずだ。そこに香緒里ちゃんの意思なり努力なりが無かったとは俺は思わない。学校の課題だって最初だけは手助けした。しかし後はほぼ全部、香緒里ちゃんの作品だ。
 香緒里ちゃん自身は意識していないにせよ、ちゃんと自分で考えて自分で決めてきた筈なんだ。この前の学生会の旅行だってそうだろ。行き先なんか俺の時と全然違うし」

「そうかもしれないですけどね」

「由香里姉は、選択が色々左右するなんて言ったけれどさ。少なくとも魔法工学科関連は、もっと自由に考えても大丈夫だ。学科自体の定義すらまだ完全に固まっていない状態だし、大学で学科を変えた先輩だっている。今の先生方だって経歴は色々だしさ。攻撃魔法の専門家以外は、多かれ少なかれ他の学科や他の学部の影響を受けているし」

 ここまでは、用意していた答えと一般論だ。
 ここから香緒里ちゃんはどう出るか。
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